中尉の境界

チャシス・オレンジ

第1話「家族」

まえがき∶新作じゃあぁ!


めっちゃPV伸びて、やる気マックスなんで、土日も投稿します!


やったるで〜!



 ロイエンベルク歴296年、ミハイル・ディルゲン、10歳。

彼は、ロイエンベルク王国の、宮廷貴族の一員たる、ディルゲン男爵家に産まれた。


 ディルゲン男爵家の嫡男として、産まれたミハイルは、両親の愛を一身に受けて…居なかった。


 父親たる、ロイフェル・ディルゲンが、帰宅する。

ミハイルは、ロイフェルに駆け寄り、迎える。


 「父上!お疲れ様でした。おかえりなさい!

今日、家庭教師に褒められて…」


 「ミハイル、後にしなさい。まだ、やらなければならないことがあるのだ。」


 ロイフェルに、ピシャリと遮られ、ミハイルの笑顔が固まる。

ミハイルは、笑顔を消し、悲しげに俯き、答える。


 「…はい、申し訳ありません。父上。」


 ミハイルが立ち去る。その後ろ姿を、少しもどかし気に見つめた後、ロイフェルも、立ち去る。

良くある、宮廷貴族の家庭での風景、しかし、ミハイルのフラストレーションは溜まる。


 強い寂寥感。それを、癒やすはずの母親も、宮廷貴族として、働いており、両親が、家に帰ってこないことも、ザラであった。


 だが、ミハイルは、それでも、真っ直ぐに育っていた。

その理由は、乳母である、リリアナと、その息子であり、乳兄弟として育ってきた、アダルガーが居たからだ。


 リリアナは、精一杯の愛情をミハイルに注ぎ、アダルガーは、良き友人として、時に喧嘩をし、時に共に悪戯をし、強く、そして賢く過ごしてきた。


 そんな、少年期を過ごしていた、ある日の事。

アダルガーの紹介で、ミハイルは、アダルガーの友人に会っていた。


 王都の、レヴェルナー王立公園にて、アダルガーの友人と待ち合わせをする。

名を、バルドヴィーノ。平民階級で、アダルガーとは、尋常小学校で知り合ったという。


 ベンチに座り、アダルガーと共に、バルドヴィーノを待つ。

木漏れ日が心地良く、元気盛りな二人であっても、ついつい、眠たくなってくる。


 「お〜い、そこのお二人さん、起きてくれ〜」


 ふと、見知らぬ声が聞こえる、即座に、ミハイルの意識が覚醒し、アダルガーも、身構える。

日頃の教育の成果であった。

 ミハイルが、警戒するように、目の前に立つ、赤髪の少年を見つめる。


 如何にも腕白坊主といった風貌だが、そんな少年を見て、アダルガーが、安心したような、声を上げる。


 「なんだ、バルドヴィーノか!

ミハイル様、コチラの、赤髪で脳筋そうなのが、バルドヴィーノです。」


 「おい!そりゃあねぇよ、アダルガー!」


 「本当の事だろ?」


 バルドヴィーノが、心外そうに答える。

ミハイルは、そんな仲睦まじげな2人を見て、吹き出すように笑い、口を開く。


 「アハハハ!仲が良いんだな、2人とも。

アダルガーから聞いた通り、バルドヴィーノ、君は面白いな。」


 バルドヴィーノは、目を瞬き、戸惑いつつ答える。


 「お、おう。噂のミハイル様の、お眼鏡に叶ったなら、良かったよ。」


 今度は、ミハイルが戸惑う番だった。


 「噂?どういう事だ、アダルガー、聞いてないぞ?」


 アダルガーが、慌てたように口籠る。


 「あ!え、え〜と、いや。噂と言いますか、何と言いますか…」


 そんなアダルガーを見て、バルドヴィーノが、悪そうに笑顔を作り、口を開く。


 「ほほ~う。さては、アダルガーは内緒にしてたのかな?

ミハイル様、こいつは…」


 「あ、バカ!辞めろ」


 アダルガーが、慌てて、バルドヴィーノの口を塞ごうとする。

だが、バルドヴィーノは、軽快な身のこなしで、アダルガーの妨害を避け、続ける。


 「ミハイル様が、如何に立派な人物か、学校で言いふらしてたんですよ!」


 ミハイルは、少し驚いた後、顔を赤らめながら、アダルガーに、綺麗な笑顔を作りながら、問いかける。


 「ア〜ダ〜ル〜ガ〜?聞いてないぞ?

貴様、どのようなあること無いことを、言いふらしたのかな?」


 「ヒェッ!申し訳ありません、ミハイル様ぁ…」


 アダルガーは、心底怯えたように、ミハイルに頭を下げる。

末席とは言え、王国の男爵家の嫡男、そんな、ミハイルから放たれる威圧感は、庶民にとっては、かなりのものであった。


 バルドヴィーノも、少し気圧されながら、ミハイルに話しかける。


 「ま、まぁ、一応、名前は伏せてましたし…許してやってくれませんか?」


 ミハイルは、即座に威圧感を消し、自然な笑みを浮かべながら、肩を竦めて答える。


 「ま、それなら良いだろう。

だが、アダルガー、次、何か言いふらしたら、分かってるな?」


 アダルガーは、少し青ざめながら、何度も頭を縦に振る。


 「も、勿論です、ミハイル様。」


 ミハイルは、少し目を細め、バルドヴィーノに、話しかける。


 「バルドヴィーノ、アダルガーの監視、頼んだぞ?」


 「は、ハイ!分かりました!」


 バルドヴィーノは、貴族との繋がりができた事、そして、新たな友人が出来た事を喜びながら、張り切って答える。

アダルガーは、そんな2人の姿を、情けなく眉を下げながら、見つめていた。


 その後、三人は、公園に繰り出し、一頻り遊んだ後、公園に設置されている、屋根付きのテラスで、マッタリと話し合っていた。

ミハイルが、バルドヴィーノに笑い掛ける。


 「バルドヴィーノ、君、少しは手加減してくれても良いんだぞ?」


 「いえいえ、手加減なんて、そんな事、御貴族相手に、出来ませんよ。」


 「全く…」


 そうして、話していく内に、話題は、バルドヴィーノの家族の話へと、移り変わっていった。


 「バルドヴィーノ、君の所の両親も、夜遅くまで帰ってこなかったりするのか?」


 バルドヴィーノは、首を横に振り、答える。


 「いえ、そんな事は、余りありませんね。

基本的に、18〜20時位には、帰ってきますよ?

まぁ、2人とも疲れ果ててるんで、俺が、ご飯作ってあげてますけどね。」


 「…なん…だと?」


 ミハイルは、目を見開く。両親が働いているのは、このロイエンベルク王国では、常識だ。

むしろ、専業主婦や、専業主夫の方が、圧倒的少数派である。


 その為、何処の家でも、ミハイルと同じ状況だと、思い込んでいた。

だが、ミハイルは、両親が21時より前に帰ってきた事は、ほとんど無く、一緒にご飯を食べたことなど、一度も無かった。


 バルドヴィーノの家が、特別なのかと思い、問いかける。


 「それは、他の所でも、そうなのか?バルドヴィーノの家が、特別なのではなく?」


 バルドヴィーノは、まるで、常識を答えるかのように、答える。


 「いえ?まぁ、何処でもこんなもんだと思いますよ?」


 ミハイルは、愕然とした。だが、彼は、貴族にとっては、むしろミハイルの方が、普通であることを知っていた。

彼には、理解が出来なかった。

何故、王侯貴族だけ、このような、激務を背負わなければならないのだろうか?


 しかも、隷属契約により、無能なものは、自動的に排除される。

そんな契約を、背負っているのに、ここまで酷使される。

ミハイルには、それが、理不尽なものに思えて、ならなかった。

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