第4話 友達からの呼び出し
山の夜風は冷たくて、上着を持ってくれば良かったと思っていたとき。後ろから、バサッと大きなパーカーが私を覆う様にかけられた。
「お待たせ。」
聞き慣れたその声に振り返ると、純一郎が立っていた。
私はぺこりと頭を下げて、目をそらす。後ろに立たれると緊張してしまって、いつもより素っ気ない振りをしてしまった。純一郎は向かい側に座って、真ん中にランタンを置いた。ふんわりとした灯りに顔が浮かび上がると、緊張しているのは私だけではないようで、彼も笑顔が強ばっている。勝手な期待をしているからか?直視するのは難しい。
今までだって二人になったことはある。飲み会の後、家に送ってもらったこともあるし、研究室に泊まり込んだときも、図書館で調べものをしたときも、二人きりの場面は数えきれないほどあったけど、意識していなかったから、こんな空気ではなかった。今夜は、ドキドキしているせいか?目の前にいる彼は今まで見てきた友ではなく、二割増しの男前に見える。友達をこんな目で見るなんて、私、どうかしている。
だけど、素直に思う。こんなにかっこよかったっけ?まつ毛長い。手がきれい。異性としての魅力を見つけようとしてしまう。あのメールのせいで、変な目で純一郎を見ている自分が、少し恥ずかしい。ダメダメ、私たち仲間は恋愛禁止。仲間なのだから、そんな期待をしてはいけない。そう自分に言い聞かせているけど、恋愛経験不足の単純な頭の持ち主の私は、どんどん想像を加速していく。そして、同時に、それにブレーキをかけるように、
”きっと話しは色恋ではなくて、ゼミでの事かな?
あっそういえば今年の夏は皆でディズニー行こうって話してたから
その話しかな?”
そんな事も考えている。頭の中をグルグルグルグルと、ピンクと青が渦巻いている。
だけど、これが恋の話だとするのなら、きっとこの状況はロマンティックな状況だと思う。
「話しなんどけどさ…」
純一郎は、囁くように静かな声で話し始めた。私は彼の顔を見た。
「あの…、回りくどいこと好きじゃないから言うけどさ。俺、悠が好きなんだ。」
私の動きは凍った様に止まる。きっと、瞬きをしていない。呼吸も止まった。
「大丈夫?」
私の顔を覗くように下から見上げる純一郎にまた、緊張する。
「…うん…うんうん…うん」
そして、変な返しをしてしまう。今、私はどんな顔してるのかな?人生初の告白に体中に鼓動が響く。正しい表情がわからない。今、きっと、超絶ブス。
「俺たち仲間だから、この関係を崩したくなかったけど、近くにいるのに言わないのは、いつか、後悔しそうだから…。苦しいし。」
私は小さくうなずく。純一郎は私の顔をまた覗き込んで、
「それは、OKってこと?」
私は彼の方を目だけでちらりと見て、
「いや、突然の事過ぎて、頭がまとまらないんだけど…。」
嬉しいくせに、変な言い訳。そっけない振りをしてしまう。可愛くない。
「それは、無いってこと?」
答えを急ぐ純一郎は、あからさまに悲しそうな表情になる。
”私、彼を逃してしまう…。
私は自分の心境もまといまらない癖に、そんな事を思ってしまう。
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