エンディング

32.「死霊術師ナディアの矜持」

 戦場は魔王の消失と共に、魔王軍も消滅し、静寂が広がった。

 あの軍勢は全て、彼女の瘴気によって行使されていた死霊のような存在だったらしい。


 杖を握る手には、まだ微かな震えが残っていた。


「……終わったな」


 隣で、リカルド様が静かに呟いた。

 その声を聞いた瞬間、堪えていたものがほどけて、思わず笑みが零れる。


「ええ……終わりましたね」


 気づけば、涙が頬を伝っていた。

 誰のための涙なのか、自分でも分からない。


 ただひとつ確かなのは——彼女を救えたということ。


 リカルド様が、ふと私の肩に手を置いた。

 その手の温かさに、胸の奥がじんわりと満たされていく。


「ナディア。お前がいてくれたから、俺はここまで来られた」


「……そんな、私は」


「謙遜するなよ」


 彼は穏やかに微笑んで、私の目を真っ直ぐに見つめてくる。


「お前の力も、想いも……全部が、この勝利につながったんだ」


 あの日、勇者パーティーから追放され、居場所を失った私。

 それでも彼と再び歩みを重ね、ここまで来ることができた。


 信じてくれる人がいる。それだけで、どれほど救われてきたことだろう。


 ふと、彼の視線が少し柔らかくなる。


「なあ……これからも、共にいてくれるか?」


 胸が熱くなった。

 戦いの果てに紡がれるこの言葉が、どれほど待ち望んだものだったか。


「……はい。私は、リカルド様と共に」


 その答えは、涙混じりの笑みと共に自然に零れた。

 過去も、痛みも、後悔も。全部抱えたままでいい。


 それでも私は、彼と未来を見ていける。


 ——静かな風が吹き抜ける。

 暗雲が消え、晴れた空に、太陽の光が差し込んでいた。


「さぁ、帰ろう」


 リカルド様が差し伸べた手を、私はしっかりと握り返す。

 その手の温もりが、これから先を照らす光のように思えた。


「ええ——」


 私たちは歩き出した。


 追放され、孤独に沈んだ日々もあった。けれど私は、みんなの助けを借りて、推し活を続けた。


 たとえ追放されても、推し活をやめたりはしない。

 どんなことがあっても愛する。それが、推し活。


 死霊術師ナディアの矜持——「追放されたくらいで、推し活やめません」





ー完ー

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