第2話 誕生日は明日だよ?!

「冬原さん、誕生日、今の時期だったよな。だからさ。これ!」

 遥希くんは早口で言うと、金色の包装紙に入ったをわたしの机にちょこんと置いて、パッと駆け出してしまった。廊下のところで、他の男子たちと「渡したよ!」「やったじゃん!」なんて言い合ってるよ。


「誕生日、明日だってば」

 小さな声で言った言葉は、彼には届かないけど。

 わたしの誕生日は5月30日だよ。一日、フライングしてるよ!


 金色の包装紙をそっと開けてみた。きっと本だろうな、と思ったから。わたしは割と本が好きなんだよ。見た目はこんなふうにショートボブの茶髪だけどさ。

 でも、出てきたものは。


「あー。御朱印帳もらったんだー。ちひら」

 後ろの席の藍理あいりが、自分のことみたいに嬉しそうに声をかけてくれた。

 わたしは冬原茅平ふゆはら・ちひらという。めちゃ読みにくい名前を親につけられてしまったんだ。


 水色の柔らかな生地は布のような紙のような材質なんだ。そこに、蝶々の柄が一つだけプリントされてた。それ以外は無地なのがかえって愛らしい感じだよ。藍理を無視したわけじゃない。でも無言で、御朱印帳を手提げ袋の中にそっとしまった。あとは、机の中の英単語帳なんか取り出して、照れ隠しにめくってながめてた。


 わあー。可愛い。可愛い。でも、遥希くんはどうしてわたしにプレゼント、くれたのかな?

 ドア付近で話してる彼を見てたら、なんと、目が合ってしまった。にこりと笑うその顔はとてもキュート。子犬のように他の男子たちとじゃれてる。胸の奥にほのかな灯りがともったよ。


 スマホが鳴る。見たくない「あの人」(元カレ)からのLINEが表示されてた。そっちは未読無視して、英単語帳にまた、視線を戻した。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る