45. 自分で作った結果②
「……良い感じなので、火を消してください」
「分かった」
テオドールが火炎スキルの火を消すと、マリエットは近くにお皿を並べる。
そして一人分だけ盛り付けると、テオドールに視線を向けた。
「盛り付けは料理によって変わりますけれど、見栄えが良くなるように工夫すると美味しさが増しますわ」
「これを真似れば良いのだな?」
「他の盛り付け方でも大丈夫です」
テオドールはマリエットの動きを思い出しながら盛り付けていく。
けれど、出来上がったものは形が同じなのに印象が少し違った。
「……これは失敗だな」
「上にお肉が乗りすぎです。野菜も見えるようにしないと、色が悪くなってしまうのです」
「そういうことか。……これならどうだ?」
「今度はすごく良いと思います。冷める前に頂きましょう!」
そう口にし、マリエットは自分が盛り付けた分を手にとってダイニングへと向かう。
テオドールもそれに倣って、料理を慎重に運んだ。
けれども、マリエットは料理を置くと再び厨房に足を向け、残り二つの料理をトレーに乗せる。
片方はライス、もう片方はスープだ。どちらも二人分あり、マリエットが準備していたもの。
「……いつの間に作っていたのだな」
「ええ。ライスは炊くのに時間がかかるので、作り方は明日お教えしますわ」
「ありがとう。両方とも美味しそうだな」
「頑張って作りましたから、絶対に美味しいです!」
言葉を交わしながら、マリエット達は向かい合わせになるように腰を下ろす。
そして、いただきますの挨拶をすると、さっそくテオドールが野菜炒めに手をつけた。
「……美味しいな。普段の料理も美味しいが、今日料理は特別な気がするよ」
「ふふ、頑張った甲斐がありましたね」
「ああ。また明日も頑張って作ろうと思う」
「私もしっかりお手伝いしますわ」
言葉を交わしながら、マリエット達は食事を進めていく。
料理人ではない人と初めて作った料理は、マリエットにとっても特別な味に感じられる。
(明日は今日よりも美味しくなりそうね)
初めてよりも二回目の方が上手に作れるはずだから、期待せずにはいられない。
けれど、明日の想像をする前にまだやる事が残っているため、マリエットは食事を終えると厨房に戻った。
「これから後片付けだろうか?」
「その前に、全員分の賄いを作っていきますわ」
厨房に立ったマリエットが取り出したのは巨大なフライパンで、そこに切られた食材が次々と入れられていく。
切るのもテオドールが見ていた手本の何倍も早い。
「……これが料理スキルか。とんでもない力だな」
彼女が料理スキルを使っている姿は何度か見ているが、実際に料理をした後に見ると圧倒されてしまった。
目を奪われている間にマリエットは炒めるところまで終えており、盛り付けもあっという間に終わる。
「お待たせしました。後片付けを済ませたら今日の仕事は終わりなので、少しだけ待っていてください」
「その後片付けも教えて欲しい。作って終わりでは、次に道具を使う人に申し訳ないからね」
「分かりました。では、まずは食器から洗っていきましょう」
マリエットは食器や調理器具の洗い方をテオドールに教えていく。
そして二人で使った分の後片付けが終わると、賄いに使った食器が次々と運ばれてきた。
「この量を片付けるのか……」
「料理スキルを使えばすぐに終わるので、心配しないでください」
「俺に手伝えることは無いか?」
「このお皿を食器棚にお願いします!」
料理スキルで食器を一瞬で綺麗にすることは出来ても、仕舞うところまでは出来ない。
だから、テオドールのお陰で普段よりもずっと早く今日の料理人の仕事を
終えることが出来た。
「――手伝ってくださって、ありがとうございました」
「礼を言いたいのはこちらの方だ。色々と教えてくれてありがとう」
言葉を交わし、マリエット達は廊下に出る。
ここからマリエットが新たに与えられた部屋までは距離があるため、色々な事をお話しながら足を進めていく。
そして部屋の前に着くと、マリエットはこんなことを口にした。
「テオドール様、渡したいものがあるので少しだけ待っていただけませんか?」
「もちろん。ゆっくりで大丈夫だ」
「ありがとうございます!」
お礼を言ってから部屋に入り、料理スキルで作ったあるものを手に取る。
見た目はただの本だけれど、中身はマリエットのスキルにあるレシピが綴られていた。
マリエットがレシピ本と呼んでいるこれはグルース公爵邸に十数冊置かれており、料理人全員がいつでも目を通せるようになっている。
今回はそこから一冊だけ借りてきていた。
「……お待たせしました。ここに私が知っている料理が書いてあるので、明日以降の作るものはここから探してみてください!」
「辞典よりも厚いな……中の絵は誰が書いたのだ?」
「全部私一人で書きましたわ」
料理名と一緒に描かれている絵はとても写実的で、一流の画家が描いたものと見紛うほど。
テオドールはマリエットが全て書いたとは思わなかったらしく、目を瞬かせる。
「これも料理スキルの力なのか?」
「ええ。料理に関わることですから!」
「他人のスキルをこれほど羨ましく思ったのは初めてだよ」
そう口にするテオドールは、とても愉しそうな笑顔を浮かべていた。
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