第21話 自問自答
私はまた、頭の中の自分と自問自答していた。一緒に居る早川を置いてけぼりにしていると、彼は静かに話しかけた。
「なんだか考え中みたいだね」
何かを見透かしたような目。私はビクッとする。取り繕うように首を横に振る。それを見て早川は小さくため息をついて、少し笑った。
そこからはいつものように!
を心がけて話をした。チラチラとホールの方を見ながら・・・。
いつものようにはなれなかった。ワインはそれ以上進まなかった。ウェイターがお皿を引きに来ると、毎回、顔を見てしまう。栞がこのテーブルに来ることは無かった。
食事を終えると彼はいつになく無口でタクシーに私を乗せた。
「じゃまた」
なんだか申訳のない気持ちになる。
「また・・・」
そう言うと彼はドアをまた開けて私の横に座り、
「やっぱり家まで送らせてよ」
タクシーの運転手さんに行き先を告げる。
家までの25分間。
彼は私の左手を握る。
私は彼の方をチラッと見ると、彼はこちらを見ることなく真っすぐを見ている。何かを考えているようだ。何も話さない。私も何も話せない空気。
家の前について二人でタクシーを降りる。
「待ってますか?」
運転手さんに、そう聞かれると、早川は私の方を見る。
なんて言ってほしいかは、私だってわかる。
”どうするんだ?”
と、言わんばかりで目を離さない。私はうつむき。
「早川さん今日はありがとう、ここで大丈夫です。」
そう言って、彼の手を離す。
早川は困ったように、後ろ頭をかきながら、大きくため息をつく。
「そっか、じゃあね」
爽やかな笑顔で乗ってきたタクシーにもう一度、乗り込んだ。
ドキドキした。
帰ってくれなかったら、部屋まで来ていたらどうなっていたのだろう?
失礼なことをしてしまったのかな?
彼はよく気が付く人だから、私の栞に対しての気持ちに気が付いたのかも・・・。
”まさか。そんなはずない。栞への気持ち?何よそれ!!”
そう独り言をぶつぶつと心で呟きながらマンション内に入ると、ホールの隅に栞が立っている。目を疑う。
涙目?
早川から送ってもらって来たところや、彼とのやり取りを、ここから見ていたのだろうか?
私は入り口を振り返ってみる。自動ドアのガラス越しにしっかり見える。
別に見られて困ることはしていない。だって、弟の友達だし。弟の様な存在だし!
栞のほうに近づく。
「どうしたの?」
私は栞の顔を覗き込む。栞は私と目を合わさない。
「部屋に行く?」
そう言うと栞はコクリとうなずく。小さな子供みたい。私は栞を連れて部屋へ帰った。
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