第3話 【誰我為《たがため》の祈りと願い・後編】

●【作者】ぐるこ☆(スター)さみん

●【作品タイトル】【誰我為たがための祈りと願い・後編】

●【男女比率】男2/女性4/不問2/(合計8人台本)

●【目安時間】 約90分。

●【ジャンル】 ネオ・ミソロジカル・ラメント・ダークファンタジー

●【配役一覧】(敬称略)

ナレーション(不問)→

ロキ(♂)→

フェンリル(不問)→

ヨルムンガンド(♂)→

ヘル(♀)→

アングルボザ(♀)→

神皇産霊神カミムスビノカミ(♀)→

???(作中、ナナシと判明)(♀)→

──────────────


ロキ

─────異神キミの話をつむごう。


深淵しんえんの闇の底の底。

奈落の果てで、異神キミは目覚めた。


嗚呼、静寂せいじゃくに溶け込み、 一筋の雷鳴が

天空ソラを裂いた"あの日"の事を。

異神キミは覚えているだろうか………?


異神キミの前に降り立ったのは、

片目に星を宿やどし、闇の奥底にひそ

異形のほのおを見透かしながら、

慈愛じあいの手を差し伸べた一柱ひとはしらオトコだった。


"我が血脈けつみゃくあらずとも、我が腕に宿やどれ"


そう言った彼の言ノ葉は凍りついた異神キミの胸に

温かな"火"をともし、 わされたさかづき

義兄弟のちぎりとなった。


それは新たな異神キミへの【祝福】であり、

孤独の深淵しんえんを溶かす、つかの間に

唯一、許された"絆"だった。


だが彼は知らない。

異神キミの笑顔の"仮面"の裏に秘めた、

本当の【真実】を。

刻まれた【烙印らくいん】の奥底にひそむ、

消えぬ"影"の"正体"を。


誰も気付かれない、忘れられた"想い"がキミ

胸の奥でくすぶんでいる事を。



─────この世は全て【舞台】、

ヒトも神も、みなただの"役者"に過ぎないのさ。



さあ、笑いなよ。何時いつものように。

さぁ、わらいなよ。 "あの時"みたいに。

さぁ、



…………ねぇ、"異神ロキ"。



何時いつまで"迷子"のフリを続けて、

その"仮面"の下で異神キミは"何を笑い"、"誰をあざむき"、

"誰を傷付けている"んだい???



─────それとも……

一体、誰の【台本】を演じているのかな……???




ナレーション

欺神ボクの最低最高のこい

―境界ノ座に咲ク祈リと嘘―

第3 話 【誰我為たがための祈りと願い・後編】




────静寂せいじゃくわずかに"揺らいだ"。


それは白く乾ききった大地の中で

唯一、世界がにじむ一点。

虚無きょむに落ちた絵の具が“ヒト”の形をとったように、

其処そこには少女のような姿をした"ナニカ"。


輪郭りんかく曖昧あいまいでまるで描きかけの線画デッサンのように

肌は透き通り、命の気配もなく、

未完成のまま置き去りにされた"ソレ"は

呼吸も心音しんおんもないのに、それでも確かに

此処ここに"る"と感じられた。


まるで"世界の底"がそう告げているように。


"色"も"意味"もこばまれた"空白"の中心に、

"祈る"ように静かにたたずむ“影”。


少女にていながら、

"ヒト"の姿をした"ヒト"ではない"ソレ"は

肌も髪もころもも、全て“塗り潰された”かのように白く、存在を許されぬ“モノ”だった。


その静けさは耳ではなく、心に直接触れてくる

冷たく乾いた無音の感触。

ロキの胸には言葉に出来ぬ、違和感が引っかかる。

恐怖でもあわれみでもなく、懐かしさと

痛みの入り混じった"何か"。


そして──────音もなく"ソレ"は振り返り、

ぽつりと口を開いた。



???(囁くように)

「……………………だれ……???」



ナレーション

それは声ではなかった。

言葉にならない残響ざんきょう

"彼女"と言う存在その"モノ"が"問いのカタチ"を

とって響いてくる。

此処ここではなく、

此処ここ】の???と………。



ロキ

「……………ぅ…………っぁ…………」



ナレーション

ロキは、小さく息をんだ。


その異質な存在に本能は"近付くな"と

頭の中でガンガンと警鐘けいしょうを鳴らす。

だが、それと同じ強さで心が"触れてみろ"とささやく。



──────触れてはいけない。


──────触れなくてはいけない。


──────だが、触れずにはいられない。



それでもロキは足を一歩、また一歩と進め、

乾いた砂を踏む音がやけに大きく耳に響いた。


まるで自分と言う存在がその音だけで世界に

に。


気付けば手を差し伸ばしながら、ロキの口が

勝手に動いていた。

無意識にこたえるように。

あの"声"に、あの"問い"に。


それは笑っているようで、泣いているような。

曖昧あいまいで壊れそうで。

でも、何処どこか温かいモノに

包まれるような感覚だった。



ロキ

「……すき………好きだ…………愛してる……」



ナレーション

静かに声にならない想いが 感情の奥底から

れ出し、こぼれ落ちる。

そのささやきのような響きは、揺れるロキの心を

押し出すように空間を満たしていった。



???

「………すき………???

……すきって、なに………???」



ナレーション

シィンとした沈黙ちんもくが場を支配し、二人の間に

重く落ちた。

空気は張り詰め、時が止まったかのような

静寂せいじゃくだけが流れる。

ロキは硬直こうちょくし、しばらく身動きが取れなかった。

どうしてこうなったのか、自分でも理解が出来ない。

ただ鼓動こどうだけが、耳の奥で

けたたましく高鳴り続ける。


──────そして。

一拍いっぱく遅れて、ロキはねるように叫んだ。



ロキ

「…………はっ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?

な、なななななな、なに言ってんのボク!?!?

い、今のナシ!!!取り消しッ!!!

て言うか、聞かなかった事にして!?!?

お願いだから!?!?ね!!!ね!!!

なんでもするからああぁぁぁぁぁぁ!!!」


(やばいやばいやばい!!!

なんで!?!?なんでなんで!?!?

なんで今それ言っちゃったの!?!?

いや、ボク!?!?ボクの口!?!?

本当に!?!?マジで!?!?

え、感情とかじゃなくて反射神経!?!?

バグ!?神でもバグるの!?!?

ていうか“愛してる”って!?!? 

重!!!重すぎる!!!

いや言ったボクが一番重い!!!)



???

「……ん???」



ロキ

「あぁぁぁもうぅ!!なんて言うか、あの…、

その、えっと、勢いって言うか、

ノリっていうか………そう言うやつだよ!!!

そう!!!その場の空気!!!

……嗚呼、説明下手でごめんってぇ!!!」


(やっっべぇ………この空気どうしよう……

誰か助けてぇぇぇぇ!!!)



???

「……すき……って、どんな"カタチ"???

……… どんな"色"……???」



ナレーション

彼女は言葉の欠片カケラてのひらすくい上げるように、

首をそっとかしげた。


その仕草は、まるで朝露あさつゆ

指先を触れた子供のように、

響きだけを頼りに、言葉の"意味"を探している。

一つ一つの音が彼女にとって、

まるで“"だった。



ロキ

「……え????………えーーーっと……。

色で言うなら……"赤"………かなぁ???

ピンク? いや、そう言うんじゃなくて……。

感覚的なモノって言うか……ってぇ!!!

嗚呼、なんでボクが説明してんだよ、これ!? !?

つーか哲学の問題じゃねーか!?!?

いや恋愛の話だけども!!!」



ナレーション

ロキは両手で頭を抱えたまま、どうしようもない

混乱の中にいた。

感情の渦が言葉に"カタチ"を与える前にその全ては

崩れ散り、意味を失っていく。


その姿を彼女は無言でじっと見つめていた。


まるで、何かとても珍しい生き物でも見るように。

胸の奥にある名も無き問いに、

彼がこたえてくれるのを待っているかのように。


そのひとみには怯えも、戸惑とまどいも、あざけりもなく、

ただただ静かで、無垢むくな興味だけが"ともって"いた。



ロキ(一瞬言葉に詰まり、半ば強引に明るく)

(くそ……完全に沼にはまった……。

もう詰んだわ……うぅ、穴があったら入りたいぃ。

それにコイツ、見た目は良いくせに

なんか変だし……)


「……ま、と、とにかくだ!!!

自己紹介が先だよね?!?

えー……っと………君の"名前"は………???」



???(無表情で首を傾げる)

「…………"名前"……? ??」



ロキ

「う、うん、"名前"。呼び方って言うか……」



???

「……ワタシに"名前"は無いよ…………???」



ロキ(一瞬言葉に詰まりながら、少し引きつった笑み)

「ハハハ…………マジかよ…………………。

そ、そっか……じゃ、じゃあ、仮にだけど

“ナナシ”って呼ぼっか。

とりあえず暫定ざんていで!!!

……と、ところで此処ここって何処どこだか分かる?」


(……何か変だ………。

この子、表情がない………???

呼吸も感じない………。

この子、本当に"生き物"なのか……???)



ナナシ

「………"ナナシ"………うん、分かった。

此処ここは"黒い月"、ワタシ以外誰も居ない」



ロキ(周囲を見渡しながら)

此処ここが"黒い月"……!?!?

でも“黒い月”って言うなら、空にある

あの"白い月"はなんなのさ???」



ナナシ(首を少し傾ける)

「……………分からない……。

気付いたら、此処ここに"ったの"。

あの光る"白い月"も、何時いつの間にかあったよ」



ロキ

(不快感を隠しきれずに眉をひそめ)

「そうなんだ……。

此処ここには君以外、本当に誰も居ないのかい???」



ナナシ

「……無い、の。

ワタシだけが此処ここに居て、ただ"る"だけ。」



ロキ

「…………そ、そう、なんだ…………」


(んん???こいつは"神"でも"人"でもない、

"そういうたぐい"のモノか???

"ことわり"の狭間はざまからい出たモノ……まるで…………)



ナナシ

「……アナタ……………神様なの???」



ロキ(ドヤ顔をしながら)

「神かって???ハハ、その通り!!!

ボクは完全無欠のプリティー&チャーミングな

あざむき騙す悪戯イタズラな神”さ!!!

騙す為に笑い、笑う為に壊す、

それが“ボク”ってモンなのさ!!!キラ☆!!!」



ナナシ(無垢な目でじっとロキを見つめる)

「………そう……じゃあ…………

アナタは、ワタシを壊しに来たの???」



ロキ(言葉に詰まり、一瞬だけ真顔になる)

「…………あーもう!!なんだよ!!!

其処そこはなんか突っ込むとこでしょう!!!

めっちゃスべったじゃないか!!!

ゔ………そんな目で見るなよ………

なんかボクが悪者みたいじゃないか……。

君を……えっと、ボクはナナシを

壊したりなんかしないよ。

つーか、"名前"ないと不便じゃないの???

本当に"名前"が無いの、君???」


(もう………なんか調子狂うなぁ………)



ナナシ(静かに首を振り、どこか遠くを見るような目で言葉を継ぐ)

「……………うん、""………。

…………それに"名前"は"優しい"から。

"優しい"と“此処ここ”には居れない、と思う………。

だから―─―ワタシは、“ワタシ”のまま。」



ロキ(口元にわずかに笑みを浮かべながらも、目は真剣なまま)

「……へぇ……そっか………。

………じゃあ………君の呼び名はこっちの

都合でしばらくは"ナナシ"って呼ばせて貰うよ」


(………何だろう………胸の奥がざわつく……。

まるで自分の中の"何か"が、

"否定"されたような……

いや、違う……"守られた"みたいな……)



ナナシ

「……あ……。

………また………"誰か"が……」



ロキ(目を見開く)

「ん???なんだよ、急にまた、って…っ!?!?な、なんだ? !?!

空間が……ゆがんで……!?!? 」



ナレーション

―──―その時、視界が静かに“ゆがんだ”。


誰かがそっと吐息をらしたように

風が吹いたような気がした。


けれど此処ここには風も、気配すらも存在しない。

音もなく、時間すら眠るこの"うろの世界"。


ただ“彼女”の周囲にだけ、目には見えぬ"揺らぎ"が

静かに鳴いていた。

まるで"封じられた想い"の"名残"のように…………。



──────そして次の瞬間、

彼女は、ふわりと手を伸ばした。



虚空こくうの中、何もないはずの場所を

まるで見えない何かを掴むように

細い指先でそっとなぞる。


その仕草と同時に世界に“裂け目”が生じ、音もなく、静かに空間にヒビが走る。



ロキ

「これは!?!?世界の裂け目!?!?

一体何が起きて!?!?」



ナレーション

“裂け目”から、禍々まがまがしくも神々しい、

光と影の粒子がこぼれ出す。


それは想いの"残滓ざんし"か。

記憶の"あぶく"か。

あるいは、名も無き魂の"断片"か。


─────彼女に呼び寄せられる“何か”。


それは花のように咲き、崩れ、砕けていく。

まるで産まれたばかりの"カタチ"をたような、

美しさとはかなさ。


その一片ひとひら 一片ひとひらが、雪のように舞い散る中、

彼女はただ静かに立っていた。



ただ、それだけで

─────世界が、彼女の"声"に“こたえていた”。



ナナシ

「……“願い”が来たの…………」



ロキ

「……"願い"………だと…………???

……おい……何を……?!?!」


(何だ!?……"ことわり"がねじれてる……?!?!

いや、違う………これは………

"ことわり"が無い、だと…………!?!?)



ナナシ

「……"助けて"って、聞こえたの………だから……」



ナレーション

そして次の瞬間

─────彼女は、ふわりと手を伸ばした。



ナナシ

「────────"叶えてあげる"。」



ナレーション

こぼれた光の中から現れたのは彼女の足元に

横たわった姿で骨は砕け、肉が腐り焼かれた

ちかけた一匹のけもの


呼吸すらかすかなその"影"に、

そっと彼女が手をえた瞬間。


てのひらからしたたるようにあわく、冷たく、優しく、

命の底に触れるような─────"祈り"があった。



ロキ

「………………………………は???」



ナレーション

触れられたけものたれた骨は

再び結び直され、裂けた皮膚は静かに

り合わされ、えかけた命の"火"が

再びかすかに"ともる"。

それはまるで瞬間だった。


彼女はその傷付いたけものからだ

自分の胸元へと抱き上げ、細く震えるそのからだ

まるで壊れものを扱うように、 抱き締める。

揺らめく粒子のように舞うその光が、

けものからだを包み込み、音も影も境界も

その全てがゆっくりとにじみ、

そして光の中で世界を白へとかえしてゆく。


最後に残ったのは、一つの抱擁ほうようえた彼女の横顔。

その眼差しはまるで。



──────神さえ見落とした"祈り"に

ひと時触れたような、静かな【奇跡】だった。



ナナシ

「良かった……また、生きてくれた………。

さぁ、元の場所へとおかえり…………」



ロキ(低く呟く)

「あ、………ありない………!?!?

な、何だ………今の………?!?!

………ふ、ふざけてやがる………!!!」



ナナシ

「…………どうして???

どうしてアナタは"力"に怒っているの???」



ロキ

「違う!!!!!

君のそれは"力"なんかじゃない!!!

……君は………今の、“祈った”のか???

ただそれだけで………たったそれだけで………

───今……"願い"を"叶えた"のか……???」



ナナシ(ゆっくりと首を傾げ)

「……うん、ワタシは"祈って"、"叶えた"だけ。

温かい"ヒカリ"が欲しいって。

"怖くない"、"悲しくない"、"生きていたい"って……

―────―ただ、"願われた"から。」



ロキ(眉をしかめ、低い笑いを張りつける)

「ハ……ハハハ………。

たった、それだけで……"祈った"だけで

"願い"が"叶った"………???

なーんて………素敵な【奇跡】だよ、

まるで"神様"じゃんか……。

でも……"祈り"って…………"願いって"のはさ……

普通、“代償だいしょう”がいるんだよ………

"命"とか、魂"とか、"時間"とか、"運命"とかさ……。

君は……何を"払った"……………???」



ナナシ

「…………"払う"???……どうして???

ワタシは"空っぽだから何も払わない"…………。

ただ誰かの"願い"を"叶える"だけ………」



ロキ(ぞわりと背を走り、低く、唸るように)

「"空っぽ"……………???

………ハハハ……冗談じゃないな、マジで………

…………君は、一体……何なんだ……!?!?」




ナレーション

────ロキはただ、ただ息をんで

彼女ソレを見つめる。


あれは【奇跡】ではない。

それは【祝福】ではない。

ゆるし】でも、【救済きゅうさい】でもない。


其処そこにあるのはそれはただ“願い"を"こたえる”姿。

善も悪も、愛も憎も超えた。

世界が一瞬、静かにみ渡る"祈り"。


ただ世界のい目からこぼれ落ちた忘れられた光。

それはまるで"誰の言葉にもならなかった"、

"誰も触れられなかった"たった一雫ひとしずくの“願い”が

ようやく世界に届いた。



──────永遠の

たった一度の、光のまたたきだった。




ナナシ

「……ワタシは…………この"黒い月"。

ワタシは“誰でもないナニカ"。

………そして"願い"を"叶える"……

────“願い”だけは"消せない"から…………」



ナレーション

───────“黒い月”とは神々の手すら届かぬ、

"想い"と"欲望"の果てにある"奈落の果て"。

叶わぬ"願い"が沈み、失った"欲望"が倒れ、

忘れられた"祈り"が累々るいるいと降りもる

"影"の記憶の"墓標"。


其処そこるのは声も名も、姿もカタチも無い。

【生者】でもなく、【死者】でもなく。

ただひたすらに、【祝福】すら無い胎動たいどうとして、

誰に届くとも知れぬまま、夜より深く、

闇よりも静かに果てしない孤独の中で顕現けんげんした

"ことわり"の外に芽吹いた、カタチのない"ナニカ"。


神の加護にも、人の情にも触れぬ、

世界の背骨をきしませる一つの“異端いたん”であり、

永劫えいごう断絶だんぜつを抱いた禁忌きんきの"うつわ"。


命を超え、"ことわり"を無くし、

生も死もゆがめる"行使こうし”の力。

意志も、怒りも、感情すらなく。

ただ、其処そこに"る"という事実だけが全てをくつがえす。



ロキ(目を細め、震えた声で)

「……だ、“誰でもないナニカ"、だと……?!?!

なら………何故なぜ、君は………

"願い"を"叶える"んだ…………???」



ナナシ(小さく首を傾げ)

「誰かが"願った"から……"叶えて"って……………。

それに………"願い"は…………


─────とても"綺麗"だから………」



ナレーション

────其処そこにいる"うつわ"を見た時、"異神ロキ"はさとる。


これは"祈り"ではない。"願い"ですらない。

世界の底で誰にも届かぬままつむがれ続けた、

神すらはらう"深淵しんえん"。


“神”が捨て、“人”が忘れ、"世界"が弾き、

"星"が失くした"ことわり"をみ込む静寂せいじゃくの"災厄さいやく"。


それこそがこの世界に生まれちた、

まが】であった。



ロキ

(─────

…………)



ナレーション

─────それは恐怖でも、怒りでもない。

胸を穿うがったのは、あまりにも冷たい"理解"だった。


何も無い"うつわ"が"あるる"限り、誰かの"祈り"はげられ、 "願い"は永遠に"叶い続ける"。


………それでも……ロキは彼女から

目を離す事が出来なかった。

捨てられた“祈り”がまるで



────誰かの【心】のカタチに見えたから。



にじんだのはわらいか、涙か、狂気か。

ロキのくちびるが乾いた笑い声と共に

ゆっくりとほころぶ。



ロキ

「………ハ、ハハハ……ハハハ…………

アッハハハハハハハハハハ!!!

………なあ……………“ナナシ”ちゃん。

────ボクの"願い"、当ててみなよ………」



ナナシ

「………アナタの"願い"????」



ロキ

「…………ほら……。

君はさ、“願い”を"叶えたい"んでしょ???

なら、次はボクの番だって良いじゃない???

ボクの"願い"が何か君に当てられたら……

ボクが君に一つ"願って"あげる…………。

………ねぇ、どう???」



ナナシ(静かに、でも真剣に)

「………アナタの願い…………。

──────本当に"叶えて"いいの???」



ロキ(不意に笑い声を漏らし、目を細めて)

「……ハハ……それは……どう言う意味……???」



ナナシ

「アナタの中には“かなしいモノ”がある。

沢山、"酷くて"、でも"温かくて"……

"優しいモノ"が………。

……ワタシには何も“見えない”けど………

何も"分からない"けど………。

でも…………"分かる"…………。

アナタの光と影の深いとこの"何か"が………。

それに…………アナタの"此処ここ"。

………とっても────さびしいから」




ロキ(白く細いナナシの手が胸に触れようとして、弾き飛ばし、彼女の首を片手で掴む)

「っ!!??

触んな!!!ボクに触るんじゃねぇ!!!

………何なんだよ、その……。

君は何も知らないくせに、何も分からないくせに

なんでそんな事言うんだよ!!!!


……………ボクは“異端ロキ”だ…………。

願いも、命も、引き換えにして騙し、

あざむいて遊ぶ、"裏切り"の神だ……。


そう望まれて、そうで"れ"と産まれた。

………けど君は……違うよね……………。

“名もない”のに、"何も無い"のに"祈り"を背負って、

“誰か”じゃないのに、“願い”を"叶える"………。


――それって………凄くいびつで………

…………………凄く……」



ナナシ(首を絞めてられても何も感じず、首を傾げて)

て……どう言う意味???」



ロキ(少し間を置き声を潜めて苛立ちを隠すように首を締める手に力が入る)

「…………君みたいに心が真っ直ぐで

純粋に何も疑わず、問いかける奴を見るとさ……

なんか、胸の奥がざわついて………

イライラするんだよ………。

ボクはさ………"願い"なんて……

もうずっとで…………。

みにくくて、きたなくて、みじめで、おろかで、


抱えてるんだよ!!!


ボクの"願い"なんて""だから…… 。


君のその“純粋”さがまるで鏡みたいに、

"触れたくないモノ"を、"見たくないモノ"を

ボクを映し出してるみたいで……。


…………だから………んだ………」


(あれ…….なんでボク……こんな事、言ってるんだ???)



ナナシ(儚げに優しく不器用な笑みを浮かべ)

「…………それでも、"願い"は"願い"だよ。


例えみにくくても、きたなくて、みじめで、おろかでも

それはアナタの"一部"だから、

……………だからアナタの"願い"は

──────────とっても"綺麗"だよ」



ロキ(首から手を離し、少し目を逸らしてしゃがみ込む)

「……………うるさい……うる、さいよ…………。

………何も……何も知らないくせに……………」



ナナシ(しゃがみ込むロキの頭を撫でながら)

「……ねぇ………。

…………アナタの"名前"、聞いても良い?」



ロキ(拗ねたように)

「ボクは…………"オレ"はロキ…………

"異神まがかみ"、"裏切りの神"……。

まあ……面白い事が好きなだけのあざむく神、

狂った"ことわり"のそこだよ……。

好きに……呼びなよ………」



ナナシ(名前を噛み締めるように笑う)

「………"ロキ"……

アナタ、"名前"があるんだ……………。

……"ロキ"……………。

うん……とっても"綺麗"な"名前"………」



ロキ(表情を崩して)

「……君、本当に変な奴…………

でも……ちょっとだけ気に入ったかも、ね…………」



ナレーション

この一瞬にだけ許された微睡まどろみの

安らぎのような会話の中。


──────ふと、世界が揺らいだ。


遠くで水面が波紋はもんえがくように

うろの空間に"何か"が聞こえた。

そして柔らかな時間の終わりを告げる

鐘ののように彼女が呟く。



ナナシ

「………あ。もう“時間切れ”だって。」



ロキ

「……"時間切れ"???なんのこ……───」



ナレーション

その言葉と同時に、空間がきしんだ。

白く、何もなかったはずの月の大地に

“黒い泥”がにじみ始める。

それはあの時、此処ここに来る前にロキを包んだ

神皇産霊神カミムスビノカミつくった黒い"ナニカ"。



ロキ

(これはあの時の!!!???)



ナナシ

「もう、"オシマイ"なんだって。」



ロキ

「ちょ、"オシマイ"って!?!?

ナ、ナナシっ!! ?待っ─────」



ナナシ

「……………さよなら。

───────"またね"、ロキ………」




ナレーション

黒い泥が空間を裂き、世界と記憶の狭間はざま

再びロキがみ込まれちていく。

だがみ込まれる刹那にロキが聞いた

彼女の声だけが、嫌に大きく耳に響いていた。


────それは静寂せいじゃく混濁こんだくの中、

唯一はっきりと残った音。

名も無い少女の優し過ぎるほどに愚直ぐちょくな言葉。



ナナシ

「───────"またね"、ロキ………」



ナレーション

まるで深く沈んだ泥の底に、乾ききった大地に、

音も無い深海に、一滴いってきだけ落ちた

【救い】のようなその声が、酷く眩しかった。


そしてロキは"世界"の底へ

───────音もなく、ちていった。




神皇産霊神カミムスビノカミ

「ほい、もう時間やで。──────かえっといで。

早よ起きんとまた"迷子"になるで???」




ナレーション

─────黒い泥のうねりがうごめき、

空間の継ぎ目から、ぐぼっとにごった音が響いた。


まるでペッとつばを吐き出すように世界の裏側から

ロキの身体が勢い良くいや、乱暴に放り出される。


放り出されたロキの身体はぐしゃりと顔から

地面に勢い良く叩きつけられ、肺の奥にまで

入り込んだ水気をびたねばついた闇が

全身の骨の隙間にまでまとわり付き、

焼けただれたノドが、息を吐く度ににぶきしませて呼吸と

熱をけずり奪う。


ロキは力強くき込み、全身を包み覆う鈍痛どんつうの中、

大きくうめいた。



ロキ(呻きながら顔を上げ、ぐったりして)

「ぶへぇっ!!!!ゲッホゲッホ!!!!

…………いったたたた!!!!

鼻打ったぁぁぁぁぁぁ!!!!

もう何でこう毎回毎回、出オチ酷すぎんのさ!!!

訴えてやんぞこの野郎!!!」



神皇産霊神カミムスビノカミ (にこりと微笑みながら、扇子を口元にあてて)

「お疲れさん。お帰りやで、ロキはん。

"黒いお月さん巡り"は、おたのしみやったけ???

フフフ……大丈夫かいな???

鼻、派手ハデにイったみたいやけど。」



ロキ (肩で息をしながら、にらみつける)

「ぜぇぜぇ……なぁに

「おたのしみやったけ???」だよ!!!

ふっざけんなっ!!!この冷血ドS女神!!!

アンタが出したあの黒いやつに襲われてこっちは

脳ミソの血管ブチブチいってんだよ!!!

………て、めぇ……ホントに………

何をしやがった……!!!」



神皇産霊神カミムスビノカミ(しれっととぼけたように、軽く首を傾げて)

「はぁ? 何って? そんなん決まってるやん?

アンタを“黒い月”に送ってやっただけやで?

手っ取り早く済ませたんにそないに怒らんでも。

それにほら。アンタの子らが……」



ナレーション

神皇産霊神カミムスビノカミの言葉に被さるように遠くから、

かすれた声が届いた。

張りつめていた何かが、ついに切れた音のようで。

やがて、地を揺らすような足音が響く。


そして涙と衝動がそのまま強い体当たりとなり、

身体は温かな衝撃に包まれた次の瞬間。

ロキは思いきり我が子達に抱きめられ、

盛大に押し倒された。




ロキ(ぐしゃぐしゃに埋もれながら、パニック全開で)

「ちょ、ちょっ!? ?!え!??!

わぁっ!?!?なになになに何事!?!?

なにこれ!? !?

ぎゃあああぁぁぁ!?!?

誰だよ今、ヒジ蹴ったの!?!?

どっから肋骨ろっこつ攻撃してきてんだよ!?!?

痛い痛い痛いっ!!! 良い加減にしろっての!!

おい!!! 神皇産霊神カミムスビノカミ!!!

笑って見てないで、助けろよォおおおお!?!?」



フェンリル(涙目で飛びつきながら)

「うわぁぁぁぁぁぁぁんんんん!!!!

どぉぉぉぢゃあぁぁあああんんん!!!!」



ヘル(足をもつれさせながらも駆け寄り)

「お父様ぁぁ……うぅ、うわあああん……!!!

お゛どぉぉざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



ヨルムンガンド(声を震わせ、顔をくしゃくしゃにして

「……ぢ、ぢぢうえ゛ざま゛ぁ………。

よ、よかった……ほんとうに………!!!

無事で……本当に……!!!

よ゛がっだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」



ロキ(ぎゅうぎゅうに抱きしめられながら、ジタバタ)

「ぐぇぇぇ!?!?

ちょっ、ちょちょちょ、待って待って待って!?

あのね!? !?

これ抱き締めるってレベルじゃなくない!?!?

これもう組みふせせじゃない!!??

プロレス!?!?バトルロイヤル!?!?

日頃の恨みでも誰か入れてる!?!?

うわっ!!!誰だ今ヒジ入れたの!?!?

ぎゃぁぁぁぁあ!!! 骨がァ! !!

父の尊厳そんげんがァ!!!

……って何でボク、家族にめ技、

掛けられてんの!?!?

もうすで瀕死ひんしなんですけど!?!

ギブギブギブギブーーー!!!」



アングルボサ(深いため息をつきながら)

「ったく……どいつもこいつも涙腺、緩すぎだろ。

しゃんとしな、お前ら。

だらしない顔するんじゃないよ、全く。

それに……案外元気そうで安心したよ………

お帰り、ガキロキ。立てるかい???」



ロキ(子供達の腕を解きながら、ゆっくりと起き上がり)

「あ、嗚呼…って………

もう、ガキは余計でしょ………でも、うん……

ただいま、アングルボザねぇさん………。

それにしてもあれ……???

何で……こんなお前達、ボロボロになって……

………部屋中……って言うか、何これ……!?!?

ええええ? !?!

壁どころか天井まで吹き飛んでるし!?!?

床もボッコボコだし!?!?」



ナレーション

見渡せば、もはや「部屋」とは呼べなかった。

大理石の床は蜘蛛クモの巣のようにヒビ割れ、あちこちで

砕け散っている。

柱は根元から折れ、壁も崩れ落ち、煙とげた

匂いだけが空気にたたよっていた。


天井は荘厳そうごん天蓋てんがいの名残を失い、うつろな空間となったその下に、瓦礫ガレキの山が影を落としている。


ロキが倒れ横たわっていた場所だけが、

唯一かろうじて崩壊をまぬれていた。

しかし、周囲を瓦礫ガレキに囲まれたその床もわずかにかたむき、

何時いつ、崩れてもおかしくはなかった。


此処ここにあるのは激戦の終焉しゅうえんを告げる、

空虚くうきょ痕跡こんせきだった。



ヘル(両手で口元を押さえながら、半泣きで後ずさる))

「ひぃん!!!あ、あ、あの、これは!!!

違うの!!!違うのぉぉぉぉぉぉ!!!」



ヨルムンガンド(額に汗をにじませながら、尻尾をバタつかせて必死に弁明する)

「あー…………そ、それはですね……

は、話せば長くなるんですが………。

で、でも!!!ぼ、僕は止めたんですよぉ!!!」



フェンリル(尻尾を縮めてしゃがみ込み、目に涙を浮かべながら)

「あ、えっと、あのね、あの、その……

う、うぅぅ……!!!

オイラ達はわざとじゃないのぉぉぉぉ!!!

わざとじゃないのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



ロキ(ドン引きしながら一歩後ずさる)

「いやいやいやいや……

マジで何があったんだよ………???

つーか誰が暴れたの!?!?

いや、そもそも何でこんなに

被害甚大なわけ!?!?

だってボクが覚えてるのは……」



アングルボサ(肩をすくて苦笑して指を指し)

「誰がって……そりゃ“アレ”だよ、あのお方。

神皇産霊神カミムスビノカミ様の、ちょいとしたおたわむれれさ。

……………ま、アンタを取り戻すには、

それなりの“代償”が必要だったのさ」



ロキ(眉を寄せてハッと振り返る)

「……"代償"……??? “代償”ってお前達!!!?

何をした!?!?」



アングルボザ(眉をひそめ、苦々しい笑みを浮かべながら)

「おっと……!?!?な、なんだよロキ……。

アンタが取り乱してそんなツラ見せるなんざ、

ヘヴルヘイムの氷が溶けるより珍しいじゃないか。

……らしくねぇじゃないか。

神皇産霊神カミムスビノカミ様に何かされたのかい???」



神皇産霊神カミムスビノカミ(ケラケラと笑いながら、扇子で口元を隠しつつ)

「嫌やわぁ〜"代償"やないて、

そない物騒でも無いし、悪モンみたいな

言い方されると、困ってまうわぁ。

ロキはんがちょぉっとお出かけしとる間、

お子らが寂しそうにしとったけ、

アタシが遊んだってなぐさめたろ思うただけやのに……。

なんやみんな、怖い顔してどないしたん???

可愛ええなぁ、可哀想やなぁ………。

笑ったろか?笑ったろなぁ………」



アングルボザ(目を細め、低く呟くように)

(……良く言うよ、アンタ………。

アタイ達が本気でぶつかっても、

傷一つ付けれなかった……。

ただの遊びだ、なんて笑ってるが………

その笑顔の奥に何を隠して

たくらんでいやがる、神皇産霊神カミムスビノカミ……???)



ヘル(震える手で胸元をぎゅっと握りしめ、膝をつきながら俯いて)

「ごめんなさい……お父様……。

わえ達、お父様を……助けたかったんです……!!!

でも、わえ、何時いつも何もかも遅くて……。

弱くて……目の前で、お父様があんな風にされて……怖くて、でも……でも逃げたくなくて……!!!」



ヨルムンガンド(肩を落としながらも、おどおどと前に出て、消え入りそうな声で)

「ぼ、僕ら全員で……全力で戦ったんですけど……。

でも、手も足も出なくて……。

神皇産霊神カミムスビノカミ様……強すぎて……。

何度 いどんでも、ね返されて……。

それでも……父上様を助けたくて………………。」



フェンリル(涙をこらえきれず、しゃくり上げながら)

「オイラ、……狼なのに……

父ちゃんの子供なのに…何にも出来なくて………。

牙も爪も身体だってこんなにでっかいのに……。

弱くないのに……なのに……

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」



ロキ(全身に泥をまとったまま、それでもわずかに口元を緩め、ぼろぼろの姿の三人の頭を撫でながら)

「そっかそっか……お前ら………ありがとな………。

……ボクなんかの為に、そんなボロボロになるまで

戦ってくれて………良く頑張ったな。

お前達はボクの自慢の子供達だ。

ホント………こんなボクには勿体もったいないくらい

良い子達ばかりだ………ほら、もぅ、泣くなって。

……この通りボクは平気だよ、

怪我一つしてないから安心しな。

……それにお前らが無事で居てくれるなら……

それだけでボクは十分さ……。

ありがとな、フェンリル、ヘル、ヨルムンガンド。

今回の事は気にすんな、

ホントに……ありがとな…………」



神皇産霊神カミムスビノカミ(ゆったりと扇子を扇ぎながら、にじむような声で)

「フフフ……ほんま、えぇ家族やなぁ……

見とるだけで、胸がぎゅうぅっと

締めつけられるわぁ…………。

せつのうして、いとおしゅうてな…………。

…………………けどなぁ、ロキはん? ??

"アスガルドの家族ごっこ”がどれほど見苦しうて、

可笑おかしかったか……

アンタ、よう知っとるやろ???


ちゃーんと演じとったやん、"良き父親"のふりして.

……"あの子ら"に、笑顔まで向けてなぁ…………

………その手であやめたんやろ、"アンタの子"を。

冷たぁい床に横たわってた、小さな命とむくろの山。


" あん時"のアンタの顔……血塗まみれで………

でも目は乾いたまんまやった。


……泣きもせぇへん、無垢むくな狂気。

─────忘れたとは、言わせへんで……???」



アングルボザ(怒りに震え、歯噛みしながら声を荒げる)

「だ、黙れッ……!!!

部外者のアンタに言われたかねぇよ……!!!

どいつもこいつも、ロキを“怪物”に

仕立て上げてやがって……!!!

誰が!!!誰がロキに……

"あんな選択"をさせたと思ってんだ!?!?

アタイは!!!あの時……!!!

アタイだけは……!!!

……アタイだけは……コイツを……ロキを……

“父親”にしようと……“ただの神”じゃない、

“家族”にしようとしたんだ……!!!

それを奪ったのは……

このクソみてぇな"世界"だろうが!!!」



神皇産霊神カミムスビノカミ(微笑みは変わらず、ただ瞳には冷徹さを宿して)

「…はぁ???アンタ、何言うとるん???

"世界"は何時いつだって"残酷で残忍で美しい"ままや。

そんなん"最初から分かっとった"のに

今更文句なんか言うんやないよ。

それにアングルボザはんは、"家族"って言うけんど

アンタらが"自分達のエゴ"で

"災厄を背負わせた破滅のら"を

勝手に作って産んで、そいで愛したオトコに我が

殺させた"終末の牝獣ひんじゅう"がようそないな

減らず口を言うたもんやなぁ………」



アングルボザ(肩で荒く息をし、涙を堪えながら拳を強く握り締める)

「…………っ!!!」


(……分かってる……全部……

"運命"や"世界"のせいになんか出来ない。

アタイがロキを選んだ事も…………

この子達に背負わせた"運命"も……

全部ロキとアタイの"罪"だ……………

でも……でも、それでも……アタイは……。

ロキを“愛してしまった"……!!!

ほんの少しでも"シアワセ"にしたかった、

……ただ、それだけだったんだ……!!!)



ヘル(長い黒髪を揺らし、母を真っ直ぐに見つめ)

「それは……!!!

……わえ達は、お母様の"代償"と

"犠牲"で生まれましたわ……。

その命で世界を変え、ラグナレクを

起こしてしまったとしても……………。

でも……だからと言って、お父様とお母様を

責めたりはしません…………。

そうでしょう、お兄様、フェンリル……」



ヨルムンガンド(低く落ち着いた声で)

「嗚呼、……その通りだよ、ヘル。

僕達は"厄災でれ"と望まれ、生まれた子です。

逃れられない"運命さだめ"を抱えていても………。

それでも、僕達は父上様と母上様を誇りに

思ってるんです……だって………」



フェンリル(片腕を握りしめ、力強く)

「だってね!!!家族だから!!!

オイラ……難しい事は全然分かんないけど、

父ちゃんも母ちゃんも大好きだよ!!!

オイラ達の母ちゃんと父ちゃんは

世界に一人しかいないんだ!!!

だから、泣かないで、笑って母ちゃん……!!!」



ロキ

「…………お前達……………」



神皇産霊神カミムスビノカミ(愉しげに笑いながら)

「……泣かせるなぁ………ほんに誰に似たんやか。

………なぁなぁ、ロキはんや。

アンタは何時いつまで"親でいる資格"を

まだ持っとるつもりでおるん???


アンタがあやめた"名も無き無辜むこの子"ら……

ホンに可哀想かわいそうになぁ……。

こんな風に愛される事もなく、無惨むざんに散っていって。


嗚呼……けんど、アンタの芝居しばい…………。

あれは“もよおし物”にしとくには

出来すぎとったわ。


……………せやろ???ロキはん。

アンタはその“罪”の重み、今も肩に乗せたまんま……

ずぅっ痛みと贖罪しょくざいの中で、

じわじわさいなまれとるみたいやけど…………。


あれはな、"偶然のあやまち"や"運命の悪戯イタズラ"やのうて、

アンタ自身が、"選んだ事"やろ???


──────自分の手で"壊す事"を……………」



ロキ(唇を噛みしめ、目を伏せ、震える声で)

「……全部……ボクが……選んで……"壊した"……」



ナレーション

────まるで花を散らす風のように優雅ゆうが

扇をそっと揺らしながら神皇産霊神カミムスビノカミ

微笑ほほえんでいた。

だがその声はみつしずやいば

裁きの言葉は祝詞のりとにもて、

けがれのないまま、冷たくりた。



────それは慈悲じひ仮託かたくされた、

美しい残酷な処刑宣告。



神が神をおきてうた

のがぬ者だけが聞く静かな鎮魂歌レクイエム



神皇産霊神カミムスビノカミ(少し間を置いて、扇子を閉じる音)

「それはな……アンタが“神”やからやない………

───────アンタが、“異神ロキ”やからや。」



ロキ(顔を伏せ、感情の色を見せぬまま)

「………………」



ヘル(拳をキツく握りしめ、血を流しながら低く怒る)

「貴様………黙って聞いていれば……!!!

その言葉、撤回てっかいなさい!!!

うつけの無礼ぶれい者が!!!

例えもとの最上位神であっても……

わえ達のお父様をもてあび、お母様を

侮辱ぶじょくするような真似まねは、

絶対に……許さない……!!!!」



フェンリル(目に涙を浮かべながら必死に叫ぶ)

「オイラ……怒ったぞ……… 。

オイラ、怒ったんだからね!!!!

父ちゃんと母ちゃんをイジメる

お前なんか大嫌いだ!!!

オイラの家族をバカにするな!!!!」



ヨルムンガンド(静かに一歩踏み出し、低く唸るように)

「……あまり…僕らの父上様と

母上様をけがさないで頂けますか………!!!

次にその舌で侮辱ぶじょくすれば………

その口ごと……噛み千切りますよ……!!!」



神皇産霊神(目を細めてにやりと笑う)

「フフフフ……おぉ……怖や怖や……………。

へぇ~……アンタらがまたアタシと

遊んでくれるんけ???

今度はすぅぐには終わらんと

もっと楽しませてなぁ………」



アングルボザ (ガンッと地面を強く槍で叩き付け)

「…………おやめ!!お前達!!!!」



ヘル

「お、お母様……どうして……?!?!」



ヨルムンガンド

「そんな!?!?何故なぜ止めるんですか!?!?

母上ははうえ様!?!?」



フェンリル

「なんでさ!?!?母ちゃん!?!?

父ちゃんがこんなに言われてんのに

悔しくないのかよ!!!」



アングルボサ (拳を強く握り、静かにしかし強く)

「お黙り!!!

……アンタ達やアタイが暴れたところで、

コイツには指の先、髪の毛一筋だって通じやしない。

力の差は歴然だってさっき分かっただろ。

………それに………

ロキが“止めろ”とにらんだ………。

だから、良い子だから

静かにアタイの言う事聞きな………」



ロキ

「……………なぁ……神皇産霊神カミムスビノカミ………。

アンタは……何故なぜ"アイツ”と、

"ナナシ"をボクにわせた……???

いや、正確には…"一体何をさせたいんだ"……???

それは……ボクに対する"罰"か? "試練"か??

それとも……ただの冷やかしの"たわむれ"に

過ぎないのか……???」



神皇産霊神カミムスビノカミ(低く囁くように、狂おしいほどに愛おしげな声音で)

「……ふふ……えぇなぁ……

あぁ、その顔……ええなぁ……たまらんなぁ……。

魂のしわの一つ一つかられ出す“感情のおり”……

ほんに、ええ匂いや。

まるで腐りかけの花を煮詰めた香油こうゆのよう。


まようて、おびえて、怒って、あらがいながらも、

何処どこかで期待している……にじんだ小指の先ほどの

"希望"と"絶望"。

可笑おかしなもんやなぁ………壊れかけてる癖に、

まだ……何かにすがろうとしとる。

……───────今にも砕けそうな

"硝子細工ガラスざいく"みたいやなぁ……。


触れたら割れる……けんど放っといても崩れるが、

それでいて踏みつけられても、なおきらめこうとする。


フフフ……なんて、可愛いらしゅうて

オモロいんやろなぁぁ………。

可愛ええなぁ、可哀想かわいそうやなぁ………。

笑ったろか?笑ったろなぁ………」



ロキ(囁くように、喉の奥から滲む声で)

「……アンタは、こうなる事も全部、

んだろ………???


"ナナシ"がただの"万能の願望器"なんてモノでは

あらわしきれない"未知"って事も……。

"アイツ"がどんな"祈り"を抱えて、どれほどの

"祈り"と欲"望"を飲み込んで"孤独な袋小路"の中に

"って"いるのかも…………。


それでも、“お前達”はああして、"名"も与えずに、

誰も分からず、知らずに"痛み"の中で

ちてゆくのを…………

―──―"オモロい"って言うんだろ………???

答えろよ、神皇産霊神カミムスビノカミ………」



神産巣日神カミムスビノカミ(一拍、扇子を静かに閉じながら、視線をロキに向け)

「……フフ………そやなぁ………

“全部見えてた”やなんて……。

そんな都合のええお手軽な"全知"なんか、

アタシはまだ使つこよ???

……けどな……ロキはんの言う通り。

……"あの子"が、ただの"うつわ"じゃない事くらい……

わ……………。


……あの子は、ホンマにええ子や。

"傷"を見せず、"欲"を語らず、"色"を知らず。

"名も無きモノ"に、"捨てられ弾かれたモノ"に、

"忘れられたモノ"に、"忘れていくモノ"に、

…………誰かの"願い"の為に"祈って"、

ただ、"叶え続ける"………。

そんなもん、数多あまたのどの世界であろうとも

"もろすぎる"。

……せやからこそ純粋で、つようて、真っ直ぐで……

はかなくて……美しいんやろうな………」



ナレーション

それは春の風にて、柔らかく包み込むようでいて

ふとすれば、背筋をなぞる冷たい"音"に変わる。


優しさの仮面をまとった神皇産霊神カミムスビノカミは、

穏やかに微笑ほほえみをたたえる。

まるで、迷子をあやす母のように。


─────あるいは……獲物えものが罠にかかる瞬間を待つ、

老獪ろうかいな蛇のように。


そのひとみは、深く、暗く、にごりのない湖面のようで。

井戸のようにそっと覗き込めば、

おのれが"ソレ"にうつるだろう。


だが、誰が見抜けようか???


奥底にひそむ、深淵しんえんを。


その"おのれ"は果たして誰の"想い"で産まれたのか???


───── それに気づいた時には

……………………………"もう戻れない"。



ロキ(震えた声で鋭く遮り、怒りを込めて)

「黙れ!!!!!やめろ……!!!!!

アンタが"アイツ"の"名"を口にするな……!!!

"ナナシ"の"祈り"を飾り物みたいに語るな!!!」



神皇産霊神カミムスビノカミ(ため息交じりに声を落として)

「………はぁ……せやけど、"あの子"はずっと

"名"が無いままで、"祈り"も"願い"も…………。

いずれ風に溶けて、誰の記憶にも残らへん。

それって、ちょっとさびしゅうとは思わん???

…………アンタ、ホンマに"あの子"に

"名"を与える気はあらへんの???

あの仮初かりそめの“ナナシ”のままで………

ええと思てるん???」



ロキ(顔を上げて低く、深く、感情を噛み締めるように)

「………………"名"は、"くさり"だ…………。

"定義"であり、"境界"であり、"終焉しゅうえん"……………。

…… "名"を与えたら、それは"誰か"になってしまう。

“奪われてしまうモノ"になってしまう。

"アイツ"は………"ナナシ"は 誰かの為じゃなく、

全ての為に"祈って叶え続けている"……………。

それがアイツ自身の、

唯一無二の【自由】と【救い】。

…………ボクは………。

"名前"なんかにのは、

もう沢山なんだ…………。

だから………"アイツ"に"名前"なんて……

ボクは与えない。

決して…………渡さない、 呼ばない…………。


……

だから────"彼女アイツ"は、"ナナシ"のままで良い」



ナレーション

ささやくように、怒りと悲しみをたたええながら。

しかし背筋に冷たいやいばを秘めたロキの声。


─────"名"とは、"しゅ"。

すなわち【祝い】であり、【呪い】。


"定義"であり、"おり"であり、"やいば"であり、"魂の骨"。

“名”を与えられたモノは"物語"に"とらわれる"。


神々にしるされた"運命"と言う、決してのがれられない牢獄ろうごくに閉じ込められ、世界に【祝福】された者は、

やがて"り方"さえ変わり果てた【生贄いけにえ】となる。


その重さを知るロキだからこそ、"名"を与える事の

"罪"を知っていた。

それゆえに彼は"名"を与えず“想う”事を選んだ。

まるで騎士きしの"誓い"のように、自分の内に刻んだ。



神皇産霊神カミムスビノカミ

「………せやけどなぁ、ロキはんや。

“名を与える”ってのは、"コインの裏表"よ。

【祝福】と【呪い】が紙一重"の

位置にあるモンなんや。

……"名"を持たんはちゅうんは"何も無い"んと

同義や。

本来、あらゆる"ことわり"に属するモンは"名"を宿す事で

"意味"が生まれるけんな………。

……このまま"名"を与えへんかったら……

"あの子"は永遠に“何者にもれん"。

"神"にも"ことわり"も意味も無く、

“物語”からも忘れられ、語られる事は無い。

もしアンタが仮初かりそめでは無く、

"まことの名"を付けられ、呼んだったら"あの子"は

きっと"生まれ、目覚める"やろう…………

ホンマもんの“るカタチ”としてな………」



ロキ(真っ直ぐ目を逸らさず見つめ)

「──────ボクは、宿やどさない。


“ナナシ”にボクが見えなくても、届かなくても。

誰にも分からなくても、"物語"に語られなくても。


だって今でも"アイツ"はボクの胸の奥を静かに

"想っている"んだから………。

…………誰にも、ボク自身すら見つけられなかった

この"最低最高の想い"を誰にも汚させない」



神皇産霊神カミムスビノカミ

「……さよか、アンタの考えはよう分かったわ。

………………じゃあ一つ。

アンタに聞きたいんやけど、かまんけ???」



ロキ(疑心暗鬼の眼差しを向けて)

「…………聞きたい事???

良いけど……なんだよ……???」



神皇産霊神カミムスビノカミ(やわらかな声音で、どこか愉しげで静かに歩み寄り、優しく諭すように)

「…アンタ……"あの子"に……。

──────…ナナシに惚れたんやろ???」



フェンリル

「………え!?!?

………えぇぇええええええ!?!?」



ヘル (あまりの驚きで語彙力を無くす)

「な、なななななななな!?!?!?」



ヨルムンガンド

「……………………う、そでしょ?!?!?

あの、父上様が………………!?!?」



アングルボザ(叫ぶフェンリルとヘルの口を塞ぎつつ)

「これ!!!静かにしな!!!」



ロキ(ピクリと肩を揺らし、無理に笑うように俯きながら、乾いた笑いをこぼし)

「………は……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?

な、なななななな、なに言ってんの!?!?

惚れた???ボクが???

"アイツ"に、"ナナシ"に???

な、なに馬鹿な事言ってんのさ、ハハッ!!!

ないないない!!!

そんなの、あるわけないじゃん……!!!

このボクが、混沌カオスの申し子で、破戒はかいで、

万象ばんしょうあざむ欺神ロキ

────"こい"なんか……するはずないだろ???

……ハ、ハハッ……ハハハハハ……!!!

そんな薄っぺらな感情、とうの昔に捨てたよ………。

……"愛"だの、"こい"だの、ボクは信じた事なんか

……………一度もないよ………」



神皇産霊神カミムスビノカミ(静かに、だが鋭く)

「ふぅん………そうかいな…………

……じゃぁ……… なんでアンタは今そうやって………


───────泣いてるん???」



ロキ

「…………………え………???」



ナレーション

────騙し、わらい、たわむれてきた神のひとみから、

一筋の光がこぼれ落ちた。



──────それは"涙"と言う名の"祈り"。



誰にも与えず、誰にも明かさぬと誓った“真実”。

静かに、深く、永劫えいごうの闇よりも熱く燃えていた。

それは、己自身があざむき続けていたはずの“愛”だった。



ロキ(我に返るようにハッと目を見開いて、呆然としたまま、震える指先でそっと頬をなぞる)

「……………え…………???

…………ボクが………泣いてる…………???

……これ……涙……???

なん、で……こんな……なんで……。

熱くて、止まらない……ボク……なんで……

こんなに……苦しいんだよ……???」



ヨルムンガンド

(父上様が………人前で………そんな…………)



フェンリル

(あんな父ちゃんの姿なんて………)



アングルボザ

(ロキ………それは………

アタイがアンタにあの時、

"教えれなかったモノ"じゃないか………)



ヘル

(………お父様……わえでは今の貴方様に

触れれないのですね………)



神皇産霊神カミムスビノカミ

「ほぉら、見てみ。そやって泣いとるって事は

それだけアンタの心が叫んどる証拠やないけ。

フフフ……アンタ、顔に似合わずに

案外 初心ウブなおぼこちゃんやったんやなぁ」



ロキ(嗚咽が混じりに声を震わせてぎゅっと拳を握り、声を荒げて)

「……………るせぇ…………うるせぇぇ!!! !

うるさいうるさいうるさい!!!!

そうだよ!!!惚れたさ!!!!!

惚れて何が悪い!?!?

この"欺神ロキ"が"器"に惚れて何がわりぃんだよ…!?!?


……でも……でもなァ……ボクだって………

分かんねぇよ………。

なんであんな奴が、あんなに目につくのか……。

……"アイツ"なんか変だし……何にも知らなくて……

何にも分からない癖に、なのに真っ直ぐで……

放っておけなくてさ……。


気付いたら目で追って、

また声を聞きたくなって………。

何故なぜだかアイツの言葉一つ、仕草しぐさの一つに……

胸が、心がザラつくんだよ…………。


苦しくて、痛くて、切なくて、

でも目が離せなくて…………。

……………"アイツ"、笑ったんだ………。

ボクの前であんな綺麗なで笑ったんだよ…………。

何もうつしてなかった癖に……………。


この"異端でれ"って望まれた

"欺神ロキ"であるボクを……"綺麗だね”って…………。


………だから……ボクは……ボクは……!!!

ただ"ナナシ"にそばにいて欲しいって………

そう想った……それだけだったのに……!!!


そしたらボクの中で何か、ぐしゃって…音がして……

……知らねぇよ、こんなの……!!!

どうしたら良かったんだよ……!!!


こんな気持ち………知らなきゃ良かった…………」



神産巣日神カミムスビノカミ(目を伏せ、静かにロキの頭を撫で)

「それはな……間違いなく"愛"やないけ……。

愛するがゆえの苦悩と痛み。刹那せつなさと葛藤かっとう

それが"想う"ちゅう事なんやで………。

"想いは重い"モンやさかいな。

そんでも……もし、アンタが、その自分の

"想い"の"重さ"に耐えきれんで手放した時、

"あの子"を抱いてくれる者はだぁれもおらん………。

その時が来たら、

アタシが"ナナシ"をもろうてもええんか???」



ロキ(頭を撫でられた手を叩き落とし静かに、でも強くかすれた声で)

「………言っただろ、渡さないって……………。

ボクは"アイツ"が………

の見たくない……。


あんなに"祈って"、あんなに"叶えて"……

それでも、"何もられない"なら…………

…ボクが…………。


"アイツ"がるまで。

ボクが"ナナシ"の代わりに

泣いて笑って、地獄ごと抱いてやる……………」



神皇産霊神カミムスビノカミ(静かに、けれど深く抉るように)

「…………その“ごう”を………アンタは

ホンマに背負いきれるんか?

与えらない"あの子"の祈りも、魂も、

"る事"すらも…… ただ流れて、

消えていくだけやのに。


フフ……そう、その顔…… 。

迷い、苛立いらたち、恐怖、かなしみ、焦燥しょうそう、絶望。


そして──────ほんの少しのあわい切望。


それら全部がごちゃ混ぜになって、ゆがんでしもうた

アンタのその表情…………

嗚呼、まるで"あん時"みたいやなぁ。


………………アンタが…………

──────【】の時と………。


無惨むざんで……滑稽こっけいで……

でも、壊れかけの"灯火ともしび"みたいに

なんとも言えん、美しさがある。


………【】時。

みぃんながアンタを指差して、こう言うとったなぁ、

……【】ってなぁ……………。」



ナレーション

神皇産霊神カミムスビノカミは静かにロキに近付き、

彼の前髪を掴んで強引にその場に押し倒した。

押し倒され、馬乗りとなった体重と圧に

押さえつけられたロキの胸中には、

恐怖と焦燥しょうそうわずかな期待が胸を渦巻き、

まばたき一つ、身動き一つ、出来なかった。

そんな彼の事など気にもかけない神皇産霊神カミムスビノカミ

指先はそっとロキの首筋に触れ、その冷たさと

柔らかさを確かめるように柔肌やわはだすべる。


彼女のその紫紺しこんひとみには嘲笑ちょうしょう愛惜あいせき

かすかな好奇こうきが混ざり、ロキの表情を余すところなく、何もかもを映し出す。


憎悪でも慈悲じひでもない、

ただ“異神ロキ”を見つめる者の"遊び心"そのモノ。


全ての罪も愛もこの瞬間に絡め取られるかのように

神皇産霊神カミムスビノカミは視線を外さず、微笑んだ。



神皇産霊神カミムスビノカミ

「───────あのとき………。

誰もアンタの事、"欺神"《ロキ》とは呼ばんかった。

家族も、仲間も、 誰一人として………。


フフフ……まさかアンタはそれまで自分の事、

さんやと思うとったんけ???


そないな"あわれでみにくい姿"で……


""の

”くせに……???


……けどな、それでもアタシはそんなアンタが

たまらなく可愛いくて、可哀想かわいそうでオモロくて。

愛しゅうて憎らしくて

好きなんやで…………─────"異神ロキ"」



ナレーション

まるでみたての柔らかな真綿まわたで優しく、

そして強く、片手でロキの首にめながら

再度、神皇産霊神カミムスビノカミ

静かに顔を寄せ、乱暴に髪を掴んでいた

もう片方の手でロキのほおをなぞり、

長い爪先で彼の肉をえぐった。

そのいつくしみに仕草しぐさとは裏腹に

爪先には冷たい残酷さが宿やどっていた。


微笑みを浮かべ続ける神皇産霊神カミムスビノカミは彼の頬から

したたる鮮血をまるで甘い蜜のように

自身の舌で舐め取った。


それは"優しさと毒"、"想いと呪詛じゅそ"が同居する"断罪"。


世界の狭間はざま哀悼あいとう侮蔑ぶべつ

歓喜かんき嘲笑ちょうしょうも溶け合い、

魂の底に静かに沈殿ちんでんしてゆく。


だが、──────その時だった。


ロキは神皇産霊神カミムスビノカミのその細く、しなやかな手をとら

片手で着物のえりを乱暴に引き寄せ、

神皇産霊神カミムスビノカミくちびるふさいだ。



ヘル(真っ黒なオーラを纏って槍をギリギリと握り締め)

「な!?!?

ななななななな何をなさってるんですの!!??

あ、あ、ふ、ふしだらですわよ、お父様!!!!」



フェンリル

「んー???

姉ちゃぁん、母ちゃぁん、父ちゃんとそいつは

何してるのー???

ヨルが尻尾を巻き付けてきて何にも見えないよぉ」



ヨルムンガンド

「シー!!!フェンにはまだ早いよ!!!

あとヘルはその槍、早く下げて!!!」



アングルボザ(顔を赤らめて、慌てながら)

「アンタ達は見るんじゃないよ!!!

目を潰されたくなきゃ今すぐ塞ぎな!!!」




ナレーション

激しくそして強く。

"ことわり"のほころびに爪を立てるように。

互いに深く押しつけられるくちびるかられる、

ねばついた舌を絡ませた音と口の端かられる互いの

熱い吐息が静寂せいじゃくが支配する空間にからみ合う

水音みずおとのように響く。


それはまじわるのではなく、魂同士の"蹂躙じゅうりん"。

ゆるし】でも"愛"でもない、

"神"が"神"を喰らい合う、沈黙ちんもくの【ゼロの儀式】。



─────永遠にも刹那せつな

ロキは絡ませ合った神皇産霊神カミムスビノカミの舌をガリッと噛み、肉をいた。



絡ませ合った互いの舌をくちびるから離すと

鈍色にびいろに光る唾液の糸に混じって

熱をびた血が舌から伝って、

一筋ひとすじ神皇産霊神カミムスビノカミほおれ落ちる。



ロキ(唇を離し血の滲む唇を歪め、喉の奥で笑いを漏らしながら)

「………ククク……あっははははは!!!!!

やっぱアンタ、イカれてんだろ!!!!!

"異神オレ"に噛まれてんのに、

そんな顔で笑ってるなんてさ!!!

“ハジマリの女王様”ってのは、痛みすら

前戯ぜんぎになるらしい………。

お高くとまってるクセに、

ずいぶんなまっちょろい趣味じゃねぇか…………」



神皇産霊神カミムスビノカミ

「………へぇ…………やるやん、アンタ…………。

"オモロい"やないけ……。

でも、フフフ………そんな顔で噛みついて来るとは

思わんかったわ」



ナレーション

神皇産霊神カミムスビノカミは痛みに顔をゆがませる事も無く、ニヤリとくちびるを吊り上げ、舌で血をぬぐった。

すると今度は押し倒されていたロキが逆に

神皇産霊神カミムスビノカミを押し倒し、相手の襟首を再び掴み、

顔を近づけ息が触れる距離で口を開いた。


ロキ(低い声で笑いながら不敵な笑みを浮かべて)

「"異神オレ"にそんなに顔寄せて来て

無事で済むと思った…………???

"異神オレ"がアンタで魔羅マラつなんてさ………

ねぇんだよ、ヴァァァァァァカ!!!!!!」



神皇産霊神カミムスビノカミ(首をわずかに傾け、唇に笑みを乗せて、ロキをじっと見据える)

「……ぷ、アハハハハハハハハ!!!!

このアタシに手ぇ出して、

そんな啖呵タンカ切るなんて………。

ちっとはヤるようになったやん、"異神ロキ"…………。

アンタのその"毒"、ちょっとは"マシ "になったやん。

舌先だけで触れるには………

まぁ、悪ぅない"味"やけど、まだ"三十点"やね。

焦がす覚悟もなしに、アタシに牙向けるとか………

フフ、まだまだ“遊び方”が甘過ぎやなぁ。

アンタみたいなお子様には

また早かったかいなぁ???」



ロキ(小さく舌打ちし、けれど決して譲らぬ目で)

「うるせぇよ、この性格最高最低の性悪女神が。


……………"オレ"は真っ当な"神"じゃない。

"祈り"も背負わないし、【ゆるし】もこうわない。


……………"オレ"は、“あざむく者”だ。

だまし、裏切り、いつわる"虚構きょこう"の"異端いたん"。


だから、"オレ"が"アイツ"を守る。

……"ナナシ"自身が求める"名前"と

""に出会うまで、


"名前"を呼ぶ事も、与える事も、誰にもさせない。

この世の誰にも、"お前達"にも渡さない。


─────だって、それが"オレ"の"罪”だ…………

永遠につぐなえやしない"こい"なんだよ」



神皇産霊神カミムスビノカミ(ゆったりと扇子を揺らしながら、冷ややかに目を細めて微笑み)

「フフ……アハハハハハハ!!!

ホンマ牙をく本当のアンタをるのも久しぶりや。

……………ええで………… 。

次に"あの子"が何処どこにも届かへん、

"あの子"自身の"祈り"と"願い"、

そして""が呼ばれた時……

果たして、どれだけ"オモロい事"になるか…………

アタシも楽しみにしとくわ……………。


せやけどなぁ、"異神ロキ"………よぉ覚えときや………。

どんな"嘘 きな"けもの"も、おのれの本性をさらした途端に


─────もろく、あわれな姿になるんやで」



ロキ(軽くニヤリと笑って、神産巣日神カミムスビノカミを睨みつける)

「忠告、ありがとさん………でも…………

──────"異神オレ"に常識の説教なんて、

今更無駄って、分かってるでしょ???


"黒い月"ってね……………。

"揺らいで"て、"不確か"で、誰もが

近寄りたがらない"境界"に似てるんだ。


神々のご立派な"ことわり"からはみ出した、

世界のはじっこと、常識の外側でずっとり続ける

都合の悪い"空白"の“何か”。


それはもう、グチャグチャで、狂ってて!!

……でも、なんか凄く"綺麗"だったんだよね。

ゾッとするくらい完璧な混沌と理解なんて、

とっくにぶん投げた方がマシってくらいの“真実”。


だから、だからこそ。

"オレ"が動かなきゃいけないんだ。

このゆがんだ世界で一番まともな"狂人"として。

……それが、"オレ"の“宿命”ってやつだから


だから………

────"異神ヒト"の"殉愛こいじ"を邪魔するんじゃねぇよ」





ナレーション

────"異神ロキ"の胸に秘められし想いは、

声にもらず、うたにもらず、

ただ、時の深淵しんえんに静かに溶けてゆく。


名も無く、形も持たぬその"祈り"は、

仮面の奥底で、音も無く揺らいで響き渡り、

やがて彼の頬を一筋の涙としてつたった。


彼が裏切りの続けた深淵しんえんに揺れる、

たった一つの"願い"。


それは誰かを信じ、誰かにがれた、

あざむきの果てに宿やどった、真実の"あかし"。



まぎれもなくそれは

────"こい"と言う名の"罪"の"灯火ともしび"の"火"。



永遠とわに消えぬ、一つの"光"として

ほのかに、強く胸の奥で燃え続ける。



ロキ

「───これが"こい"だと気付いてしまったら

……………もう、"嘘"はけない」



ナレーション

欺神ボクの最低最高のこい

―境界ノ座に咲ク祈リと嘘―

第3話 【誰我為たがための祈りと願い・後編】


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