第2話『新たな拠点に集結せよ、特捜専隊!』

 今訪ねてきた大河内和夫は、陸上自衛隊別班の二等陸佐であり、CIAによる日本転覆計画を阻止した男だ。その正体は天皇に直接仕える隠密「忍」である。

 戦友との再会に笑みを浮かべていた大河内だったが、ドアを閉めると表情を一変させた。

「よく聞け! お前らなんで公安の作業班に尾行されてる!?」

「え」 

 千代田春がカーテンの隙間から駐車場を見る。

 確かに、不審な車一台が駐まっているのがわかる。警察の人間だからこそ、この車が覆面パトカーの類であると見抜くことができた。

 桜祐が目を細め、公安特有のするどい眼差しになる。

「ひょっとして、公安特別捜査隊専従班への異動辞令が罠なのかも?」

 桜警部の疑問には大河内二佐が答えた。

「そうかもな、そもそも特別捜査隊にはアジトが決まってすらいなかった」

「すぐに移動しましょう」

「ついて来い、秋葉原に君塚警視が決めたアジトがある。


     *    *


 警察庁警備局警備企画課理事官中村照警視正は桜警部らへの尾行を指揮していたが、部下からの報告に苛立っていた。

「何!? 秋葉原駅で桜警部と千代田警部を見失っただと!?」

「秋葉原には中国の公安拠点があり、尾行が思うようにいかず」

「そんなことは知っている。さすがCIAによるクーデターを食い止めた特捜専対というチームだ。うまく地の利を活かしている」

 特捜専対とは公安事案A27号特別捜査本部長諜報専従対策室を指し、特捜専隊とは、公安特別捜査隊専従班を指す。

 中村照は改めて作業班に命令する。

「いいか、引き続き特捜専隊への尾行は続けろ、私も「影の帝」に申し訳が立たないからな!」

 一体、影の帝とは……


     *    *


 2年前のクーデター計画とは、ホワイトハウスが立てたオペレーションJヤタガラス作戦のことだ。

 軍事産業を潤すため、米国が海底資源の漁夫の利を狙うため、そのための日中尖閣戦争の誘発が課題であった。

 以下がその段取りである。

 将来総理大臣となるであろう有力政治家米泉統一郎へのCIAからの多額の援助、その代償として米軍の尖閣諸島防衛義務を免除させる。

 民自党黒部新造政権に、核攻撃能力共同保有や、長射程兵器の配備を旨とする安保三文書改訂を迫り、共犯関係となる。

 ウクライナ紛争に自衛官を退役扱いにして義勇兵として派遣する。

 イージス艦のトマホークを米軍からのシステムジャックで暴発させると共に、日米の密約をマスコミにリークし、黒部政権を退陣に追い込む。

 黒部新造の暗殺と、国葬の閣議決定。

 米泉統一郎を内閣総理大臣に選出。

 在日米軍の特権を利用してクーデターの人員装備を横須賀、横田に運び入れる。

 国葬の日にCIA工作員がゲリラ攻撃し、内閣総理大臣が治安出動を命令する。

 米軍と自衛隊が一体となってゲリラを鎮圧し、日本を米軍の施政権下に置くマッチポンプ。

 この機に乗じて尖閣諸島に侵攻した中国人民解放軍と自衛隊が戦い、尖閣防衛義務放棄のため米軍に頼れない自衛隊は中国軍と共倒れし、アメリカが海底資源の漁夫の利を得る。

 その恐るべき計画は、特に後半のオペレーションは、失敗した。

 黒部新造内閣総理大臣が収集した米泉統一郎のスキャンダル──尖閣諸島防衛義務を放棄させたことを公安警察が裏を取り、畠山正晴法務大臣が強請りの材料とし、自身を内閣総理大臣臨時代理に指名させ、日本の行政権を掌握したからだ。

 畠山首相代理が警察官僚OBであったことも大きい。畠山正晴は元警察庁警備局長だ。彼は自衛隊に頼らず、警察の力でA27号事案にケリをつけた。

 だが「内閣総理大臣臨時代理に防衛省で指揮を取っていただく」という名目で畠山が拉致されたあの場面においては、天皇の密命を賜わった自衛隊別班内の隠密組織「忍」が活躍した。


 ……そのような大河内の案内を受け、桜警部、千代田警部は秋葉原の雑居ビル内のアジトにたどり着いた。

 厳重な警備のドアを開けると。

「ご苦労、よく来たね」

 警視庁公安部公安総務課管理官の君塚信一警視がデスクに座り出迎えた。公安調査庁首席調査官の乃木康信も一緒だ。

「この面子で揃うのは久しぶりですね」

「そうだな」

「質問をしてもよろしいでしょうか」

「……」

「なぜ我々には公安警察作業班の尾行がついているのですか」

「それは、新たな国家危機において、警備企画課の中村警視正が、我々を邪魔と判断したからだ」

「つまり公安特別捜査隊は追い出し部屋というわけだな」

 君塚警視に続いて、乃木調査官も腕を組み答えた。

「そして、我々忍の内偵捜査によれば、中村率いる公安の作業班や、自衛隊に別働隊を作り、それらを操るのが、神道系秘密結社ヤオロズ、その最高指導者が影の帝なんだ!」

「つまり我々は、CIA、中国共産党、テロ組織アバンギャルド、そして公安警察や自衛隊の別働隊を、一度に相手にしなければならないと言うわけですか!」

「その通りだ……!」

 公安特別捜査隊専従班特捜専隊に、中村照警視正の陰謀が迫る!

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