36. 活きの良い食材②
「お嬢様。今夜のメニューですが、一品だけなら変更も可能でございます」
「本当に良いのかしら?」
「もちろんでございます。元々、鶏肉を使う予定だったので、合わせやすいかと思います」
話を聞きつけ追いかけてきた料理長の言葉に、マリエットの表情はが更に明るくなる。
けれど、鳥小屋の中の鶏は身の危険を感じたのか、一気に騒がしくなった。
中には飛んで逃げる鶏も見え、活きが良いという言葉も理解できる。
「鶏って飛べたのね……」
「本来は飛べないはずですが、今日の鶏はとても活きが良いので……捕まえるだけでも一苦労でございます。くれぐれも、お怪我をされないようにお気をつけください」
「ええ、気を付けるわ。どの子が良いかしら?」
そう口にしながら鳥小屋に足を踏み入れると、料理長が角の方を指差す。
「オスならどれを選んでも大丈夫です」
「雄雌の見分け方はあるのかしら?」
「トサカが大きい方がオスになります」
「分かったわ。ありがとう」
マリエットは頷くと、鶏との距離を詰めていく。
すると鶏は一斉に逃げ出し、一瞬で距離をとられてしまった。
(あの子にしましょう……)
何度か追い回して美味しそうな鶏を見定めると、じわじわと角に追い詰めていく。
すると、他の鶏がマリエットの背中に飛び掛かった。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
「やっぱり、こっちにするわ」
料理長が心配したのも束の間、気配で気付いていたマリエットは振り向くと鶏を捕まえ、そのまま鳥小屋の出口に足を向ける。
もう鶏が反撃しに来ることは無く、料理長は安堵の表情を浮かべた。
それから少しして。
マリエットは処理を終えた鶏肉を厨房に運び、調理を始めた。
既に夕食の準備が進んでいるため、良い香りが漂っている。
「お嬢様、今日は何を作られるのですか?」
「唐揚げを試してみようと思うわ」
「唐揚げ……聞いたことがありませんね。楽しみにしております」
いつもマリエットは使用人の分まで作っているため、料理人はそんな言葉を返す。
「そう言われると緊張するわ」
「お嬢様ほどのお方でも緊張されるのですか……」
「私だって貴方達と同じ人間だもの。緊張もするし、失敗だってするわ」
会話をしながらでもマリエットは一切手の動きを緩めず、肉を程よい大きさに切っていく。
料理人達はその様子を見て、感心している様子だ。
「流石、王宮の料理人様って感じです」
「まだ見習いよ?」
「それでも、尊敬せずには居られません」
続けて味付けのために調味料を混ぜ合わせたところに肉を入れると、マリエットの手が止まった。
「でも、これは簡単に作れるものだから……」
「簡単に美味しいものを作れるところも尊敬しております」
「ありがとう。続きは夕食の前にするから、一旦部屋に戻るわ」
「畏まりました」
夕食まではまだ時間があるからと、私室に戻る。
すると、何かを言いたそうにしている侍女の姿が見えた。
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