第11話 急展開

クリスマス以降、純一郎からのメールはなくなった。相当、怒っている様子。


ちゃんと謝ろう。


そう思えたのは、かなりの日数がたってからだった。


あの日は、自分の体調の悪さで、純一郎のメールに逆切れしていた。


”私だって楽しみにしていたのに!!”


と、。拗ねていた。

そんな自分に今更後悔。直ぐに電話をしたらよかった。かけなかった理由には、純一郎への甘えがあったのかも。優しい彼なら、拗ねている私に気が付いて、電話してくれるとタカをくくっていた。こんなにも連絡がないなんて、想像していなかった。


メールだと


″ごめんなさい″


が、軽く見られそうだから、電話は好きじゃないけど、何度か電話もした。出てくれない・・・。


″病気になっただけなのに″


と、私は拗ねるような感情をまたぶり返した。


今度会ったら、私のほうからデートに誘おう。クリスマスのリベンジをしよう。私だって楽しみにしていたことを伝えよう。三年間、純一郎から思ってもらったのだから、今回は私のほうからちゃんと思いを伝えようと決心をしていた。


クリスマスに会えていたらどうなっていたのかな?

ちゃんと気持ちを伝えられたかな?

恥ずかしがらずに、気持ちを伝えられたかな?


そんなふうに、後悔と反省を巡らせながら、彼と次に会える日の事を前向きにかんがえていた。


それから彼に会ったのは、1月初めのゼミの集まりだった。驚いたのは、全く何もなかったかのように明るく爽やかに挨拶された。


″そっか、今は友達としての立場を全うしているんだ。″


そう思っていた。


私は、


”二人で会えない?”


と、聞きたかったけど、ずっと皆といたから言いそびれていた。純一郎は目を合わせてくれない。私は少し戸惑ったが、今までだって皆に内緒で連絡を取り合っていたので、不思議な事ではないと前向きにかんがえていた。

ただ、なんとなく。なんとなくだけど、純一郎は友人としても私と距離を置くような態度をとっていた。授業が終わると、久々に集まった仲間でファミレスへ行くことになった。


聡が小さな声で私に、


「悠、元気ないな」


と、声をかけた。聡はいつもこういう時に気が付く。そうか、私、元気なく見えるのか・・・。聡の言葉で自分の心境に気づかされる。


「うん、大丈夫。」


私は笑顔を作る。聡はしばらく私の顔を見ていたけど、


「そっか」


そう言って私の肩をポンポンとたたいた。

ファミレスに着くと、今まで溜まっていたいた話で盛り上がる。相変わらずみんな騒がしいくらいに仲がいい。久々に集まったから、話が弾んでいた。私以外は・・・。

しばらくすると異変に気が付いた。ここへ来てから、美咲と純一郎は横同士に座り、ピッタリとひっついている。皆で話しながらも、視線はお互いだけをとらえるように見つめ合っている。美咲が純一郎に向けて見せる笑顔は、同性の私から見ても綺麗で・・・。そして純一郎は、美咲を愛おしそうに見つめ返している様に見えた。


これは・・・。

これは・・・。


二人は始まっているの?まさか…。


そう感じた時、


「お前らさ、イチャイチャすんなよ!」


修斗の声が私の耳に突き刺さる。修斗は少し嬉しそうに、純一郎の肩を軽くパンチする。


「付き合いはじめだからって、仲間といるときはやめろよ!見ててハズイから」


修斗の言葉がドンドン畳みかける様に刺さる。


「えっ?付き合ってるの?」


七海は目をクリクリして驚く。


「知ってた?悠?」


七海の顔を見ることもできずに、私は下を向いたまま首を横に振る。


「女子は知らなかったのか?」


修斗はキョロキョロして、ニヤニヤする。


「今日、言おうと思ってたから。」


美咲はハニカミながら膨れて言う。幸せそうな可愛い笑顔。

何で?と思うよりも、自分の思い上がりのような今までの感情が恥ずかしくて、整理できないでいる。


「仲間でいることを優先するって約束だろ?輪を乱さないって!」


少し強めに聡は言った。そして私のほうを見た。聡は何かに気が付いていたのだろうか?また、恥ずかしさが込み上げる。私はだんだん皆の声も聞こえなくなる。そして、直ぐ後から、眩暈と一緒に血の気が引くような嫉妬心で、

そこに座っていることも苦しくなり、


「今日は帰るね」


そう言って引きつった顔で、店を出た。みんな不思議そうな顔で私を見送った。私は足早に駅へ向かった。

どういう事か分からない。どうして純一郎が美咲にあんな視線をおくるのか?

どうして美咲が幸せそうに見つめ返すのか?いつから?

だって、つい数日前までは、クリスマスのあの日までは、純一郎は私の事を真っすぐに純粋に思ってくれていたのに。嘘だったの?騙されていたの?からかわれていたの?


よく分からなかった。彼の気持ちも誰の気持ちも、自分の想いも。


街は騒がしいはずなのに、私の耳には雑音のようにその事がグルグルと渦巻いて、何も聞こえなかった。家までどういう風に帰ったかよく覚えていない。

家に帰ると、何も考えられなくてスマホを壁に投げつけてベッドに潜って大泣きした。


どうして泣いたのか?


それは、自分の惨めな思い上がりが滑稽に思えたから。恥ずかしかったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る