8.エルマハルトとの再会3

 部屋に入るなり、エルマハルトは脱いだ上着をソファに叩きつけた。ベッドに無造作に腰をおろす。


 ぐしゃりと前髪をかきあげ、苛立たしげに窓の外を睨みつけた。


 先ほどまでレインがあの場所にいた。


 じっと彼女に振り払われた手を見つめる。小刻みに震えていた。今すぐにでも彼女のもとに行きたいが足が動かない。


(結婚がなくなった……と言ってたか? まだ一年も経ってないのに)


 こうしている間にも、さまざまな彼女の顔が脳裏をよぎった。


 壊れてしまいそうな、諦めきった横顔。

 エルマハルトだけにみせた、親しみ溢れる笑顔。

 もうとっくに誰かのものになった彼女の顔。

 思うだけで胸が掻きむしられる。


(もう、考えないって決めたのに……メイドになった、だって?)


 気持ちが悪くなるほど、誰かが誰かのために、嘘をついているような気がする。


 物音がする。誰が入ってきたのか、考えるまでもなかった。


「アルシェビエタ、怒らないから」

 エルマハルトの声音がゆっくり落ちていく。


「どういうことなのか、全部話してくれないか?」

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