初戦闘
「な、なんでここに......」
振り返ると、同僚たちがニヤニヤしながら俺たちのことを見ていた。
「何? 知り合い?」
リリンが俺に聞いてきた。
「まぁ、一応......」
「はぁ!? 俺とお前が知り合いなんて対等な立場なわけねぇだろ!」
セイヤは、ズカズカと歩きながら俺に近づく。
そして、突然拳を振りかぶり、俺の頬を殴った。
「痛っ!」
殴られた勢いで、尻もちをつく。
「やっぱ、ライトは情けないねー」
ミキが俺のことを指差しながら笑う。
「な、なんてことするんですか!」
エルンが俺とセイヤの間に入る。
「あ? なんだお前?」
「ライトさんに手を出すなら、この私が許しませんよ!」
「ま、まてエルン!」
エルンはドラゴンでさえ瞬殺する力の持ち主だ。
ただの人間であるセイヤたちが耐えられるはずもない。
エルンの力を抑えつつ、セイヤもこれ以上手出しをしてこなくなりそうな指示を必死に考える。
「エルン! そいつを持ち上げろ!」
お互いの動きを止めつつ、危害を加えなさそうな指示をする。
すると、エルンは右手だけでセイヤの首を掴み、持ち上げた。
「ぐぁ......!」
首が締まるのか、セイヤは苦悶の表情を浮かべている。
「な、なんだこいつは!」
「セイヤ!? ちょっと! セイヤを放しなさいよ!」
リョウとミキが驚き、慌て始める。
このままでは、セイヤの息の根が止まるのも時間の問題だ。
「ラ、ライトさん! これで本当に大丈夫なんですか!?」
「ちょ、ちょっと待て! えーっと......。エルン! いったん離せ!」
俺がそう言いながら念じると、エルンは手を放した。
セイヤは地面に着地すると、咳を何度もした。
エルンに持ち上げられたのがよほど苦しかったのだろう。
「な、なんだこの化け物......! クソっ! 殺してやる!」
「セイヤにこんなことするなんて! 許せない!」
「そうだね。勇者である僕たちに歯向かうなら、容赦はしないよ」
同僚たちはそれぞれ構え始め、戦闘態勢に入る。
いくら殺意があるとはいえ、流石に人殺しは憚られる。
「ライトさん! どうしますか!?」
「それじゃあ......。エルン! 脅せ!」
「ええっ! 脅せって、そんな曖昧な......!」
だが、エルンの周辺に魔法陣が出現した。
そして、エルンは拳を振り上げ、地面を全力で殴った。
地面は大きく揺れ、殴った場所から地面に亀裂が入り始める。
その亀裂は、同僚たちの足元に向かって広がっていく。
「ねぇ! やばいんじゃない!?」
ミキが焦り始める。
セイヤとリョウも同じく焦り、逃げ出そうとする。
だが、地面が少しずつ崩れていき、思うように動けないでいる。
最終的に、同僚たちの足元の地面はズタズタになった。
その後、特に何か起こるわけでもなく、命令通り脅すだけで終わった。
「ど、どうですか! 私の力は! 次はこのパンチをあなたたちにお見舞いしちゃいますよ!」
エルンは、咄嗟に相手を威嚇する。
恐れた同僚たちは、走ってその場から去っていった。
「おー......」
エルンの力に驚きつつ、拍手をするリリン。
「ふぅ......。なんとかなった......」
俺は、大きく一息を付いた。
そして、冷や汗を手で拭う。
そんな俺に、エルンは手を挙げながら近づいてきた。
「ど、どうした?」
「やりましたね! 私たち二人の初戦闘、初勝利ですよ!」
「......ああ! そうだな!」
俺もエルンのように手を挙げる。
そして、二人同時に手を動かし、ハイタッチをした。
パンッという心地良い音が、青空に響き渡った。
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