第2話 【誰我為(たがため)の祈りと願い・前編】

●【作者】ぐるこ☆(スター)さみん

●【作品タイトル】 【誰我為たがための祈りと願い・前編】

●【男女比率】男2/女性3/不問2/(合計7人台本)

●【目安時間】 約90分。

●【ジャンル】 ネオ・ミソロジカル・ラメントダークファンタジー

●【配役一覧】(敬称略)

ナレーション(不問)→

ロキ(♂)→

フェンリル(不問)→

ヨルムンガンド(♂)→

ヘル(♀)→

アングルボザ(♀)→

神皇産霊神カミムスビノカミ(♀)→

──────────────


ナレーション

───あるオトコの話をしよう。


そのオトコは、生まれた時から“いらないモノ”だった。


【祝福】も【祈り】も与えられず、

ただ世界の"ほころび"に落ちてきた、名も無き【ねじれ】。


誰も望まず、誰も見ようとしなかった。

ただ、“ことわり”の死角で目を開けただけだ。


"ソレ"は名前を与えられ、"神"となった。

裏切りを受け、"悪神ワルモノ"となった。

笑った瞬間から、"欺瞞ぎまん象徴しょうちょう"となった。


──────でも本当はただ、

其処そこだけだった………。


誰かが決めた【正しさ】に叩かれ、

誰かが作った【悪】に仕立てられ、その度に笑い、

涙の代わりに【仮面】を身にまとった。


だから、オトコは選んだ。

何処どこにも属さず、誰にも似せず、

世界の端を歩く事を。


それは"始まりと終わり"の【影踏み】。

それは美しく、そして酷く、

とても────────静かだった。


オトコは笑った。

「……これでようやく、始められる」と。


───あざかれた神は、境界の向こうへ歩き出す。


世界の"ことわり"など笑いながら

壊してしまえば良いのだと…………。





神皇産霊神カミムスビノカミ

「────ほな、行ってらっしゃい。い旅を。」



ロキ

「ちょ、待っ、カミムス……!?!?─────」」




ナレーション

欺神ボクの最低最高のこい

―境界ノ座に咲ク祈リと嘘―

第2話 【誰我為たがための祈りと願い】



あの衝撃の神議かむはかりから、一夜が明けた。

混沌を巻き起こしたロキは今、静寂せいじゃくの中にいる。


─────此処ここは、北の地の果て。


氷と闇の狭間はざまにひっそりとたたずむ、ロキの神殿。

きらびやかな神々の座とは対照的に、無骨ぶこつ石壁いしかべ

深紅の絨毯じゅうたんかれたその空間は、 冷たくも

居心地の良い“孤独”に満ちている。


天井の高い書斎しょさいの中央、豪奢な黒檀こくたんの椅子に腰掛け、 ロキはひざひじをつきながら、眼前がんぜんみ上げられた

書物と巻物をじっとにらんでいた。


神々の歴史、禁忌きんきの記録、古代の 神託しんたく天文図てんもんず

異界の 写本しゃほん―― ありとあらゆる時代と世界の 記述きじゅつき集めた混沌の知識の山。


………しかし、その何処どこにも“あれ”の事は

しるされていなかった。


ロキは小さく舌打ちし、 ふと、己の内側に生まれた焦燥しょうそう苛立いらだちに気付きづく。



ロキ

「はぁ………もぅ、ぜんっぜん分かんない!!!

どれも "黒い月"について

なんも書かれてないじゃん! !!

オーディンのジジィもあれからずっとだんまりだし、

帰ってからヘイムダルにも聞いてみたら

「そんなモノは何にも見てない。

知るかクソが。死ねよ、失せろゴミむし」とかって

言われるし……。

あの見張り番、目ェ節穴ふしあなかよ……。

と言うか、口悪過ぎじゃん???

はぁ……もうんだわぁ………」



ナレーション

机に一人突っ伏して、愚痴を小さくぼやいついると、静まり返った神殿の書斎しょさいに、突如とつじょとしてとどろく激しい

破壊音が鳴り響く。

次の瞬間、豪快ごうかにぶち破られた扉の残骸ざんがいが、

ロキの足元にパラパラと崩れ落ちた。


勢い良く吹き飛ばされた扉の向こうから、

まるで嵐のように飛び込んできたのは

あふれんばかりの元気をまとい、無邪気さ全開の

ロキの子が一人、狼の子。次男のフェンリル。


そのはしゃぐ姿が、重苦しい空気を一瞬で

き消していった。

そんな彼の後ろからぐったりとした表情で

やってきたのは、同じくロキの子が一人。

世界蛇。長男のヨルムンガンド。


彼は溜息混じりに、そっとロキの肩にい上がる。



フェンリル(元気いっぱいに尻尾を振りながら飛び込んでくる)

「とぉおぉちゃぁああああんん!!!

今日のご飯ね、すっごいイイ匂いしてるよ!!!

ほら!!!早くみんなで食堂行こーー!!!」



ロキ

「うぉ!?!?うるさっ!?!?

……ちょっ、フェン!!!??

お前また扉壊したのか!?!?

ったく……今回で何枚目だっけ???

つーかご飯てお前な……。

一応神殿なんだぞ此処ここは……」



ヨルムンガンド(焦りながら涙目で)

「うああああ!!!

すみませんすみませんすみません!!!

フェンが父上様の気配を感じたら突然バーンって、

壁まで吹き飛ばしてしまって……

父上様、お怪我はないですか!?!?

あぁぁーもぅフェンのバカ!!!バカ犬!!!

あとで絶対説教だからな!!!

これでヘルに怒られるのは僕なんだからなぁ!!!」



ヘル(いつの間にか後ろに立って冷静な低い声で)

「……もう怒ってますけど???

わえの大事な大切な愛して愛して愛して……

愛するお父様の身体に傷をミクロンでも

付けてたら……どうなるか……

…………分かるわよね……???」



ナレーション

静かに場を締めくくるように、何時いつの間にか

後ろに立っていたのは、冷静さとするどさをそなえた、ほか二人と同じくロキの子が一人。

冥府めいふの女神。長女のヘル。


彼女は黒いオーラを身にまとった手には

冥府めいふの槍が握られ、冷たい視線が一瞬で場の

空気を引き締める。



フェンリル(ビクッと振り返り、しどろもどろに)

「ひぃ……!?!?ヘ、ヘル姉ちゃん……!?!?

いやその……オイラ、ちょっとだけ扉が

邪魔だっただけで……!!!

お、怒らないでぇぇぇぇぇ!!!!」



ヨルムンガンド(泣きそうに)

「フェンのせいだからな!?!?

僕じゃないからな!?!?

ああああ、どうしようヘルが怒ってるぅ!!!」



ロキ(溜め息混じりにぼやきながらヘルには棒読みで)

「……ハイハイ。

とりあえず、ちょっと落ち着けお前ら……。

はぁ……ヘルちゃーん、パパの宝物のヘルちゃーん。

ほら〜ヘルちゃんの愛しのパパは大丈夫ダヨー。

パパの大切な愛しの大事だぁいじなヘルちゃんは

お兄ちゃんや弟に酷い事シナイヨネー???

ネー???」



ヘル

「…………大事……宝物………

はっ!?!?……やっ、やだぁ!!!

わえったら勘違いして2人にコラ☆って

ちゃうとこでしたわ☆!!!てへ♡

わえったら勘違いして取り乱してしまいましたわ☆

コホン………二人共ごめんあそばせ。

……で、でもぉお父様がわえを愛しのって……ぐへへ」



ナレーション

ロキの起点きてんが働き、ヘルの思いがけない甘えた声と

雰囲気で場の空気がふっと柔らかく和らぐ。

安堵あんどの表情を浮かべる三人とは対照的に、口の橋からヨダレをダラダラと

らしつつも、愛しの父・ロキを誇らしげに

見つめるヘルの姿があった。

その無邪気なひとみが静まり返った

神殿にそっと温かな光を差し込んでいた。



フェンリル(ヨダレを垂らすヘルに若干引き気味に)

「うわぁ……ヘル姉ちゃん……凄い顔してる………。

………あ、忘れてた!!!

あのねあのねあのね父ちゃん!!!

今日のご飯はねー、えっと、うんと、

あのねあのね……あれ?………なんだっけ???

忘れちゃったぁ!!!

でもなんか美味しいやつだよー!!!

あとさっき裏山の氷像ひょうぞうね、

ぜぇんぶ倒しちゃったぁ!!!」



ヨルムンガンド(ロキの肩に乗りながら、ぐったり)

「……そして朝からフェンが暴れたせいで

その結果、局地きょくち地震起きたって

朝イチで報告が来て……

しかもそれ、また僕のせいにされてる……

もうやだ……」



ヘル

「……ハァハァ……今日もお父様の眉間の

シワが1.5ミリ増えてる……最高……マジ尊い……

カッコ可愛すぎ……此処ここに墓建てたい……。

お父様……お疲れなら、わえが特製毒抜き風呂で

癒して差し上げますわよ……こ、混浴とか……

ふへ、ふへへ……」



ロキ(軽くイライラしながら)

「………うーん……カオスになってるとこ

悪いんだが………ごめんな、お前達。

ちょぉっと静かにしてくんないかな???

ボク、今わりとマジでお疲れモードなんだけど……

って……ん?何この地響き……???

ハッ!?!?ま、まさか…この気配は……」



ナレーション

そんな粉々に砕け散った扉の破片が散乱さんらんする神殿の

荒れ果てた空間に肩で風を切りながら

踏み込んでくる人物の姿があった。

するどい眼差しと鬼の形相ぎょうそうの女性巨人。

────その名はアングルボザ。


彼女の怒気は嵐のごとく、凛々りりしく

空気を震わせるほどに激しい。

静まり返っていた室内は、一瞬にして張り詰めた

緊張感に包まれ、まるで空間そのものが

怒りにまれたかのようだった。



アングルボザ

「……ロキィィィィィィィ!!!!

テメェ!!!またやらかしたなぁぁぁぁ!!!」



ナレーション

そのするどい声が響き渡った瞬間、

ロキの肩がピクリとねた。

目は泳ぎ、表情はあからさまに動揺を隠せない。

突然の襲来しゅうらいに驚きながらも、平静をよそおうとする、ロキの様子は何処どこ滑稽こっけいであり、

たじろぎながら必死に冷や汗をいて、引きつった笑みを浮かべる声が続いた。



ロキ(肩びくっ、と跳ねて目を泳がせる)

「うわ!?!?び、ビックリしたぁ!?!?

ど、どうしたのかな………アンちゃん………???

ご、ご機嫌麗しくって………えっと………

今日も今日とて見事にキレてるけど………。

え……な、何で怒ってんの???

……な、何か……あった………???」



アングルボザ(詰め寄る)

「“何かあった?"、じゃねぇよ!!!

このクズロキが!!!

あとアンちゃんって呼ぶな!!!

アタイの事はアングルボザねぇさんと呼べって

何時いつも言ってんだろがぁ!!!」



ロキ(じりじりと後ずさりしながら)

「は、はいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

ごめんなさぁぁぁぁい!!!すんませんんん!!!

で、でぇ…………アングルボザねえさんは………

今日はどうしたのかな???

ボク、君を怒らせるような事したっけ????」



アングルボザ

「しらばっくれてんじゃねぇぞ、このクソロキ!!!

お前、昨日の神議かむはかりで他所よその神に

喧嘩けんか売ったらしいじゃねぇーか!!!」



フェンリル

(耳をぴくぴくさせて、きょとんと目を丸くして)

「んえ??? そうなの父ちゃん???

喧嘩はダメだよー!!!

みんなで仲良くしないとって

狼の群れでもそう習うよぉ???」



ヘル(頬を赤く染めうっとりとロキを見つめながら一歩ロキに近づいて)

「……ふふっ、やっぱりわえのお父様は

誰よりも素敵……♡

お父様が世界で一番なのに……

何で他の有象無象うぞうむぞうの連中はそれが

分からないのかしら???

お父様をバカにする神達なんて、

壊れちゃえばいいのに……。

わえが全部壊してあげる……お父様の為に……♡

だから……誰と喧嘩したか、

教えてお父様???今からそいつブッ殺すから」



ヨルムンガンド(巨大な尾をばたばたさせながら、疲れたように)

「はぁ……またやらかしたんですか、父上様???

今度は何処どこの神を敵に回したんです……?

世界海ミズガルズ均衡きんこうが狂ったら

今度こそ……ボク、本当に

りくに打ち上がりますからね……」



ロキ

「はぁぁぁぁぁぁ?!?!えええ!?!?

いやいやいや!?!?ちょっと待って!?!?

ボクそんな事してない……と思う!!!

……たぶん!!!」



アングルボザ(目が据わったまま、新聞をバンと机に叩きつける)

「……じゃあ、これはなんなんだよ、

あ゛ぁ゛ん?!?!」



ロキ(新聞をおそるおそる広げて)

「なになに?これ今日の朝刊じゃん???

何が書かれてって……」



ナレーション

ドンッという音とともに机に叩きつけられた

一枚の新聞。

タイトルには、大きくこう書かれていた。


『イズンは見た!? 大波乱の神議かむはかり!!

お騒がせ大炎上神ロキが神皇産霊神カミムスビノカミと一触即発!?』


そしてその下には昨夜の神議かむはかりで、

立ち去る神皇産霊神カミムスビノカミの背後で、ロキが椅子を豪快ごうかい

蹴り飛ばしながらえている瞬間の写真がばっちり、はっきりとセンター見開きで掲載されていた。



ヨルムンガンド(記事を横から見てドン引きし)

「……うわぁ……一面フルカラーで大々的に

報じられてる……しかも相手が神産巣日神カミムスビノカミ様って……父上様、やらかしましたね……」



フェンリル(新聞を覗き込みながらキラキラした目で)

「わぁっ!!!父ちゃん新聞乗ったの!?!?

かっこいい顔してるね!!牙めっちゃ出てる〜!!!

すごーい!!!オイラも父ちゃんと一緒に

新聞乗りたい乗りたい乗りたーい!!!!」



ヘル

「……ヤッバ、記事のこの写真、お父様の怒気が

美しすぎて待ち受けにしたい……。

あ、でも違うわ、待ち受け以上の価値が……

これはあかん……強すぎる……。

脳が焼き切れる……そうだわ、いっそ額装そうしょくして

祭壇さいだんにしなきゃ……デュフ…」



ロキ(新聞を広げ、わなわなと声を荒らげ)

「……おっふ…………わぁお…………

何これめっちゃ動きのある写真……。

てか、これ絶対狙って撮ってるやつ………

って……あんのくそゴシップ共がぁぁぁぁ!!

それに"イズンは見た!?!?"って何だよ!?!?

つーかこの写真、どうやって撮ったんだよ!?!?

盗撮じゃんか!?!?」



アングルボザ(バキボキッと拳を鳴らす)

「……ロォォォォォキィィィィィィ??????」



ロキ(わかりやすく泣きそうな顔)

「え、いや、待って!?これは、その違う!!

ボクは無実だよ?!?!

ま、まだ椅子蹴ったくらいだし!!!

と言うか蹴った記憶もないけど!?!?

ぼ、暴力は何も解決しないよ!?!?」



神皇産霊神カミムスビノカミ(笑いながら、静かに近づく)

「フフ……相変わらずやなぁ、ロキはん。

口先ばぁっかり達者たっしゃで、顔はまるで泣きべそかいてるなんてどっちが子供か、分からしまへんな。

でもそう言うとこが、アンタらしくてオモロいよなぁ」



ナレーション

神域しんいきに響くその笑い声は音を裂き、

空気をゆがませる。


本来ならば不可侵ふかしんの壁でへたたれているはずの

神殿に足を踏み入れたのは……………。

"ことわり"の結界を揺らがせながら、

何時いつの間にか、ロキの背後から煙管キセル

煙草タバコくゆらせながら歩み寄る一人の神、

神皇産霊神カミムスビノカミ】が現れた。



ヘル(鋭く、神殿に響く声)

「何者か!?!?

この崇高すうこうなるお父様がおわす神域しんいきに、

一体、誰の許しで足を踏み入れ……何これ!?!?

……この気配………!?!?

ことわり”そのものがゆがんで!?!?」



ヨルムンガンド(吠えるように)

「な、何だ!?!?この空気……!?!?

甘ったるくて、冷たくて暖かくて痛い……???

花の匂いがする!?!?」



フェンリル(低く唸る)

「…………だ、誰!?!?

こいつ……"何だ"………!?!?」

 


アングルボザ(前に出ようとする子供達を片腕で制し)

「下がりな、お前達……………

アタイが良いと言うまでの後ろから一歩も

動くんじゃないよ。

この御仁ごじん神皇産霊神カミムスビノカミ様。

数多あまたの神々の中でもあれは

決して"触れてはならぬモノ"さ………。

……アタイ達がまともに触れて良い存在じゃねぇ…

…触れれば、どうなるか………。

…………お前達もタダでは済まないよ…………」



ヘル

「……分かりましたわ……お母様………。

さぁ、お兄様達もお母様の後ろに下がってて………

って、ちょ、フェン!?!?」



フェンリル(アングルボザの背中から顔を覗かせ、キラキラと瞳を輝かせて)

「あれが………うわあぁぁ!?!?

じゃぁじゃぁお姉さんが父ちゃんと新聞に乗ってた、

えっとカミュミィ………。

わぅぅ、噛んじゃったよぉぉ~

……よぉし、もう1回言うぞぉ!!!

んと、神産巣日神カミムスビノカミ様!?!?

こんにちわ!!!初めまして!!!

オイラ、父ちゃんと母ちゃんが交尾こうびして

産まれた次男のフェンリルです!!!

好きな物は父ちゃんの頭をかじる事と

美味しいご飯です!!!!

よろしくお願いします!!!ガウガウ!!!」



ヨルムンガンド

「こ、こぉんのアホ犬ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!

ばかばかばかばかばか!!!馬鹿野郎!!!!

いきなり何言っちゃってんだよ!!!!

あぁぁーーもぅ!!!

すみませんすみませんすみません!!!

うちのバカでアホな単純頭の

次男が失礼しましたぁ!!!

ほら謝ってフェン!!!不敬だよ!!!」



神皇産霊神カミムスビノカミ(ニコニコと笑って近付き)

「あらまぁ、可愛らしい子らやんか。

うんうん、上手にご挨拶出来て偉いなぁ。

良い子には……ほれ、ご褒美のお菓子をやろうなぁ」



フェンリル(尻尾をぶんぶん振りながらお菓子を食べる)

「むぅ~オイラはアホでもバカでも、

犬でもないやい!!!

オイラは立派な狼だもん、ワオーン!!!

え、お姉さん、お菓子くれるの?!?!

わぁい!!!やったー!!!

姉ちゃぁん母ぁちゃん!!お菓子貰ったよー!!!

あむあむ………兄ちゃんも食べるぅぅー???」



ヨルムンガンド(尻尾でフェンリルの身体に巻き付き引きずり)

「何が食べるー???だよ!!!

ちゃっかり餌付けされてるじゃないか!!!

何処どこが狼だよ!!!

ただの大型犬じゃないか!!!

ほら、早くは、な、れ、な……さい!!!

こっち来いバカフェン!!!」



アングルボザ

「……はぁ……ったく……。

仕方ない子だよ、まったく……安心しな、ヘル。

あれは"敵意"じゃなくてただ単に

可愛がってるだけさ、少なくとも、今は………な。

だからその槍を下げな。」



ヘル

「は、はい………ですがどうやってこの神殿に???

幾重いくえにも張り巡らされた世界のへだたる"壁"と

母様の力とわえのルーンの結界が破られた形跡は

見られませんが………」



アングルボザ

「……そう見えるのは、お前達がまだ

“神の間合い”を知らないからだ。

彼女は“真理”そのモノだ。

"真理"の前じゃどんなモノも

"無かった事になる"のさ…………」



ロキ(呆れた顔で嫌味のように)

「…………うちのキッズ達と仲良くするのは

構わないけど……….アンタ、どうやって来たんだよ。

"境界"にすら触れていない。

飛び越えたり貫いたりしたわけでもない。

ホント意味分かんないよね、アンタ。

で???今日は一体何しに来たのさ???

神議かむはりの記事見て叱りに来たとかならお断りだよ、

今ボク疲れてるし、忙しいんだよ。

お茶くらい出してあげるから飲んだら帰ってよね~」



神皇産霊神カミムスビノカミ(無邪気に見せかけた声で、舌先に棘を滲ませながら)

「フフフ……ちゃうちゃう。

そないムキにならんといてぇな???

アンタがどれだけ足掻あがいても、

"黒い月"の事、何一つ見抜けへんかったんやろ?

せやから"黒い月"行けるようにしたろうかな。って

思うとってなぁ。

ずぅとホンマは行きとぅて行きとぅてって

急かす心のままでたまらんくせになぁ……

……嗚呼、嗚呼、なんやその顔、みっともない。

……必死に頭 ひねって焦って、泣きついて、

あげくの果てにねてねて、まるで………。

─────知恵も力も足らん子どもが、

自分で玩具オモチャを壊れて地団駄じたんだ踏んどるみたいやったで?

そんなん見てたらなぁ、哀れを通り越して

笑えてしもて……。

ホンマに可愛らしゅうて、可哀想で、

ついつい構うてあげたなったんや。

可愛いなぁ、可哀想やなぁ…………

笑ったろか???笑ったろうなぁ…………。

ホンマに……どうしようもないなぁ、アンタ」



[ロキの独白]

ロキ

────────嗚呼、嫌いだ………。


このオンナは…………嫌いだ。

全てを見通したような、あの目。

まるでボクを"駒"か何かみたいに、てのひら

転がしてくる。


口先だけは上品で、笑顔の下には鋭いいばら

ヒトの心の"裏"を、コイツは"遊び道具"みたいに

もてあそぶ。

まるで甘いとろける蜜細工みつざいくで包んだような"毒"が

宿やどった言葉を飴玉あめだまみたい舐め回すように、

ゆっくりと投げてくる。


それが……たまらなくしゃくさわるんだ。



────【神皇産霊神カミムスビノカミ

造化三神ぞうかさんしん】の一柱ひとはしら

"ことわり"を結び、この世界を"り合わせる者"。



けれどコイツは、ただ"結んで繋ぐ"だけじゃない。

"切り離す事"にも、"千切ちぎり壊す事"にも

躊躇ためら"いが一切ない。

それでいて笑って言うんだろう。

"可愛いなぁ、可哀想やなぁ"とかって言って………。



気に食わない。

気に食わない、気に食わない、気に食わない。


気に入らない。

気に入らない。気に入らない。気に入らない。



────────けどボクは………

コイツの言葉に



───────"黒い月"。

その"名"を耳にした時、

何故なぜか心の奥が、ざらりと凍りついた。



コイツは"知っている"。

ボクが"恐れているモノ"も、

ボクが欲しがっているモノ"も




──────全て"黒い月"にある事を……………。




アングルボザ(思い切りドンとロキの背中を叩く)

「ほらっ!!!

湿気シケたツラしてんじゃねーよ、ロキ!!!

どうせお前、知りたいし、行きたいんだろ???

その"黒い月"とやらに。

ならあとの事はアタイらに任せな。

なぁに上手くあのクソオーディンのジジイには

丸め込んどいてやるさ。

いざとなったらボコボコにして

やったっていいんだし………

だからアンタはさっさと……ほら、行っといで」



ナレーション

アングルボザはまるで母狐が仔狐の尻を

軽くつついて、「さ、遊んでおいで」と

追い立てるような、優しくも手加減のない

声と腕でロキの肩を組んだ。


そのひとみには、硬い氷をゆっくりと

溶かしていくような、計り知れぬ想いの深さが

秘められていた。


ロキの胸の内を笑いながらも、すっかり

見透かしているアングルボザのそのさま

目の当たりにして、ロキは上擦うわずった声をあげた。



ロキ(キョトンとした顔で)

「…………は???…………えぇえ!?!?

ちょ、ボクは別に行きたいなんて一言も……

いや、まぁ確かに気にはなるけどさ!?!?

ちょっとだけだからね!?

だからその………あ〜〜〜もう、なんなの!?!?え、神って全員そんな腹黒なの!?!?」



アングルボザ(爽やかに腕組みして遠くを眺めながら、ふっと微笑む)

「あぁん???

バーカ、アタイや子供達に何、気ぃ使ってんだい。

“行く”ってテメェ自身が決めた事なら

アタイ達はアンタの意志を尊重するさ。

これはさ、信じるとかってとは違うんだけど

アタイは誰の手で"道"が編まれるべきかで

口も刃も拳も使うけどよ………

アタイはさ、ロキにとって必要な選択の時に

"ケツを叩くのが今だって”分かるんだよ。

アンタはアタイの【 共犯者ダンナ】だからさ」



ナレーション

その一言に、ロキはピタリと動きを止める。

何とも言えない顔で溜息を吐き、ソラあおぐ。


その背中には怒りと困惑。微妙に傷ついたプライド。

だけどその奥、深い場所に不意に光る、

一つの“きっかけ”が芽吹いていた。


それは、興味???懐かしさ???

あるいは………………─────名もない"衝動"。


ロキはぶつぶつ言いながら頭をガリガリと

掻きむしってから小さく息をつく。



ロキ(腕を組み、ふてくされたまま前へ進み出して)

「………チッ……分かったよ……。

……行けばいいんでしょ、行けば………。

あーもう、なんかさ……

ボクは神皇産霊神カミムスビノカミ、アンタからしたら

遊び道具の駒の一個なんだろうね……。

否定できねぇ自分が一番ムカつくけど……

い・ち・お・う!!!頼まれてやるよ。


………それと……ありがとう……。

アングルボザねえさん………」



神皇産霊神カミムスビノカミ

「…………フフフ、話はまとまったみたいで上々やな。

ほいで早速ロキはんには"黒い月"に

行って貰うけんどかまんへんよな???

長いような短いような所にあるさかい、

色々準備やらほんまやったらいるんやけど。

今回は、アンタを早う"黒い月"に

着けるようにしたったるから感謝したってな。」



ロキ(舌を出して悪態をつきながら)

「うっげぇ、ハイハイ、おおせのままにぃ

神皇産霊神カミムスビノカミ様、アリガトウゴザイマスー。

でもボク、"黒い月"の行き方とか知らないよ???

だってこんだけ古今東西ここんとうざい、ありとあらゆる

数多あまたの神話と世界を探して

調べても無いんだし………」



神皇産霊神カミムスビノカミ(ふふ、と小さく笑いながら)

「ああせやったなぁ。これ、そないにしょぼくれて。

………ロキはんはホンマ、変わらないなぁ……

そう言う顔するんのわ。

昔から怒った顔も、困った顔も、ねた顔も……

全部、ホンマに愛らしいわぁ。

あの頃からなぁんも変わらへん"意地けん坊"やな。」



ナレーション

その言葉と同時に神皇産霊神カミムスビノカミ

すぅと音もなく歩み寄った。

黒い着物の袖がふわりと揺れ、次の瞬間にはもうロキの目の前。


息がかかるほどの距離。

冗談ではなくまるで口付けすら

届きそうなその近さで。


ロキが一歩引こうとするより早く、神皇産霊神カミムスビノカミ

にこりと微笑ほほえみ、一つ、悪戯イタズラっぽい

ウィンクをえた。



ロキ

「は???……何言ってんの???

アンタとはあの時が初めまし―──―って!?!?

な、何!?!?何なになに!?!?

ちょっ、近い近い近い近いっ!?!?

近すぎるだろ!?!?

ちょっと、アンタ、一体何考えて……!?!?」」


(あ、……まつげ、長……それにこれ……

甘い匂い……紫苑シオンの花みたいな……って、違う違う違う!!!

目ぇ合った……うわ、ヤバ……!!!)



神皇産霊神カミムスビノカミ

「……だって、アンタ、行く言うたやん???

……………行って知るとええわ………。

"黒い月"の事も、其処そこに"る"モン"の事も、

自分自身の事も……………。

【可愛ええ子には旅させよ】、やったかいな………」



ナレーション

────そして次の瞬間、そう言うやいなや。

まるで、風に舞う綿毛わたげでもはたくように。

指先で、ふわりとほんの少し、

「トンッ」とロキの肩を押した。



ロキ

「…………………へ???」



ナレーション

ほんの小さな圧と接触。

世界が凍りついたように静まり返った。

風は止まり、光はにじみ、時間すら息を潜める。

されどそれは、世界のことわりを曲げる神の一押し。

床も空間も一切の区別が曖昧あいまいになったその刹那せつな────


その瞬間、床下が"ぽっかり"と音もなく割れた。


床は消え、空間の輪郭りんかくゆがみ、世界が音を

飲み込んだ。

ロキの足元に開かれたのはどろりと揺れる

漆黒しっこくの空間────"うろの穴"だった。

泥のようで、夜のようで、夢の裏地うらじのような

不思議な質感。



神皇産霊神カミムスビノカミ

「────ほな、行ってらっしゃい。い旅を。」



ロキ

「ちょ、待っ、カミムス………!?!?────」



ナレーション

ロキの叫びが終わるよりも早く、ロキの身体は

抵抗する間もなく、声も表情も影に溶けるようにまれていった。



────全てが“深淵しんえん”に引きずり込まれる。



それはまるで、この世に存在したという痕跡こんせきすら"初めから無かった"かのように。

神の一柱ひとはしらが、"世界"からそっと

何処どこにも居ない】事にされる。


それは虚無きょむとは異なる"忘却ぼうきゃくおり"にた、

意図いとと力に満ちた"底のない意志"だった。





ヨルムンガンド

「ち、父上様が……き、消えた……???

……………いや、み込まれて………

"落とされた"???」



フェンリル(低い唸り声をあげながら)

「……オマエ…父ちゃんを何処どこにやった!!!」



ヘル(喉を裂くような絶叫と激情に突き動かされて崩れ落ちるように)


「ぁああああああああ!!!

………あ、あぁ……お前…………

わえの………わえの……わえ達のお父様に

何をしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!

殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」



アングルボザ(一歩前に出て鋭い目で見つめながら、低く静かに対峙)

「落ち着きな!!!気ぃを乱すんじゃないよ!!!

…………神皇産霊神カミムスビノカミ様 ………。

お前さんはこんな三文芝居さんもんしばいまで打ってまでたわむれに

きょうじる必要があるのかい………???


お前さん達、最上位の創世神なら

本来、アタイ達みたいなモンに決して

接触なんかしないはずだ。


……………そうだろ、天すら届かぬ彼方かなた概念がいねんの先、

"神核しんかく"の奥に"るモノ"よ。


……………お前さんがこの世界に現れた理由は

ただのロキに対する【興味本位】か???

それとも………─────────」



神皇産霊神カミムスビノカミ

(大地を踏む音すら楽しむように、にじり寄る足取りで微笑む)

「……… さぁなぁ………

それが【興味本位】かどうか、

知りたいんやったら……………。

ロキはんが戻ってくるまで、アタシと一緒に

───────遊ぼうや……………」



ナレーション

言葉は甘く、響きは静かだがその足音には、

命を削るような圧がにじんでいた。


世界の温度が一つ、ぬるりと落ちる。

狂気は声ではなく、呼吸の合間に潜み、踏み出された

その一歩は冥府すら黙らせる“造化ぞうか”の

一端いったんだった。


ヘルの咆哮ほうこうが満ちる中、

ただ一人――──神産巣日神カミムスビノカミだけが、微笑んでいた。


一方、ロキはと言うと………───────



ロキ

「………アイタタタタ……痛ってぇなぁ、もう!!

なぁにすんだあのババア!!

いきなり、このボクをよく分かんない

あの黒い泥みたいなのに放り込む!?

いやいや普通そこは

こう、丁重ていちょうあつかうところでしょ?!

一応、ボク、北欧神の中じゃ

偉い神様なんだからさぁ!?!?

せめて事前にアポとか取れよ!!!

優しさって概念がいねんが絶滅したんか!!!

あのアマァ!!!!」



ナレーション

ロキの叫び声は裏返り気味に響き、床をゴロゴロと

転がりながら派手にのたうち回り、

そして唐突とうとつにガバッと起き上がるや

いなや、息もつかずにまるで世界中の理不尽を一身に

受けたかのように、悪態あくたいをまくし立てた。


その顔は痛みによる涙か、怒りによる汗か、

もはや区別もつかないまま、目だけは

鋭く虚空こくうにらみつけていた。



ロキ

「あーもう、肩痛っぁ……

ボクの麗しき完全無欠のボディをなんだと

思ってんだよ?!?!

しかもあいつ笑ってたよね???

「ほな、いってらっしゃ~い」って……

笑いながらさぁ!?!?

あのド変態冷血神、どうかしてる!!!

やってることただの極悪ババアじゃん!!!

あー……ケツ打ったぁ……

ボクのプリチーなお尻に青タンでも

出来てたらマジ許さないんだから……って、

……何処どこだ、此処ここ……???」



ナレーション

──────落ちたのは、天でも地でもない。



此処ここは神々の声も記憶すら響かない、

"ことわりの外"。

"奈落"の【空白くうはく】。

"空白"と漆黒しっこくが支配する

“名も無き渦"、"うろの"底。


上下もなく、左右もなく。

ただ空の"白い月"が揺らめくばかり。


時はよどみ、音は凍りつき、光すら輪郭りんかくを持たない。

全てが"曖昧あいまい"で、"未分化みぶんか"で、

"る"とも"無い"とも言えぬ場所。


それは世界の“外”でもなく、“内”でもない。

ただ、数多あまたの影なす残響だけが

泡沫うたかたのように浮かんでは、静かに消え、"カタチ"も名"も持たぬ、沈黙の中で息づく領域。

それが、この場所。


────────"黒い月"。


天のことわり狭間はざま穿うがたれし、神々ですら触れる事も

叶わぬ禁忌きんき領域りょういき

昼も夜もなく、光さえくっする虚無きょむの空を彷徨さまよい続ける。


──────もう一つの“月”。



ロキ

「……見渡す限り……なんにもない、か……

真っ白な大地……空も風も音もない……………。

………これ、“果て”すら無いってやつか。

まるで誰かが途中で投げ出した世界の"裏側"。

いや、そもそも“完成させる気”なんて

無かったのかもね……」



ナレーション

ロキは足元の地を軽く蹴った。

わずかに舞い上がった白い塵は風もない、

空間の中でふわりと浮かび、やがて音もなく

消えていった。



ロキ

「でも"世界の裏側"ってより、"設計ミス"のまま

放置された白いキャンバスって感じだな。

おーい、誰か筆、置き忘れてんぞー???

……なーんてな、返事ある訳ないよね…………。

……進んでも、何かが劇的に変わるとは

思っちゃいないけど……でも……止まってると、

体の奥がムズムズしてしょうがないや。

………あーもう!!!

ボクってば………やっぱ"性分"なんだよな、

こう言うのは」



ナレーション

ロキは何もない白い大地に一歩足を踏み出した。

その踏みしめた大地は波紋はもんも痕跡も残さず、

それでも確かに其処そこに"る"事だけをしめしていた。


ロキのひとみともったのは、"火種"のような微かな"光"。

笑みを含んだ"祈り"にもた衝動だった。



ロキ

「"退屈"ってのは、"神殺し"よりタチが悪いし、

どうせ誰も起こしてくれやしないなら……

せめてボクが“何か”を始めてやるさ…………。

………さて、こっちが“前”って事で良いかな???

間違ってたら────その時は、その時だし、

世界が壊れるよりは、マシじゃん???」



ナレーション

小さく肩をすくめると、ロキは歩き出した。

何もないはずの世界に確かにだけか彼の足音が

刻まれていった。

"音"の無い空と"色"の無い風が吹く。

けれど、歩みの先にわずかに“揺らぎ”が生まれた。


まるでそれを待っていたかのように

白一色だった地平に"影"が差す。


それはロキの影ではなかった。

まるでカタチを持たぬ筈の"世界"が彼に“えた”ように。


──────── 一つ、"音"が響く。


ロキは足を止め"ソレ"を見た。

それは遠く、硬質こうしつな鈴ののような

あるいは涙の落ちる音にも

一雫ひとしずけの中心に"何か"。


まるで世界が眠りの中で見た、悪夢の名残なごりのようにそれは其処そこに居た。



ロキ(眉をひそめ、じりじりとゆっくり一歩ずつ近寄る)

「人間……? ??

……いや………これは"どれとも違う"……???」

………"こいつ"一体………………"何だ"???」



ナレーション

───────彼が"ソレ"と出会う前に

一つ、お客様に語りましょう。


それは彼が"異神ロキ"に至る過去。

"アスガルドを地獄に変えたあの日"の事を。



───────"彼"の話をしよう。


これは一人の記憶の彼方かなたに沈み、

火のように鋭く、声無き叫びを放った話である。


そのオトコは、【祝福】の輪から

永遠に、はじかれていた。

何処どこにも属せぬ者として

あざけりと孤独に包まれ、

誰にも届かぬ声を上げるしかなかった。


何故なぜなら"彼"は、見てしまったのだ。

神々が隠し続けた“真実”を。

讃歌さんかの"影"に隠された"欺瞞ぎまん"を。

賛美さんびの裏に沈められた"罪"を。


────────あの日。

アスガルドのソラは、光に満ちていた。

大いなる宴。さかづきが打ち鳴らされ、

神々の笑い声が空に、大地に木霊こだました。


神々の宴の席の中、"彼"は"家族"のかたわらで

微笑ほほえむ神として其処そこに居た。


だが、祝宴の中で語られた"彼"の言葉は

“冗談”と呼ばれ、わらい者にされた。


それは"冗談"などではなかった。

ただ、誰もが言えなかった。

言葉にするにはあまりに正しく、

あまりに残酷な"真実"だったから。


"彼"が放ったその一言は宴を

─────────"地獄"へと変えた。


さかづきは割れ、讃歌さんかは凍りつき、沈黙がやいはとなって

"彼"の全てを切り裂き、蹂躙じゅうりんした。


神々はそんな"彼"から目をらし、耳を閉ざして口をつぐんだ


"彼"は決してゆるされず"裏切り者"と呼ばれ、

"災厄"を産むタネと言う"異端"となり、

嘘吐ウソツキ者と揶揄やゆされた。



─────"彼"の心から流れたのは血ではなく、

流れたのは神々への“敬意”そのモノだった。


それでも"彼"は笑った。

それしか"残されていなかった"のだから。


涙の代わりにあざむきのわらいを。

かなしみの代わりに、"毒"の言葉を。

"仮面"の奥に、誰にも見せぬ"傷"を抱いて。


"ことわり"と混沌の狭間を彷徨さまよい、昼と夜の裂け目をただよい続ける。

神にも人にもなれぬ、滑稽こっけいな"仮面"を被り、

偽りを踊る“道化”の神として。



───────そして今。

宴が終わったあの日のように、

忘れ去られた“想い”との再会とかつて誰かが

捨てた"祈り"のような、"世界"そのものが

うたうが"音"が聴こえた時。



"彼"は再び笑うだろう。



それはあざけりの笑いではない。

"名"も無く、"カタチ"もなく、

ただ其処そこに"る"だけの、

彼が知らなかった自身の痛みに触れる

かくも切ない"色"を。



だがそれはまだ───────誰も知らない。



────あざむかれし神は境界を越えて

遠い記憶の残響に導かれ、

"名を持たぬ想い"の"深淵しんえん"に歩み寄る──



欺神ボクの最低最高のこい

―境界ノ座に咲ク祈リと嘘―

第2話 【誰我為たがための祈りと願い・前編】

完。

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