赤い人のくる部屋

 小学生時代からの私の友人である田宮は、同じく友人である伏見の家に遊びに行くと、たまにこんな事を行っていた。

 今赤い女の人が通っていったよね。

 何を言ってるんだよ、と伏見は笑っていた。


 実際、伏見の家にそれらしい女性は居ない。母親は働きに出ていて、友人たちが家に集まっているような時間帯には、家から出ている。

 他に家に住んでいる女性は居ない。


 見間違いだろう、という伏見に対して、田宮は頷いた。

「まぁ、多分そうだよなぁ」

 と。


 何故そんな事を言ったのかと田宮に問うと、彼はこう答えた。

「だってその赤い人さ、窓から入ってくるんだもん」

 と言って、伏見の部屋の窓を指した。


 それを聞いて、田宮は表情を歪めた。

「いや、それはないだろ」

 田宮がそういうのも当然だ。田宮の部屋は二階にあって、伏見が指した窓も、屋根に面している。


 屋根伝いに、赤い服を来た女がやってきて、窓から入った、というのだろうか? そんな事はあり得ないだろう。

「普通はそうだよな……俺が見た時、窓閉まってたし」


「窓閉まってるのに、入ってきたの?」

「うん、ふわーっと入ってきて、そのまま押入れのなかに入ってった」

 伏見の言葉に、田宮は黙った。押し入れを人が来ているときに開けたことなんて無い。


 なんだか嫌な気分になってしまったが、それでどうにかなるわけでもない。

 それからも、伏見はときどき、田宮の部屋で赤い服の人を見かけているという。

 不気味は不気味だが、何よりも、何も起こっていないことが、逆に田宮にとっては不気味だという。


 何か始まらないから。

 何も終わらないのだから。

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