第33話 特別な日
今日はきっと特別な日になるだろう。私にもそのくらいの予想はできていた。前回のデートで、早川に言われた。
「再来週の木曜日は、初めて会ったあのレストランを予約しているから。」
私たちが付き合いはじめて二年を迎える日だった。
最近の早川は、私の名前を呼ぶ時、″悠さん″から″悠″と呼ぶようになった。そして、私たちは将来に向けての会話も増えてきた。早川の理想の家庭。
「子供が3人。性別はどちらでも良い。何かスポーツをしてほしい。休みの日は、一緒に練習をしたり、子どもたちの試合を見に行きたい。そして、奥さんは、専業主婦で、家を守ってほしい。自分と子どもたちの事を、優しく見守って欲しい。僕は我儘だから、可愛い子どもたちに囲まれて、奥さんを独り占めしていたいんだ。」
などと、具体的な夢を語ったりもしていた。
私はそれを聞きながら、
″専業主婦か・・・。今どき珍しいけど、不器用な私には、丁度よいのかもしれない。″
と、その夢に乗っかるように、妄想していた。
きっと、プロポーズされる。
彼の特別な言い回しに、私はそう確信していた。
木曜日。
今日は、この日の為に購入した、ベージュピンクのワンピースでレストランへ向かった。ここへは久しぶりに来る。そう言えばここに来るのは、栞がアルバイトをしていたことが分かった日。栞と恋を始めた日以来になる。
否が応でも、栞の事を考えてしまう。
だめだ、今日は考えたくない。私たちにとって特別な日に、あの恋の事を思い出してはいけない。消しても消しても蘇る栞との恋の日々。だけど、あれは夢のお話。私が、長い間、夢を見ていたのだと言い聞かせている。
目を覚まさなきゃ!
私が店に着くと、店員はやはりあの席へ案内した。
こんな時に、この席に座るとまた、思い出してしまう。早川はすでに席についていて、何やら緊張した面持ち。料理はすでに頼まれていて、席に着くなり運ばれてきた。
私たちは静かに、会話を重ねながら食事を始める。
やはり早川はソワソワ落ち着かない様子。
30分くらいしたころ、早川は小さく咳払いをしてフォークを置いた。
”いよいよ来る!!”
私も何か緊張し背筋を伸ばした。
「あのさ・・・。今日ここへきて話したかったのは二つあって、どちらから話すべきか悩んでいたんだ。考えていてね。僕には決められないから、右と左。どちらかを選んでほしい。」
彼は私の前に握りしめた両手拳をだした。
「僕の中で、右を選ばれた時の話。左を選ばれた時の話。それぞれ決めているから、悠さんが選んだ方から話そうと思う。」
私は子供の頃、よく弟とした宝物を当てるゲームのようにワクワクする。嬉しい想像しか浮かんでこない。ニタニタしてしまう。
「えっ?何?気になる。でもちゃんとどちらも教えてくれるんでしょ?」
そう聞くと、早川は優しくにっこり笑って、ゆっくりうなずいた。
「じゃ・・・。左。」
そう言うと、
「そっか。」
早川は小さく呼吸し、少し考えてから話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます