第5話
(……いなくなってしまったか)
女の姿を追って上階から降りてきたが、見失った。
暗殺者や
遠目だったが何か、想いを込めてこちらを見上げて来ているように
立ち止まりもう一度、全体をぐるりと見回す。
だが姿はやはりない。
用があるならばまたきっと現れるだろうと思い、陸議は
振り返りながら、まだどこか女性の姿を探そうとしていたことが祟った。
どん、と目の前で人にぶつかり、布と竹簡が落ちる音がした。
自分が余所見していた自覚があったのと、布が散らばった気配の条件反射で、すぐにばん、と地に散らばった布を押さえつけていた。
風で煽られて飛ぶからだ。
陸議の動きが早かったので、なんとか回廊に吹く風に布が飛ばされずに済んだ。
「すみません」
陸議は手早く散らばった布を集めると、ちゃんと端を揃えてまとめた。
最後に竹簡を二つ、取り上げる。
「私が余所見をしていたので、大変失礼を」
「いや……、俺の方こそ前を見てなかったから……」
「お怪我はありませんか?」
陸議は立ち上がって相手の顔を見た。
少し困惑したような表情で、一人の男がそこに立っていた。
「……いや、こちらこそ……ぶつかって申し訳ない」
陸議は布を男に向かって差し出した。
男はありがとう、とそれを手に取る。
「すべてあるでしょうか……飛ばなかったとは思うのですが」
「ああ、大丈夫だ。見てた」
「そうですか……本当に、大変失礼いたしました」
「いや、こちらこそ」
深く一礼し陸議は歩き出したが、まだ少し後ろめたさが残って、途中で振り返っていた。
上階へ向かう階段から振り返ると、男がまだこちらを見ていた。
簡素な平服姿で、戸惑いが顔に現れている。
随分粗忽な侍女だと思われたようだ。
陸議は慌ててもう一度一礼し、足早に上階の回廊へと向かった。
「あの……
「ん?」
立ち尽くしていた
「そうだが……」
「
「ああ、良かった。完全に忘れられてるのかなと思ったよ」
「はい?」
「いや、いいんだ。どうもありがとう。どこに行けば会えるだろうか?」
「賈詡将軍のお部屋は
「白龍宮……」
徐庶が思わず悲しげに呟くと、女官が数秒後「あっ」という顔をした。
「よ、よろしければ御案内いたしましょうか?」
「……いや……時間を使わせて悪いんだが、そうしてもらえると助かる……」
かしこまりました、と女官が先に歩き出してくれる。
「フラフラと水路を追って来てしまったんだが、あの上の居城には一体誰が住んでるのだろう?」
後ろの男が何を聞いてきたのかと思わず笑ってしまった。
そんなことも知らないなんて、一体どこの田舎から出て来た人なんだろうと思ってしまったのである。
「まあ。あの城は
そこから先は甄宓様に許された方しか入ることが出来ぬ場でありますよ」
そうなのか。
回廊を歩きながら
丁度先程ぶつかった侍女が城の入り口に辿り着き、更に奥へ消えていく姿が見える。
彼女の淡い色の
【終】
花天月地【第28話 白の盤上】 七海ポルカ @reeeeeen13
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