盃
@2u_ym
第1話 異種
「異種交配なんて、気持ち悪いわ。」
「生まれてこなければ良かったのにね、可哀想に... ...。」
私たちは、祝福されて生まれてきた訳ではなかった。望まれて生まれてきた訳ではなかった。どこに行っても、誰といても、どんな時も、私たちは汚いものとして避けられていた。
この世界は、天使との異種交配による生物が中心で周っていた。天使と人間、天使と犬、天使と亀、天使と金魚など、多種多様な生物が共存している。彼らにとって、天使の血が入っているのは当たり前である。それ以外の可能性なんて、考えもしなかった。天使と交配していない生物なんて、存在しないものとされていたからだ。事実として、ここ500年は天使以外との交配で生まれた生物はいなかった。
…
とある三日月の夜、1人の赤ん坊が産声を上げる。小さな屋根のない小屋の中で生まれたその赤ん坊は、悪魔の子だった。私はここにいる、そう伝わるように必死に泣き叫ぶ子であったが、そこら一帯に住んでいた生物はいない。誰も、子の存在に気付かなかった。子の母は、既に冷たく、赤黒く染まっていて、胎盤がどろどろと出てきていた。
子は独りであった。泣き、眠り、泣き、眠りを繰り返して、子はどんどん大きく成長していく。手のひらを月にかざすと、もう光は届かなくなってしまうくらいに大きくなっている。大きな肉片も、一口で頬いっぱいに食べれるくらいに大きくなっている。
身体が大きくなるにつれ、腹が減る。腹が減る。腹が減る。
母の死骸は、もう体液までも啜りきってしまっていた。子は考え、近くの明かりの灯っている集落に、食べ物をもらいに行くことにした。
何度も集落に降りてみた。何度も住人達を説得しようとした。しかし、火をつけられたり、石を投げられたり、唾を吐かれたり、水に沈められたり、目玉をえぐられたりするばかりであった。
「こんな事があるとは、今年はたくさんの悪いことが起きるに違いない。」
そう言い、子の前で自害するものもいた。
真っ赤にどす黒く、どこか藍がかった深い夜が更けていく。近くに横たわる人々を、踏みつけないように子は歩いている。
子は深く傷つき、悲しみ、怒り、苦しんだ。自分が生まれてきたせいで、人は正気を失い、希望を失い、死んでいく姿を目の当たりにしたからだ。
子は自分に生えていた、大きな禍々しい角を折ることにした。生えていたしっぽも切り落とすことにした。激しく、逃げ場のない痛みが、子を蝕む。しかし、子は死ぬことはできない。なぜなら、悪魔の子であるから。悪魔は、人々の負の感情の掃き溜めであるのだ。悪魔なしでは、天使が素晴らしい慈愛の心を持つものであることが伝わらない。けれど、人々の生活に馴染んでいくうちに当たり前になっていってしまった。
…
子は、鬼と悪魔の異種交配により生まれた。強姦により授かった子であり、母は何度も胎児の子を殺めようとする。しかし、まだ顔も見たことがない、声も聞いたことがない。確かに自分の中でうずまいている命がどうも愛おしくてならなかった。
「私は、あなたに会うために生まれてきたのね。きっとそうだわ。」
そんな萎れてしまいそうなくらい弱弱しい声で、腹の中の子に言った。
どんな困難が降りかかっても、その先にきっとくる幸せのためになら生きていける。母はそう思っていたに違いない。しかし、現実はそんな優しさを煮詰めたような場所ではなかった。母は由緒ある鬼一族の末裔であり、寄ってくる男も選び放題であった。そんな中で、一人とある男性が、母に強く心を惹かれた。子の父となる天涯孤独の身の悪魔であった。家柄が大事とされてきた母の時代では、存在することが不幸を呼ぶといわれてきた悪魔との恋愛なんて非難されていた。勿論、母も父のことなんて眼中になかった。だが。父はその思いを着々と募らせていったのだ。
第一話 異種
盃 @2u_ym
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