地雷系祓い屋と感知系ホスト4

「は? な、なん……」

「みれいさんさあ、知らないって言ったよね。祓除師のことも、界隈のことも。

 ――なのになんでゆりあが失踪者を追ってるって知ってるの?」


 みれいが目を見開く。

 そこでようやく自分の失言に気がついたんだろう。

 

 失踪者のことは知ってても、それが妖の仕業にすぐ結びつくのはおかしい。客もホストも飛びがちな世界なのだから、祓除師がわざわざ調べに来るとは普通考えない。

 

(……今の煽るような言動は、みれいに不用意な発言をさせるためだったのか……)


 まさしく『秘密の暴露』というわけだ。

 まるで、敏腕刑事のごとくである。


「ち、ちが……わたしは……」

 

「れいぴ」言い訳を試みるみれいを完全に無視し、ゆりあはこちらを見た。「聞きたいことがあるんだけど……」

「なんだ?」

「れいぴならわかるかな。、人? それとも妖?」

「……」


 俺はゆっくりと、みれいとゆりあのもとへ歩いていく。ゆりあはみれいに突きつけた刀は引かずそのままに、身体を引いて俺の場所を作る。

 俺は怯えに震えるみれいの顔を見て、


「……人だよ。妖とは、気配が違う」


 そう言った。

 今なら、たぶんなんとなくわかる。人皮をかぶった妖と、人間を見分けられる気がするのだ。

 そして彼女は人間だ。妖ではない。


「となると……そう。

 じゃあ、人皮を作った呪具師なんだね?」

「……ッ!」


 ゆりあの冷ややかな声に、みれいがガタガタと震え始める。

 ゆりあはまだ霊力を抑え込んでいるが――それでも漏れ出た霊力が凍てついていくのがわかり、その冷たさが彼女の怒りを感じさせた。思わず、俺も緊張に口を噤む。


「ああ、ごめんれいぴ。説明不足だったね」ゆりあが、みれいから目を離さずに言う。「呪具師っていうのは、人皮みたいな闇深いアイテムとか、妖祓いに使う御札とか武器みたいな――呪具を作る人間のこと。祓除師は妖を祓うから一定以上の戦闘能力と霊力が必要なんだけど、呪具を作るのには前者はいらないの」


 だから、にも、才能があれば出来ることなんだよ。

 そう言って、ゆりあは刀の刃をさらにみれいに近づけた。少しでも動かせば、薄皮が切れてしまうというところまで。


「ほんと、せっかくの才能をなんで犯罪に使っちゃうかな〜。強力な妖祓の呪具を作る才能なんて、めちゃくちゃすごいのにぃ〜」

「違う、ちが、わたしは……」

「動機は何? やっぱり闇稼業の方が稼げるから? 晴人に貢ぐためにあんなモノ作ったわけ〜? ……『Rose』の失踪者に客が多かったのって、まさかお前がドサクサに紛れて同担消したかったから、とかじゃないよねぇ?」


 みれいが黙り込む。

 それを見てゆりあが「キモ」と吐き捨てた。


「同担拒否もホス狂も個人の自由だから別にいいけど、そこまでするのはクズでしかないよねぇ」

「わたしは……わたしは悪くない! あんなに応援してるのに、お金も使ってるのに、晴人がわたしを一番にしてくれないから……!」


 

「悪くない? ――ふざけるなよ」


 

 今まで、辛うじて甘さを残していた口調が、がらりと変わる。


「お前の作った人皮のせいで、潜り込んだ高位の妖が増えてるって報告が上がってる。そのせいで何人食われて死んだと思ってる?

 ――お前はお前の都合で、担当ホストにも『Rose』にもなんの罪もない女の子たちやキャストたちにも迷惑をかけた。それを責任逃れとは笑えない」


 ゆりあが、刀を握る手に力を込めたのがわかった。


「お前が人皮を卸した相手は誰。人皮を妖に売り捌いてるバカのことだよ」

「……っ、っ」

「――わかってると思うけど素直におしゃべりしないと痛い目を見るよ。お前の人皮のせいで親友を失った、気性の荒い祓除師にお前の身柄を渡してみようか?

 妖相手に戦争してる人間の感性がマトモじゃないことくらいは想像つくでしょ。どうなるかわかったものじゃないよ」


 ねえ、とゆりあの声が一段と低まる。

 ひっ、とまた悲鳴を上げたみれいは、やがて「ごめんなさい! 言います! 言うから!」と言って泣き出した。


「いい子だね。……で? 誰なの」

「そ、それは――」


 泣きながら告げられた言葉に、

 俺とゆりあは弾かれたように顔を見合わせ、その場から駆け出した。



 向かう先は―[CRIMSONMoon]である。

 

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