餌を与えてはいけません

「なんだかよくわからないものでもさぁ、餌付けできそう、みたいに思うこと有るじゃん?」

 と、その男は言っていた。


 それを初めてみたのは、とある神社の物陰だったという。

 明らかに、自分が知っているどの生き物とも、異なった代物だった、と男は言っていた。ただし――


「全然覚えてないんだよ、細かい部分を」

 手足があったのか、それは何本だったのか、目鼻、毛は……それら全てが茫洋として、思い出そうとするとするりとすり抜けていって、掴みどころが無い

 異様な怪物であったことと――


「口があったのは確かなんだよな」

 なにせ、ものを食ったんだから、と男は言う。

 男は、その生き物を初めてみた時、手に持っていたコンビニのホットスナックを渡してみたのだという。


 生き物は、それを食べたらしい。

「なんだか面白くて、何日か、いろんなものを食わせてみたんだよ」

 人間の食べ物。酒のつまみ。ドッグフードやキャットフード。はては、小動物の死体まで。


 なんでもよく食べたそうだ。

 口の前にそれを持っていくと、まるで吸い込むようにして、何でも食べた。

 だから面白くなって、いろんなものを食べさせたのだという。

「餌付けできると思ったんだけどさ、無理だったよ」


 そう言う男の右袖は、無風の中の鯉のぼりのように虚しく揺れていた。

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