自ら消える村

 杉沢村伝説、というものを知っているだろうか?

 杉沢村は昭和の初期に青森県に存在したとされる村であり、凄惨な大量殺人が行われたとされている。


 村人の一人である青年が突如として住人を惨殺し始め、全員を殺害した後、自らも命を絶ったのだという。

 そのあまりの悲惨さから、政府によって杉沢村は存在を抹消され、杉沢村が存在した場所の入口に――


「ここから先へ立ち入る者、命の保証はない」


 と書いてある看板が立っているという。

 杉沢村を探すものは多く、メディアにも取り上げられたが、その場所が発見されることは無かった。

 杉沢村は尋常な空間に存在するのではなく、時空の狭間に存在するのだ……などと言われることもあった。


 無論、ただの都市伝説である。

 そんな村は存在しない。仮に大量殺人事件が起こった村があり、村民が全滅するような事があったとしても、別にその事件を政府が隠蔽する必要もない。


 だが、地図から消えた村、というものは実在する。

 例えば、ダムの底に沈んだ村や、人口減少で他の村と合併することになった村、災害などで村の住民が丸ごと移住する必要が出てきた村などだ。

 その中でも、特別に希少な例がある。


 月岡村、という村があった。

 山深く、洞穴の先に存在する村であり、その洞穴を通らなければ、月岡村に行くことは出来ない。


 月岡村は住民も閉鎖的で、村民以外の人間を決して村の内側に入れることはない。商業的な取引が必要な時は、洞穴の外まで村民が行くのだという。

 村民は皆陰気で、なんだかコミュニケーションを拒むようなところがあったという。


 ある日の事である。

 月岡村に通じる洞穴が、落盤によって閉ざされた。

 唯一の通路が閉ざされた状態では、月岡村の住民も長くは保たない。

 月岡村の隣村だる日向村では、直ぐ様月岡村を閉鎖状態から救うために、洞穴を掘った。


 危険を伴う掘削作業を数日。日向村の住民はそれを見つけて、驚愕し、困惑した。

 それは板だった。

 ただの板ではない。あまりに大きく、本来の洞穴通路を塞ぐような大きさのもの。

 これは蓋だ、と最初にその板を見た日向村の村民は思ったのだという。

 月岡村へと続く道に、蓋をしているのだと。


 そう思ったのは、その大きさだけが原因ではない。

 板には、それを発見したものに見せつけるように、こう書いてあったのだという。


 来るな。

 掘るな。

 ――と。


 月岡村は、自ら埋まったのだ。日向村ではそう判断した。

 加えて、これ以上の掘削作業が危険であったことも有り、救助活動は中止となった。


 日向村のとある村民は、月岡村の村民がこう語っていたのを覚えている。

 こんな村、消えたほうが良いんだ、と。

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