第45話 新たな生活
涼太の言う通りにした。
私はママには、
”忙しいから”
と言って帰国パーティーには行かなかった。
賢い子だから・・・。栞はきっと上手くその場を乗り越えられる。だから、何にも心配なんてしていなかった。
私は、部屋で一人で夕食を食べた。
食欲は、なかった。
22時を過ぎたころ、
”終わったよ
今、家に帰ってる
涼太も來未ちゃんも演技派だね
昨日の事が嘘みたいに
普通だった
ママもパパも久しぶりに会ったら年とったね
涼太も心配するはずだ
俺も少し罪悪感
大切な娘さんに手を付けてるんだもんね
俺も精一杯
大切にしようって思ったよ
おやすみ”
栞にしては長い文章。
きっと思うことが多くあったんだろうな・・・。
苦しい思いをさせてしまった。
栞は実家へ戻るのではなく、近くのマンションに部屋を借りた。
”一緒に暮らす?”
おちゃらけながら、本気なのか冗談なのかよく分からないテンションでそう言われたけど、私はサラッと笑ってごまかした。
少し前なら、単純な私は、浮かれ気分でその言葉を真に受けることもできたかもしれない。
だけど
涼太の顔がチラつくから。そんなことできない。
私は、月に何度か栞の部屋へ行った。社会人の二人には、そのくらいのペースが丁度よかった。
栞は、春を待たずに学園に入った。高等部で英語を教えるらしい。教師になんてなる予定ではなかったから、教師感はゼロ。
容姿だって誰が見たって100点以上。
優しい口調で、こんなに綺麗な瞳で見つめられたら、栞はただ見ているだけでも、見つめられた方は、思春期だから、簡単に落ちてしまうと思う。
高校でこんな先生がいたら、罪だ。
女子生徒たちは心がざわつくに違いない。
教育には良くない。
私がそんなことを話すと、栞はにっこり笑って、
「悠ちゃんだけだよ。俺なんかに落ちてくれるのは・・・」
年齢の割に子供っぽい嫉妬をする私を、栞は呆れることも無く、安心させようとしているようだけど、
私はいまいち納得はできなかった。
ただ、栞から抱きしめられる権利は、私が持っている。それだけが私の強みだった。
栞は、不慣れな仕事に栞は残業も多く、家に帰っても参考書や教本を開いて勉強をしていた。
私は、彼の邪魔にならないように、集中している彼に声をかけずに帰ることもあった。
自分の部屋について、しばらくしたら栞からメールがある。
”いつもごめん
今度、埋め合わせさせてね”
そんなことは別にいいのに・・・。栞は今、苦しい時期なのだから。私は支えていきたいと思っていた。
今日、ママから電話があった。
「悠ちゃん・・・。あのね」
いつになくモゴモゴするママ。
何か言い辛そうな雰囲気。
「どうしたの?」
私には、後ろめたいことがあるから、早くママの言いたいことが聞きたい。
「涼太がね、結婚することになったの。」
ママはそんなことを・・・、そんな嬉しいことを、
私に言い辛いのかと思うと、親不孝感がこみ上げる。
「來未ちゃんと?」
当たり前のことを、淡々と聞く私。
「そうなの・・・。悠ちゃんの後に、って、弟なりに考えはあったみたいだけど、來未ちゃんとは長いでしょ?だからね」
ママ・・・。言い訳のような話し方はやめて!
私に気を使って・・・。
「よかったね
來未ちゃん良い子だから、涼太はしっかり幸せにしてあげなきゃね」
そう言うとママは少し明るくなった。
「そうよね。そうよ、私も悠ちゃんと同じ。そう思ってる。良かった~」
きっと、その″良かった〜″は、2人の結婚ではなく、私のリアクションが拗ねていなかったことへの言葉だろうと、わかっていた。
それが、申し訳なかった。
ママ・・・ごめんね。
私がこんなんだから、みんなが心配してるし気遣っているね。
本当にごめん。
ママから連絡をもらった後も、涼太からは、何も報告は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます