宵宮君は図書室にいる ~ 明輪高校百物語
古森真朝
夏とワイシャツと(たぶん)シミ【Day1:まっさら】
「……
「はい??」
開口一番、とてつもなく困った顔で聞いてきた一年先輩に、
場所は二人が通う県立
とはいえこの人、
「えーと、これって、先輩のシャツ? ですか。いま着てるの」
「そう、それ。……汚れてる、と思う?」
「いいえ、真っ白できれいですよ。おろしたばっかりに見えます」
「そう……じゃあ、こっちでも見てもらえる?」
正直に答えたところ、相手はさらに困ったようだった。手招きされて素直に寄って行った咲月に、ちょうど真向かいにある窓を示す。
梅雨も明けたというのに、朝からずっとどんよりした空模様だ。そのせいで室内の方が明るくなって、ガラスには反射した二人の姿が映り込んで――
(あっ)
思わず二度見した。
窓に映った透哉の、ちょうどシャツの右胸の辺り。直接見た時はまっさらだったそこに、ピンポン玉くらいのシミがある。紫がかった暗い赤で、白い生地の中では大変目立っていた。――しかも、
かさっ。
「えっ?」
「せせせ先輩!! いま、今シミがうご、うごうごうご」
「う、うん、大丈夫だから。ちょっと落ち着こう、ね」
「これが落ち着いてられますかぁ!!」
どこかの八本脚のアイツとか、あるいは人類の天敵たる黒いアレを思わせる動き方だ。これでパニックにならない方がおかしい。
目を逸らしたいが、逸らした瞬間どこに行くかわからないのが恐ろしい。まるきり本物の虫と対峙している心境で見つめるうち、嫌なことに気づいてしまった。
(……あれ? 向きが変わってる!?)
その場でもぞもぞしているシミ、方向を微妙に調節しているような気がするのだ。具体的には、着ている当人の顔、もしくは首、とか。
かさかさかさかさかさかさかさかさ!
気づいたのとほぼ同時、シミが動いた。今までとは比べ物にならないほどのスピードで這い上がってくるのに、気付いた透哉が急いで脱ごうとする。――が、
すぱあああん!!!
ものも言わずに振り抜いた咲月の平手が、シミを真上からぶっ叩く方が早かった。びゃっ、とどこかで悲鳴が上がった気がする。
「~~~~っ、うわああああ叩いちゃった、素手でやっちゃいましたよ先輩いいいいい!! ていうか痛かったですよね、大丈夫ですかっ」
「えーっと、うん、それは平気……あ。シミが消えてる」
「ほんとっ!? よ、よかったあ~~」
「うん。いつもありがとう、朝倉さん」
半泣きで利き手をぱたぱたやっている咲月も、特に具合が悪くなったりはしていないようだ。それにひとまずほっとして、一年先輩は心からお礼を言ったのだった。
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