猿が見ている


 新庄さんという女性から聞いた話である。


 その日、新庄さんはとある動物園に来ていた。別にそれほど有名なところではなく、珍しい動物が居るわけでもなく、当然のことながら来場者数も少なかったらしい。


 だからこそ、ゆったりと色んな動物を見て回れたのが、なかなか気に入っていた。

 アフリカの動物が多くいるエリアでシマウマやダチョウを見て、猛獣が多くいるエリアでライオンや虎を見て、ニホンザルが居るエリアにやってきた。


 岩場のようなエリアの中で、本来は多くのニホンザルが毛づくろいをしたり、のんびりと日向ぼっこをしたりしているのが常らしかったが、その日に新庄さんから見える範囲内に居たのは、三匹だけだった。


 そのニホンザルの様子を見て、新庄さんは思わず、うへぇ、と声を上げた。

 ニホンザル三匹のうち、一匹は四つん這いになり、もう一匹はその尻に乗っかるようにしていて……つまり、交尾をしていたのだ。


 ニホンザルの交尾は、それなりに人に近い動物のそれであるだけに、なんだか生々しく、少しばかり新庄さんは忌避感を覚えた。

 とはいっても、動物のすることであるわけだし、そんな事を考えるのがおかしい、とも思ったらしい。


 見える範囲に、ニホンザルはもう一匹居た。そのニホンザルは、交尾している二匹のニホンザルを、少し離れた場所から、二匹の交尾を眺めていた。

 なるほど、一匹あぶれてしまったのか、それは少し可哀想かもしれない……などと思いながらそのあぶれたニホンザルを、新庄さんは見ていた。


 ふと、あぶれたニホンザルが新庄さんの方を見た。

 目があった。そして、そのニホンザルは歯を剥き出しにしたのだという。

 その次の瞬間、新庄さんは恐ろしくなって、その場から走って離れた。

 いや、逃げたのだという。


 それは、ニホンザルが歯を剥き出しにして、鳴き声を上げたからだったらしい。

 いや、新庄さんから言わせれば、それは鳴き声ではなく、声、言葉だったという。

 ニホンザルは、新庄さんに向かってこう言ったらしい。


 こいつで済ますか、と。

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