夏の幻影、刻(とき)の泡

陽射し浴び、世界は揺れて水泡(すいほう)立つ。輪郭だけが、泡に溶けだす。


遠い海、波音は泡と弾けるか。君の名呼ぶ、声も水底(みなそこ)へ。


触れる指、泡の感触、すぐ消える。君の体温(ぬくみ)、残すは水紋(すいもん)。


水平線、蜃気楼ゆらぐ泡の空。君の影だけ、逆光に弾け。


乾く舌、泡の甘さか苦さか、それとも。消える口内、夏の残滓。


過ぎし日に、泡の香りが風に乗る。君の気配か、記憶を撫でる。


一秒が、永遠となりて泡を吹く。君との日々は、水面に揺れる。


夢現の、泡の薄膜(うすまく)隔てし君。触れればすぐに、崩れる幻。


喜びか、悲しみか分からぬまま。泡となり、夏の終りを弾く音。


全て過ぎ、泡の跡(あと)だけ残る空。君の影さえ、水面を揺らす。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る