能力の確認

「そうだ、ライトさん。リリンさんの準備が終わるまで、能力の確認をしてみませんか?」


「あぁ、確かにしたほうがいいかもな」


 これからエルンと一緒に戦うことになるのだ。

 本番ぶっつけより、事前に把握しておく方がいいに決まっている。


「リリン。ちょっと外で能力の確認をしてくる」


 俺はリリンに声をかけるが、反応はない。

 冒険の準備に相当集中しているのだろう。


「……まぁ、いっか」


 俺とエルンは、リリンの家を出た。


「そういえば、能力の詳細がわからないから、確認するのが大変そうだな……」


「ライトさんは確か、私が暴走した時にやめてくれ! と念じたら私が止まったんですよね? 少なくとも、念じたら私に干渉できる力はあるんじゃないでしょうか……」


「なるほど……」


 そして、俺は考え始めた。

 何か、いい感じの命令はないか。


「エルン! ビームだ! ……なんつって」


 俺は、ふざけてそう言いつつ、空を指さした。

 しかし、次の瞬間。

 エルンは、両手を開き、天に向ける。


 手のひらの先端には、魔法陣が浮かび上がる。

 手から赤い光の粒子が放出し始め、辺りに漂う。

 魔法陣の中心に赤い光の塊が現れ、次第に大きくなっていく。


 そして、塊の直径が七十センチメートルを超えた辺りで、突然光の塊から太いレーザーが発射された。

 耳をつんざく轟音と共に、強い風が発生する。

 俺は、風に飛ばされないように耐えながら、レーザーを確認する。

 そのレーザーは、雲を穿うがち、遠くまで飛んでいった。


「も、もういい! ストップだ! ストップ!」


 俺が念じると、レーザーの威力は弱まっていく。

 そして、レーザーが止まると、エルンはその場に崩れ落ちた。


「エ、エルン!」


 俺は、エルンに駆け寄り、倒れる前に体を支える。

 また魔力を失い、気を失ってしまったに違いない。


「……なんかすごい音が聞こえてきたんだけど。何?」


 驚いた顔をしたリリンが、家から出てきた。


「あ、いや。能力を試してたら、エルンがとんでもない力を発揮しちゃって……。それでまた、気を失って……」


 リリンは、俺の話を聞きながらこちらに歩み寄る。

 そして、鞄から先ほどエルンに飲ませた魔力補給の薬を取り出し、飲ませた。

 別の薬と一緒に。


「あの、そちらは……?」


「激辛汁」


 数秒ほどすると、エルンは目を覚ました。


「辛いいいいい!!!!! 水! 水ください!」


 先ほどのレーザーと同じくらいの大声と共に。

 エルンは、辺りを見渡す。

 そして、リリンの家の横に井戸があることに気がついた。


 エルンは立ち上がり、全速力で井戸に向かって走る、

 井戸のロープを全力で引き、水が入った桶を持ち上げる。

 そして、水が入った桶が完全に上まで上がってくると、水をがぶ飲みした。


「ふう……。死ぬかと思いました……」


 一息付き、口を手の甲で拭うエルン。


「って、またですか!? また私で実験ですか!?」


 エルンが顔をしかめながら、リリンに歩み寄る。


「まぁ、魔力補給の対価だと思ってよ」


 リリンは、魔力を補給する薬を指で揺らし、エルンに見せつける。

 すると、エルンは何も言えなくなってしまった。


「あ、あとライトさん! なんでレーザーを撃てだなんてとんでもない命令をしたんですか!」


「いや、まさか本当に発射されるとは……。で、でもいいじゃないか。エルンの切り札がわかったわけだし……」


「そ、それはそうですけど……。じゃ、じゃあ切り札はわかったと思うので、次はもっと安全な命令にしてください!」


「安全な命令かぁ……。じゃあ、踊ってくれ!」


 俺は、そう言いつつ念じた。

 すると、エルンの体は動き始めた。


 エルンのダンスは、言葉にしづらいものだった。

 なんというか、全体的に動きがクネスネしており、見ていると呪われそうなダンスだった。


「ぷっ……! あはははは! 何そのダンス!」


「私、踊るの苦手なんですよ! は、恥ずかしいから見ないでぇ!」


 顔を赤ながら言うエルン。


「ライトさん! 見てないで早く止めてくださいよ!」


「あっ、悪い……。止まれ!」


 俺が止まれと念じると、エルンの奇妙なダンスは止まった。


「は、恥ずかしかった……。もうお嫁に行けない……」


 両手で顔を隠し、しゃがみ込むエルン。


「安心してよ。だったら私が実験動物として飼ってあげるから」


「飼う!? 絶対嫌です!」


「いいじゃん。三食の食事と寝床、面白い実験付きだよ」


「だったらその辺で野宿しながら冒険した方がマシです!」


 俺は、二人のやりとりを見ながら、もっと実践で使えそうな命令を色々考えていた。


「おい! あれライトじゃねぇか!?」


 すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 その声を聞いた俺の体は、恐怖で震え始めた。

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