流星の子

 ある夜の事である。

 私は山道をドライブして、山頂近くの駐車場兼公園にやってきた。車を停めて、ベンチに座る。


 ベンチの前には簡単な木の柵があって、その先は崖になっていた

 その日は、流れ星がよく見えた。

 夜の黒を切り裂いて行く流れ星。思わず、願い事でもしてみようかなんて思うくらいに。


 さて、確か消える前に、三回願い事を言えれば良いんだっけ? などと思った時だった。

「流れ星だ!」

 子供の声がした。同時に、何かが私の横を走り抜けていった。


 えっ、と思うよりも早く、それは柵を飛び越えていった。

 背格好からしても、やはり声の通りの子供だった、と思う。

 私は直ぐ様、柵の下を覗き込んだ。月の光もあったし、なにより崖はそれなり程度の深さしかなかったため、底まで見通すことが出来た。


 そこには……何もなかった。

 覗き込む前に想像した、子供の無惨な姿どころか、何かものが落ちてきた後すら無い。

 もしかして、私は何かを見間違ったのだろうか。


 何度か見直してから、それでも何も見当たらないので、私はその日は帰る事にした。


 数日後。

 私はまた、同じ駐車場にやってきて、またベンチに座っていた。

 前回の事は見間違いだったのだろう、そう結論付けた……というより、結論づけるために、ここまでやってきたのだった。


 そうしてまたベンチに座った時だった。

「流れ星だ!」

 また、同じ声がした。


 それに反応するよりも早く、ベンチの横を子供が駆け抜けていく。

 そうして、また、柵を乗り越えて崖を落ちていった。

 私は再度崖を覗き込んだが、底には何もなかった……


 恐ろしくなった私は、そうそうにその場所を立ち去ることにした。

 あれ以来、私はその駐車場に足を踏み入れたことはない。

 きっと、今日もまた、あの子は崖下に落ちているだろう。

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