第4話 階段飯
新学期が始まって二週間が経った。
一年生の時は、四月は新しいこと尽くしでなかなか濃厚な時間を過ごしたものだが、二年生ともなれば新鮮なのは最初の一日、二日だけで、あっという間に『日常』に戻ってしまう。
「美咲っ!ご飯食べよ」
「おーん、まじお腹ペコペコでやばいー」
野々原美咲は気さくで、可愛くて、派手で、普通に良い子だ。
――だから、大人しくて、彼女と幽霊君ぐらいしかクラスではまともに喋ったことのない友彩じゃなく、他の女子たちとお昼ご飯を食べるようになるまで、そこまで時間はかからなかった。
「はあ…」
四月にして、昼休みの定位置は屋上に繋がる階段の最上階。自分でも虚しくなってしまう。
この学校の屋上は解放されていないため、ここまで来る人はそうそういない。現に、便所飯ならぬ階段飯中に誰かが来たことはまだ一度もない。
――今日、この時までは。
「あれ?こんなところで一人で食べてるの?」
「――」
「ちょっと、無視は酷くない?」
よりにもよって一番会いたくない人物がここにたどり着いてしまった。
「私、あの日からあなたのことを必死に視界に入れないよう頑張ってたんですけど」
「知ってるよ。幽霊だってわかって逃げ出しちゃったしね」
幽霊君は馬鹿にしたようにクスッと笑った。
休み時間や帰り際に度々声を掛けられてもフル無視したことは怒ってないようだ。
幽霊君がこっちを向くたびに、ちょっと怖くて涙目になってたのは黙っておこう。
「それで、何の用ですか?」
「んーん、別に用はないよ。ただ、教室にいないからどこに行ったのかなーって思って」
「そうですか」
麗しい顔立ちをちらりとも見ず、黙々とお弁当を食べ進めながらそう答える。
「そんなに怖がらないでくれない?」
「いやっ!それは無理でしょ!だって、本当にクラスの誰もあなたのこと見えてないみたいだし⋯毎日いないはずのものが見えるこっちの身にもなって!」
思わず目をかっぴらいて突っ込みを入れてしまった。怖がらないで、とか無理難題にも程がある。
顔を上げると、何が不満なのか口を尖がらせて幽霊君は階段の数段下に立っていた。
彼の体は透けてたり、浮いてたりはせず、明確にそこにある。けど、だからこそ誰の目にも止まらないことが気持ち悪い。
こんなイケメン、実際にクラスにいたら、きっと毎日女子に囲まれているだろうに。
「はあ…」
「ねえ」
「なに」
「もうすぐチャイム鳴っちゃうよ」
無駄口なんか叩いてないで、それを早く言ってほしかった。
まだ、お弁当の中身が半分も残っている。
とにかく、パッと食べれるウインナーとプチトマトだけ口に放り込んで、急ぎ足で階段を駆け下りる。
去り際、「待って」と幽霊君に腕を掴まれそうになって、ぎょっとしながら避けた勢いで盛大にずっこけたのはなかったことにしよう。
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