第27話 奪われたら

彼らが棚卸作業で連続してこの店に来た最後の日のこと。一年後輩の恭子が私に猫なで声で、すり寄ってくる。


「悠さん、今日は早帰りでしょ?早川さんがみんなを飲みに連れて行ってくれるって、棚卸の打ち上げですって!!聞きました?私、遅なんですよ・・・。困っちゃって。もしよかったら変わってもらえませんか?」


私に上目遣いでお願いをする彼女は、後輩なのにいつも強引。″もしよかったら″と、言いながらも、そんな謙虚な子ではない事はよく知っている。


”悠さんだって行きたいかも?”


だなんて気遣い全くない。悪自己中心的な子!!いつもなら、彼女の満面な笑顔に嫌気もさすのだけど、今日は特別。


「行ってらっしゃい」


そう二つ返事で言って、彼女の願いを受け入れた。彼女は、羽が生えたように喜んで飛んで行った。分かりやすい子。


つい最近、彼氏とのノロケ話を聞かされたのだけど、なんだったんだろう?


″そっか、イケメン2人との飲み会は別腹か。″


彼女の後ろ姿を見ながら、心の奥で納得する。


私と主婦パートの宮田先輩以外は、早々仕事を切り上げて、みんな行ってしまった。少し寂しくも感じる店内で、私たちは通常通りの作業をしていた。


「愁ちゃんは良かったの?」


いつも優しい先輩は、私を気遣う。


「はい」


閉店作業をしながら、私はホッとする反面、勝手なもので、自ら逃した早川への何とも知れない気持ちがこみ上げていた。


今頃、ハーレム状態だろうな・・・。男性二人にたいして、女性四人。吉本さんも可愛い顔してるけど、まだまだ頼りないし、きっとみんな早川さんを狙っているんだろうな。


狙ってる?何を?みんな、彼氏ありの子ばかりだったよね。


イケメンと会食だけでも潤うのかな?それとも、一晩の関係?優良物件への乗り換え?

彼がここへ来るたびに、同僚たちのキラキラした彼を見る眼差しはすごいもので、いつも早川争奪戦になっていて、


”手がきれいでセクシーだよね”


”声が良い”


”笑顔にやられる”


と、みんな普段から彼の魅力を言い合って楽しそうにしていた。彼の魅力に引き込まれていたから、今頃は、彼のまわりでは、彼をどうにかものにしようと、女同士の戦いが行われているだろう。

特に恭子はそういうのが上手そうだから、先輩たちの事なんてまったく気にしなくて、遠慮なしで、同姓が嫌がるほどの可愛さを全力で武器にする。だけど、男の人はそういうのが好きだから、彼女はまんまと手に入れて、明日、ここでは彼女に対する嫉妬と愚痴を皆がいいあって、彼女は遅出だから、なぜか余裕な満たされた顔で出勤してきて、


”恭子が早川さんをものにした”


と皆は嫌悪感いっぱいで噂をするだろう。私もそう思うだろう。だけど、彼女は全く気にも止めない。

だって、勝ったのだから。


私も悔しいのかな?

私も嫉妬するのかな?


そんなの身勝手なことは、十分にわかっているけど、やはり目前で持っていかれるのはいい気分はしない。自分のものでもないのに、変な感情。やはり、私はワガママだ。心の中でブツブツと自分と会話をしながら、今の素直な感情と向き合っていた。

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