第6話 不公平な夏

「もう、1学期が今日で終わりだなんて…センチメンタル。だね。」

「慥かに。」

「伊代はまだ16だから センチメンタル・ジャーニー〜♪って松本伊代がそういえば歌ってたな…。『センチメンタル・ジャーニー』を。センチメンタル、と聞いて。」

 一般コースの生徒たちは、明日から夏休みに入ってしまう事で、浪花節的な気分に陥っていた。やはり、之は伝染病の様に他学年、他クラスと伝染うつっていった。

「加藤先輩…猫屋敷先輩とくっつくかな…?」

「君は先輩から打ち明けられたからしょうがなく感じてしまうだけだよ。」

「うん…。」

 一方の東大コースは、例年通に夏をだと認識しており、其の分なのか模試、模試、模試、模試、模試…。と矢継早に模試がゲリラ豪雨の様に掛かって来る

のだ。

 大抵、この日は普段聞く言葉を耳にしなくなってしまう。

「〇〇先輩って、超可愛いよね〜。」

「〇〇ってさ、XXの事が好きらしい。」

といったのや、

「〇〇、マジうざいよね?」

「うっせぇわ」

「◯ね。ムカつく」

といったのまで聞かなく成ってしまった。



 通知表だ。一般コースは大騒ぎするのに、もう一方はズッシリと肝の座った表情で受け止めているからこそ、分かりづらい。


 通知表は良しとして、改めて本題に戻ろう

――登山愛好会

「部の存続が掛かってるから、絶対に御来光は見ておこう。」

「祥太、理解っているよ。其れくらいは。」

登山愛好会は実際は3人しかおらず、3年生の祥太と陽子。2年生の飛鳥木多郎の3人しか所属していない。

 同好会に成っている理由は、トイレの「暗い、臭い、汚い、怖い」の4Kと同様に、「きな臭い、気持ち悪い、煙たい、熊が出る」の4Kが付きまとわれている。そもそも努々ゆめゆめ入部したがらない原因にも成っている。

「この羆も悲熊になってしまうわよね。祥太。」

陽子は部活動勧誘ポスターを見ながらそう言った。

ポスターの文字はというと…

――ある日 森の中 熊鈴が 効かない ツキノワグマがお前を狙ってる(2028)

――「お前も熊にならないか?」(2027年)

――「【速報】 鈴木福さん、自身が主演を務める映画『ヒグマ!』の公開が◯被害の多さによって公開が延期されました。(ヒント:闇バイトよりも怖いものです)」(2026年)

 改めて、確認すると今までで一番すぎてなぜ通れたのかが理解らないと言ってもいいのは今年のものだった。

 その経緯は…

「なぁ、陽子。『森のくまさん』の替え歌にすれば口ずさんでくれるし、どんな感じがイイ?」

「去年と一昨年のを踏襲するのは?」

「先輩…。」

「飛鳥、お前は、やらまいのが良い。」

「なんで?」

「熊熊熊熊熊熊…熊言い過ぎて自分の首を自分で締めてるもんだから…なのさ。」

「だからなのか。」

「うん。」

「じゃあ、やりません。」

「うん、其の調子。」

「僕は、此処に居なくても大丈夫そうだね。だって、唯一ただひとりの後輩が一人でもやっていられるんだから。」

「そうね。飛鳥くんが一人でも居られる人…なんだから。」

「陽子…。」

「祥太…。」

 (見つめて居てもイイ?)

 陽子は祥太を見つめてもいいか?と語りかけるような表情をした。

「アタマで流れてんのは国学院久我山の『星のシルエット』なのか?」

「ちがいまーす。」

「ハートのエース…。」

「君はいつも舌打ちばかりの大切なマリア…?」

「えっ…。」

「夢工場?」

「うん。」

「なんで知ってんの?」

「お店で流れるから。」

「今どきじゃないのね。」

陽子はうっすらと口角を上げるも、表情は分からないでいた。理由は分からない。傾慕なのか、佳奈に対するヤキモチなのかも分からないでいた。

(何時も笑ってて、分かり難い…。)

 祥太の苦手科目としてなのか、それは数学でも物理でもなく地学でもなく倫理でもないそれは…わからないもの…だった。



――クイズ部

 まつりは相変わらず諒太をとしてか見ていないのかと思うくらいの"I want I want I want...切ない"。茨城での強豪・筑波中央クイズ部に残る歴史的汚点となった「悪い意味での伝説の瞬間」とされている”猫屋敷置き去り”だった。其の内容はというと…。

 準決勝戦の清水の坂駅伝、

勝ち上がったのは前年の優勝校ラ・サール(説明不要)、貴重な女子校としての自尊心プライド…だけど知名度は男子校と比べてイマイチの宇都宮女子、同じく栃木県立だが、投打二刀流の貴公子としてシューイチの巨人コーナーのテーマが「巨人っぽい顔だね」で「K大のI江」として名前を伏せられて紹介されたのをリークされて人気が出てぬいぐるみが完売になったりてんやわんやで「オグリキャップかよ」とハンカチ王子に言われてしまった慶大野球部の入江祥太選手にわざわざサインを書いてもらってゲン担ぎのその年の夏の甲子園V石橋高校の1年生トリオ、そして筑波中央の「アスケラ」だった。

 事件の舞台となったのは全面通行止めにされた清水の町並み。そこから決勝の舞台となるのが清水の舞台だった。

 リアタイしていた事を証明するために存在する過去ログにはこのようなレスがあった。

「絶対、猫屋敷つええから筑波中央が県勢33年ぶりのVしそう」

「Vやねん!猫屋敷諒太!筑波中央!」

「すごい大逃げだね筑波中央の子。」

「俺はあんなにタダの高校生の名前を覚えられんの県岐阜商の左手の指が親指以外先天的にないという理由だけで全国区で話題になった横山温人よこやま はると以来だな。高校生クイズだと誰だろう…伊沢拓司以来だな。」

といったものだった。

 しかし、結果は裏切った。石橋高校の女の子が運悪く足が速いと巷で噂の女子マネだったのだ。リークに依るとコイツもともと投手でOB代表として中3を口説いてこいと監督に頼まれた入江が必死にあがいて3ヶ月間口説いたがその口説き文句が「夢に出てきていい?」だったらしく、その女の子は「あんたになら打たれても痛くないよ。」と返したので、其の男ね、急いで「つよつよヒロイン、確保!!」と監督にメールを送ったという逸話があったんだってよ。其の子は「ううん。筑波中央対策。ただの助っ人よ。」

 彼女は自分がプロ野球選手における助っ人である事を大前提として「なるべくアンカーの猫屋敷が逃げバテること」だけを考えて走ったらしく、アンカーは三年坂から最後の最後で清水寺の入口まで走らないといけなく、息が苦しくなっていた諒太を2km地点で捕まえ、そのまま逃げ切ってしまったのだ。

「しまった!!」

「おい…」

「コノヨノオワリダ-」

 という感じで昨年の知の甲子園を終えた。なお、Vは石橋高校だった。だけど、Xで「#猫屋敷かわいそう」がトレンド入りして2024年から炎上続きだった高校生クイズの列島横断は幕を閉じた。


「「「勝たねば」」」

諒太をセンターとして、左に歩、右にまつりと据えて。情熱物語…なのさ。

「あの子を涙目のルカにする迄に。」

「だな。」

「あぁ、桜井ルカか。やっと名前が出たよ。」

「話、変えるね。」

まつりは黄色いGoogle Pixel 10で透明のスマホカバーにロイヤルホープのスマホステッカーが飾られていたのを取り出し、男子2人に見せた。

「ほら。伏線回収。」

「【高校生クイズ2028】 本選会場は東京ドーム!史上初!本戦全編生中継!」

「今年のテーマは『最後にドカンと、虹のグランドスラム』」

「だめやろw.」

「思いついたやつ、誰よw。あだち充のH2好きなスタッフか、最後の最後で影が他のHと差がついてしまったHが最推しの奴か。」

「一般公募じゃ、ないよな。」

「うん、そうだよな。」

宿たるものを抱えては行けないね。だって、去年の敵がいるからさ。江戸の仇を長崎で討つ。いや、清水の仇を江戸で討つくらいの複雑さ、だね。

夏の影は南南東、

そして始まるの…。

「夏だし、兄には勝負はないのに自分には勝負が在るって、」

「ホント、不公平な夏。だね。」

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