新たな世界は旧い幻想-一人の少女による荒廃世界の放浪譚-

すだち猫々

プロローグ

一一朝だ。


今日の寝床が、壁にの隙間から射し込む光に照らされる。


「ん…、んんっ…」


こんなんじゃ眩しくて寝れたものでは無いので起きる。もう少し寝ていたかったが仕方が無い。少し伸びをしてから、硬い床に敷かれた気休め程度の毛布を片付ける。朝食に以前見つけた戦闘糧食コンバット・レーションを食べながら、ふと窓の外を見てみた。


「海……」


昨日は山の中を突き抜けて来て、この壊れかけの元住居着いたのはもう夜だったから気が付かなかった。はっとして手元の複合情報端末で地形情報を照合する。


「あってる!つまりここが…」


どうやらお目当ての場所に到達していたらしい。

カスピ海───、昔の人はそう呼んでいた湖らしい。こんなに広くて、しかも海っていうのに湖だなんて変だと思うから、私は海って呼んでる。

第二文明がまだちゃんと機能していた時は洋上宇宙港スペースポートがあったらしいけど、今はもうひっくり返って沈んじゃったみたい。


▼▼▼


500年近くも前に起こった核戦争は、多くの都市と人を巻き込んでこの星を焼き払った、だけど人類は意地でも滅びなかった。

それから100年後に宣言された世界復興と第二文明宣言、人類は見事に復活した。

だけど人は何も学んでいなかった。差別に汚染に宇宙紛争、人類は発展を維持し続けられなかった。偉い人達はアーコロジーって呼ばれる自己完結の建物に引きこもって、国や地域の運営を全部放棄した。

その結果がこの世界。衛生環境は劣悪で、賊や殺人AI、自立兵器が跋扈する。僅かに残ったむ人々の多くは、安住を求めて昔の都市に集まって生活してる。でも、住んでるだけだと段々生活が厳しくなってくる。だから″放浪者″と呼ばれる人達が、都市の外の世界から持ってきた遺物を買い取って生活してる。


世間一般的にみればか弱い女の子である私も、本来は都市で守られる立場だった。でも私はそれでは嫌だった、みんなの役に立ちたかった。そして何よりも話と言い伝えで聞いただけの外の世界をこの目で見てみたかった。そして私が持てるもの全部持って放浪者となった。両親と兄妹にも無断だったから、今頃は死んだ者扱いだと思う。

都市を出た最初の頃は何も満足に出来ずに大変だった、なんとか今生きているのも奇跡的だと思う。同じ放浪者の死体も見たし、なんなら私が普段使っている装備はそれらの死体から拝借したものがほとんど。でも、そうやって私は生き延びる術を手に入れた。

放浪者になったとはいっても、地理なんて何も分からないから、最初の頃は行くあてもなくただ道に沿って歩いて、偶然見つけた集落の廃墟に立ち寄って、物を漁るくらいだった。でも、そのうち物資と共に少しずつだけど情報や知識も手に入った、段々私が行くべき場所が分かるようになってきた。


「えーと…ここからこの海岸に沿って北西に進む…のかな...?」


私は地図の推定現在地と、複合情報端末の地形情報を照らし合わせて、地図の行くべき場所への方へと視線を動かす。モノクル型の端末レンズに表示された立体的な地形が同期して動く。この地図は50年くらい前の情報を元に作られてるみたいだけど、地形なんてそんなに変わらないから大丈夫なはず。


「向かうべき最初の都市は…バクー…でいいのかな。」


バクー、複合情報端末によれば、500年前の核戦争で一度破壊されたけど、その時の生き残りが都市を再建して現在まで残っているみたい。300年前には、たまに遺物の製造元として名前を聞く、UETO?っていう国?みたいなものの一部だったらしい。


「凄い古いんだなぁ…」


そう言いながら、私は出発する支度をする。

ボロ切れみたいな毛布と食料をバックパックに詰めて背負い、その上からレバーアクション式コイルガンを肩に掛ける。太腿のベルトにはコンバットナイフと、何時のか分からないようなフラッシュ・バンを取り付ける。万が一にでも使う機会があった時のためだ。そして最後に迷彩柄のコート、これはどうやら凄い遺物らしくて、多少の光学迷彩もしてくれる優れもの。


「これでよし…あっ...と、忘れてたぁ…」


私は複合情報端末のカメラ機能をオンにして、窓からの風景を撮る。…これは私の前のこの端末の持ち主が毎朝欠かさずにやっていたこと。私は、彼の死体からこの端末を拝借させて貰ったお礼に、彼のこの日課を継ぐことにした。


「よし…今度こそ、行ってきます。」


何も無くなった廃墟の一室…数百年前には誰かが住んでいたかもしれない部屋に別れを告げ、私ことヘレナはバクーに向けて出発することにした。

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