目覚める力ーEyeー
舞台裏
叡智集う場所は静寂に包まれ、その中で騎士は書を手にとって目に通す。仲間達が試練に立ち向かうならばと、今自分がすべきことを積み重ねていく。
コスモス総合魔法院の図書室にてエルクリッドとシェダが修行に挑んでいる間、リオは図書室にて本を手に取り目を通しては戻すを繰り返す。
傍らにはノヴァがついてリオが戻さなかった本を受け取り、少し重かったので両手で抱えその姿にリオは微笑む。
「無理はしなくて結構ですよ」
「すみません……でも、僕も何かしなきゃって」
リスナーとしてアセスはおろか、カードを使う事もまだできないノヴァの思いはリオもよくわかっている。だからこそ彼女のやりたいようにと邪険にせず、共に読書の為の机に向かって座り本を広げ目を通す。
「天族の本……リオさんは戦乙女のローズさんをアセスにしてましたよね」
えぇ、とノヴァに答えながらリオは少しだけ胸が苦しくなる。戦乙女ローズ、天族と呼ばれる古の英雄であるが、今自分と共にいてくれるローズは伝説のそれとは異なる存在だから。
その事実をタラゼド以外にはまだ伝えてはおらず、ノヴァはもちろんエルクリッドとシェダもそれは知らない。
「天族と呼ばれる英雄達はかつては人間で、道半ばにして倒れた彼らを哀れんだ者達の手により転生を果たした姿とされています。数多の伝説が語られてはいますが、正確なものは何もなくここにも所蔵されていないようです」
よくあるおとぎ話、尾ひれがついた伝説。実があるからこそと言いたいが、それ以上の事実は語られてはいないのが確かである。
エタリラの叡智を集めるコスモス総合魔法院の図書室であってもそれは変わない、少しでも何か知れればと思って情報を求めたリオとしては少々の落胆もある。と、うーんと唸って天井を見上げながら何かを考えるノヴァの口から、こぼれ落ちるようにある可能性が示唆された。
「どうしてないんでしょうか……わざと、ではないでしょうし……」
あえて置いてない。なんとなくその言葉がリオは引っかかり顎に手をあて自分でも考えてみた。
コスモス総合魔法院の図書室はあらゆる本がある。今は失われた魔法の事など詳細に記したものもあり、またそれらは許可なしでは本が開かないように魔法が施されている。
もし天族に関する書物が実在しているならばここにあってもおかしくはない。だがないとすれば喪失してしまっているか、そうではない理由か。
そんな事を考えてると魔法院の関係者でもあるハシュが近づき、二人が目を向けるとニッと笑みを見せつつ本についてある事を話してくれた。
「ここにあるのはほとんどが魔法に関するもの、で、リスナーのは全体の二割くらいしかねぇんだ。大抵はメティオ機関の方にあったからなくなったのもたくさんあるし、復元してるのもあるがまだまだ時間がかかるが……少しは俺の記憶から情報を伝えられるかもしれねぇ、知りたい事あれば聞いてくれ」
元々はリスナーの養成をしていなかったのをするようになった事による対応の遅れ。ハシュが語る理由は納得するには十分ではあるが、彼が質問をしても良いといったことでリオがすぐに問いを投げかけた。
「ではお聞きしましょう。天族について、今ここにある記録にはない事をお教え願えますか?」
「いきなりっすね、まぁ……答えられない質問ではないけど」
そう言ってハシュが眼鏡の位置を直しつつ、魔法維持の為に集中を続けるタラゼドへ目を一度配ってからリオらに向き直り、知り得る知識について口にする。
「天族というのは大昔、まだリスナーが一人だった頃の時代にいた存在さ。具体的にどんな方法を使ったかまでは記述とかないかわからないが、エルフ族の助けがあったって事は聞いてるな」
エルフは古代より生きる亜人族。様々な噂から狙われ数を減らし、その末裔も静かに暮らしているとされる。
それが関わっているならば記述が不自然にないのも合点がいくが、ここでノヴァはハシュの言葉で新たな疑問が浮かぶ。
「リスナーって、元々一人しかいなかったんですか?」
「そうか、普通は知る事もねぇ話だからな……」
そう言ってハシュが遠くの本棚に目を向け、左手をかざし手招くような動作をすると一冊の本がひとりでに飛来し彼の手元にやってくる。
それを慣れた様子で片手で開き、頁を確認してからノヴァに見えるようにしながらハシュが答えるのはリスナーの起源についてだった。
「かつて一人の若者が魔物達と心を通わせ、他の生命との調停役として活躍していた。声を聴く者、と当時は呼ばれていたその若者が自らの力を世界に解き放ったからリスナーが生まれるようになったんだ」
声を聴く者の名前は神獣の伝承を聞いた際にも出てきたとノヴァは思い返し、はるか古より続くものの繋がりを感じた。
だからこそ、さらなる疑問が浮かぶ。
(どうしてあの時、エルクさんは古代文字を読めたんだろう?)
専門家でも読む事は容易ではない文字をエルクリッドはすらすらと読み上げ、本人の言葉を借りるなら感覚で解読したということらしいが、改めて思うと不思議な話である。
何故彼女は読めたのか? しばらく考え込むが答えは出ず、今は修行を終えて二人が戻って来る事を思う事にした。
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