カツラ

 職場の上司、そこそこいい歳の、メガネを掛けたおじさんなんだけど、明らかにカツラだ。

 職場の全員が勘付いてるレベルで、明らかにカツラだ。

 なんというか、途中から明らかに髪質が変わってるのが分かって、妙に黒黒してる感じになっている。


 あんなにバレバレだと、かえって付けないほうが良いんじゃないかな? なんてみんな思っているけれども、口に出すにも出せない。

 別にそれで誰が困るってわけじゃないんだけれども。

 気にはなる。


 まぁ、バレバレなくらいなら別にいいんだけれども、たまにちょっとズレていることがある。

 それは少し困る。真顔でズレたカツラを見せられると、笑いそうになる。堪えなきゃいけないこっちの気持ちにもなってほしい。


 ある日のこと、仕事前の朝礼で、前に立った上司。そのカツラがズレていた。

 それに、今までになく盛大に。

 もう、まるで軍人のベレー帽みたいな傾き方をしていた。みんなして、吹き出しそうになっている。


 朝礼が終わって、上司が後ろを向いた。

 すると、その瞬間に、上司のカツラが更に盛大にずれた。


 そのまま、ずるりと落ちそうになって……その下から、うっすらとピンクがかった白のぷるんとした塊が見えた。

 ぞくりと、私の身体が震える。


 上司はこちらを見ること無く、カツラがずれるのを受け止めて、しゅっと一瞬で元の位置にカツラを戻して、去っていった。

 上司のカツラがズレた下にあったのは、剥き出しの脳みそだった。

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