夏の裂け目、戻らぬ日

朝焼けに、ひび割れ見出す空の色。今日の夏から、何が消える。


振り向けば、もう戻れない道の先。あの夏はただ、標識もない。


耳すます、汽笛は遠く響かずに。あの日の祭りは、閉ざされし音。


肌を撫でる、風は記憶の残像か。君の指先、触れぬ夏かな。


断片の、蛍の光が閃く夜。あの日の景色、もう繋がらない。


薄れる香、夏の記憶を掻き回す。君の居た場所、何も残さず。


口中に、残るはただの砂の味。あの日の果実は、もう熟さずに。


心には、深い亀裂が走るまま。二つの夏は、決して交わらず。


君だけが、過ぎた季節に置き去られ。もう新しい、夏には逢えず。


裂けた空、星は一つも落ちずとも。ここから始まる、別の夏かな。


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夏、五感と時間「カクヨム短歌賞1首部門 応募作品」 やまなし @yananashi

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