第002話:目覚めの饗宴〜五感で味わう推しキャラの身体!〜

深海の底から、ゆっくりと意識が浮上する。


悠斗はゆっくりと目を開けた。


最初に視界に飛び込んできたのは、絢爛豪華な天蓋だった。繊細な彫刻が施され、金糸で縁取られた布が優雅に垂れている。


「ここは、、、?

見慣れない天井だな、、、」


悠斗は思わずベッドの上で跳ね起きた。


全身を包むのは、これまで感じたことのない、絹のように滑らかなシーツの感触だ。


ふわりと鼻をくすぐる、仄かで甘く重厚な香木の匂い。うっとりするほど心地よい。


「やっぱり、死んでしまったのかな???」


寝台から降り立つと、足元に敷かれた絨毯の厚みに驚いた。


「フワフワだ!こんなの、ウチのアパートには、、、

流石になかったな、、、笑。


というか、感触があるということは夢では無いか。。。」



彼は素足で絨毯の上を歩き回り、その感触を堪能した。

一歩踏み出すたびに、足の裏から伝わる柔らかな感触が、夢ではないことを教えてくれる。



部屋全体に広がる見慣れない調度品を、悠斗は目を輝かせながら観察する。


「うわー、全部高そう!!」


壁一面を飾る巨大なタペストリーには、優雅な貴婦人と猛々しい獅子が描かれ、精巧な彫刻が施された机や椅子は、まるで美術館の展示品のようだった。


「天国にしては、少し生活感があるか、、、」


天井まで届くほど高い書棚には、見たこともない文字で書かれた古めかしい本がぎっしりと並んでいる。


「うおお、これ全部読めるのか!? 」


彼は好奇心に駆られて一冊手に取り、その装丁の美しさに感嘆した。


革の表紙はしっとりと手に馴染み、金色の箔押しが陽光を反射して輝いている。


開けば、見たこともない紋様が描かれた挿絵が目に飛び込んできた。


窓からは、やわらかな朝陽が差し込み、部屋の中を幻想的に照らしている。空気は澄んでいて、どこか甘い香りが漂う。


まるで、ファンタジー映画の中に迷い込んだようだ。


悠斗は窓辺に立ち、深呼吸をした。胸いっぱいに吸い込まれる空気は、どこまでも新鮮で、心地よかった。


「ここは……どこなんだ?」


悠斗は呟いた。


その声は、かすれていて、そして自分のものとは違う。

男性にしてはやや高く、澄んだ響きを持つ声だ。


妙に耳馴染みのあるその声に、悠斗の胸に、ある予感がよぎる。


「ん?この声、なんか聞き覚えが……ハッ!まさか!?」


それは、とてつもない可能性を秘めた、心躍る予感だった。


部屋の外からは、微かな「音」が聞こえてくる。


使用人らしき人々のひそひそ話す声、

遠くで聞こえる馬車の蹄の音、

そして、どこかから聞こえる鳥のさえずり。


それらは、悠斗が前世で聞き慣れた日本の音とは全く違うものだった。



「実は生きてましたー!っていう線も完全に無くなったな。。。」


言語が日本語ではないのに完璧に理解できることに、悠斗は興奮と笑いを誘われた。



悠斗は窓に近づき、重厚なカーテンを勢いよく開けた。


そこに広がっていたのは、石造りの重厚な街並みだった。


「おおお!すげぇ!なんて綺麗な景色!!!ここまでくると流石に認めるしかないよな。


流行りの転生しちゃった、ってやつだよな。。。」



眼下には、日本では見たこともない幻想的な街並みが広がっていた。


「ってか、この街並み、まさか……!」



灰色の石畳の道、赤茶色の屋根が連なる家々、そして、遠くに見える壮麗な大聖堂。


どこか見覚えのある景色が、今、目の前に現実として存在している。


ふと空を見上げると、そこには巨大な鳥が優雅に旋回している。


その翼の美しさに、悠斗は息を呑んだ。



庭には、日本では見たこともない植物が色鮮やかに咲き誇っている。


「この景色、あの怪鳥、この花、、、、どれも見たことあるものばかりた!!


いや、まて、、、、この花なんか、ゲームの背景にいたぞ!

あのゲームの、しかもイベントが起こる場所の!」



悠斗は、自分がゲーム『光と闇のアストライア』の世界にいることに確信を深める。



全身の毛穴という毛穴が開きっぱなしになるほどの興奮だ。



そして、部屋の隅にある大きな鏡台に吸い寄せられるように近づいた。


青みがかった銀色の髪、琥珀色の瞳、そして見る者を射抜くような冷徹な顔立ち――


それが、ゲーム『光と闇のアストライア』に登場する、悠斗が最も注目し、熱狂的に愛した「悪役令息、アルフォンス・ヴァン・アストライア」そのものだったのだ!


鏡に映った自分の姿を見て、悠斗はついに叫んだ。


「うっそだろ!? アルフォンス!? マジかよ、俺!? 」


アルフォンスは作中でも異彩を放つ美貌とカリスマ性で、一部のプレイヤーには攻略対象キャラよりも人気があった。


悠斗もそんなアルフォンスに惹かれた一人だった。

彼の冷たい瞳の奥には、どこか憂いを秘めたような表情が常にあった。

そのギャップが、悠斗の心を掴んで離さなかったのだ。


悠斗は感情を爆発させ、鏡の前で踊り出したくなった。


まさか自分が、あのアルフォンスになるとは!


これは、最高のサプライズだ!


「こんなにリアルな異世界転生、まさに夢にまで見た展開じゃんか!」



悠斗は鏡の中のアルフォンスの顔を、自分の指でそっと触れてみた。


ひんやりとした感触が指先に伝わる。


紛れもない現実だ。


信じられない、信じたくないほどの、最高の現実だった。


彼は窓辺に戻り、改めて街を見下ろした。

太陽が昇り、街は少しずつ活気づいていく。


遠くから聞こえる教会の鐘の音、市場のざわめき。全てが、ゲームのワンシーンのようだ。


いや、それ以上の臨場感と彩りだ。


悠斗は、アルフォンスの身体で、この新しい世界をこれからどう生きるのか、いや、どう「プレイ」していくのか、胸が高鳴るのを感じた。


まるで、新しいゲームが始まったばかりの、最初の高揚感に包まれていた。


「これは、俺だけの、特別なゲームだ!」


彼は静かに、しかし確かな決意を胸に、アルフォンスとしての新たな人生の幕開けに立ち尽くしていた。

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