万華鏡の中で
シェダが鬼と対峙しているように、エルクリッドもまた修行場となる場所へ落とされていた。
ゆっくり進む彼女がいるのは光が溢れるような銀の水晶で覆われた洞窟。地面以外が万華鏡のように自分の姿を映し出し、それが延々と続く不思議な世界だった。
(あぁ……麗しきエルクリッドが何人も……)
(そんな事言ってると怒るよセレッタ。今はそんな事より修行を終わらせないとさ)
心に響く
アセスを召喚するには道幅は広いとは言えず、少しでも魔力を温存する意味でもエルクリッドはカードをまだ使えない。何より今いるこの場所の事も何一つわかってはいないのだから。
(鏡みたいな水晶……キレイだけど、何の意味があるのかな?)
少し尖った水晶にそっと触れながらエルクリッドは思案するも答えは出る事はなく、また、水晶は確かにそこにある実体なのも確認ができた。
右を見ても左を見ても水晶とそこに映る自分の姿しかない。迷路に入り込んで行き先が見えない、自分の心がそうさせるのかと思わせる程に静かで、無味無臭の煌めきが広がるだけ。
考えてみるも答えらしいものは浮かばず、代わりに浮かぶのは仇敵バエルの新たな素性の事だった。
(五曜のリスナー、か……)
また、自分の知らないメティオ機関の側面をリオは知っていて、その詳細についてはエルクリッドは何も聞いてはいない。
(あたしの居場所だったところ……何をしてたのかな……それに巻き込まれたっていうなら、あたしは……)
繋がりそうなものを繋げたくはない。だがそうしなければいけないと心が訴えてくるような気がしてならない。
迷いが自然とエルクリッドの足を止め、顔を俯かせて万華鏡の中に佇ませる。その姿を嫌でも見なくてはいけないように、洞窟は無慈悲に彼女の姿を映し出していた。
悩むエルクリッドに彼女のアセス達が声をかけようとした時、ふと何かを感じてエルクリッドが顔を上げ周囲を見回す。
無限に広がる似たような景色の中に何かがいる。何度も見回すも姿は見えず、だがその存在感は強くなっていく。
と、エルクリッドは無限に映る自分の姿の中に何かの影を捉え注視する。一瞬ではあるが、水晶の反射の中に何かが泳ぐように移動しているのに気づき考えずにその場から走り出す。
(何かいるけど、今ここで召喚はできない……!)
道幅の狭さ故にアセスを召喚し戦うのは困難であるし、何かが潜み近づくのは走れば走る程に確かなものとなり水晶の中を通る影も色濃くなっていく。
やがて水晶が花のように咲き乱れる拓けた空間に出るとエルクリッドは急停止しつつ反転し、カードを引き抜き魔力を込めて解き放つ。
「仕事の時間だよセレッタ! まずは水晶を何とかして!」
「承知しました!」
濁流は水晶にぶつかるとそのまま泥を付着させて輝きを奪い、収まる頃には幻想的な光景は一変しセレッタも少し首を伸ばし意気揚々としていた。
(さぁてこれで何が出てくるか……)
カード入れに手をかけながらエルクリッドが警戒を強めていくと、汚れた水晶の中に潜むそれが蠢いて姿を消す。と、次の瞬間に泥まみれの地面を突き破り、眩い輝きを纏うそれはエルクリッドの目を奪う。
(この魔物は……)
現れるのは水晶の身体とトゲで全身を覆う大蛇ともミミズとも言える異形の魔物。初めて見る存在にエルクリッドはどうすべきか考えるが、何故か思考できず一瞬動きが止まっていた。
刹那にセレッタがエルクリッドを背に乗せその場から離れると、元いた場所へ魔物がトゲを降らせて攻撃をかけ、ハッとエルクリッドが我に返るとすぐにセレッタから降りて自分の頬をパンっと叩き気を引き締める。
「ありがとセレッタ」
「見惚れるならば僕だけにしてもらいたいものです。初めて見る魔物ですが……このまま僕が戦うとしましょう」
「うん、お願いね」
臨戦態勢となるエルクリッドがカードを引き抜き、いつものように応えてくれるセレッタの姿を見て目に光が宿る。
だが、何かがいつもと違うのをエルクリッドは感じていた。水晶の魔物の姿を見て、心の中で何かが引っかかり手が止まりかけてしまう。
(あたしは……あの魔物を知っている……?)
存在しないはずの記憶、存在するはずのない懐かしさ。奇妙な感覚に苛まれかけるも首を大きく振って深呼吸し、エルクリッドは試練に挑む。
NEXT……
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