天族の真実

 壁に飾られる歴代の騎士達の勲章の数々をタラゼドは眺めつつ、寄り添うように団長ジュダルが微笑みそうでしたかと答え共に勲章を見つめる。


「リオを助けてくださりありがとうございます。別行動しているという方々も招いてお礼をせねばなりませんね」


「お気持ちだけで結構ですよ。わたくし達は人として当然のことをしたまでのこと……結果的にこちらと繋がった、というだけのことですから」


「相変わらずですね、貴方は……だから私は……」


 ジュダルが言いかけた時に扉を叩く音が聴こえ、慌てる素振りを見せながらジュダルは自分の仕事机の方へ移動し、それを見てタラゼドは首を傾げつつ部屋に入ってくるリオと対面し、リオもまた小さく頷いてからジュダルの前へと歩を進めた。


「助けられてからの事はタラゼド殿からお聞きしました。まずは無事で何よりでした……そして、此度の敵はただの悪党でもない。報告を、リオ」


「はっ、リオ・フィレーネより騎士団団長ジュダル・エーネルに調査内容について報告します」


 凛と振る舞う姿は美しく気品に満ち、だが僅かな不安も抱えてるようにも見えた。しかし、それを抑えるものがあるともタラゼドは理解しながら見守り、リオもまた、共にいるアセス達の存在を感じながら報告を始めた。


「密造カードそのもの製造工場は見つける事は叶いませんでしたが、代わりに人造アセスの製造工場に潜入ができ調査を進めました」


「人造アセス……リスナー以外の人間でも召喚可能なアセスの事か」


「はい。ツール使用・不思議な小箱……この中に記録したものを保管してあります」


 カード入れからリオがカードを引き抜いて使用し、手の上に表れるのは銀の小箱だ。それを開くと中から畳まれた紙がいくつか入っており、それを一つ一つジュダルの机の上に並べていく。


「タラゼド殿もどうぞ、貴方ならばこの術式について何かわかるかもしれません」


 タラゼドも近づいて見たそれは、いくつかの写真とリオの走り書きの数々である。魔物が入れられた檻が無数にあり、それとは別に何かの溶液が満ちたものに浸された魔物などがいた。

 その中でもタラゼドが目を細め、手にとったのはリオの走り書きである。思案しつつ記憶を遡り、そこからある答えを導き出す。


「これは……禁呪ですね」


「内容はわかりますか?」


「全てではありませんが、これらは今の時代では失われた術式のものです。強大すぎる故に代償の大きなものや……生命を冒涜する人造生命創生といったもの……」


 ふと、タラゼドが何かに気づくのをリオは見逃さずに彼の名を呼び、深呼吸をして間を置いてから改めて問いかける。


「何か、心当たりがあるんですね?」


「ええ、歴史上最高の錬金術師にして、かつて災厄をもたらしたネビュラ・メサイア……写真と同じものをかつて彼の研究所で見た事があります」


 普段は穏やかに話すタラゼドの言葉が重く、鋭く、そして語られた存在は名は出ずともリオもジュダルも知る恐るべき存在であった。

 それが関わっているというだけで事態の重さは一気に増し、それでもリオは報告しなければならないと意を決して続きを語り始める。


「そこでは、人体実験も行われていました。助けられる命をと思って手を出してしまって……そこで見つかってしまって……」


 リオの言葉が詰まる。身体が微かに震え、タラゼドも一瞬声をかけようとしたがジュダルの見守る様子に従い、気持ちを改めて引き締めたリオが前を見てさらに報告を話す。


「逃げ込んだ部屋にて見つけた日記で、私は彼らが人体実験の果てに人間を改造し魔物として錬成していると知りました。その材料としてリスナーの素質あるものが使われてるという事……そして、私のアセス・ローズもその一人だとも」


 戦いを切り抜けて逃げ込んだ部屋にて見つけた事実が、リオとローズの心を引き裂く。

 これまで見てきたものと合わせてそれが事実と認めるしかなくなり、そして、そこで出会った人物から語られた事も。


「ローズは、かつて存在したとされる天族を人工的に再現する為に造られた存在。元はリスナーだった存在だと……初の成功体故に制御できずに逃走して、私と出会ったのだと……」


「わかりました、報告はもう大丈夫です。辛いのに、よく話してくれました」


 声を震わせる事なく凛としリオは話し続けるもジュダルの判断で止められ、席を立つ彼女が抱擁するとそのまま崩れるように寄りかかり涙を流す。


 助けられなかった命を多く見て、残酷な真実を知ってしまった心はどれだけの痛みと傷を負ったのか計り知れない。それでも、騎士として任務を果たそうと努めていた。


(リオさん……あなたは、素晴らしい騎士です。その心の強さに心からの敬意を)


 タラゼドが静かに思う事はリオのアセス達も思っていること。特にローズは、自分が真実を知り慟哭に沈んでいた時でも騎士としての誇りを胸に生きようと、戦い抜こうとしたリオの心遣いに静かに涙する。

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