第1話 【混沌《カオス》と秩序の境界線《ボーダーライン》】

●【作者】ぐるこ☆(スター)さみん

●【作品タイトル】 『混沌カオスと秩序の境界線ボーダーライン

●【男女比率】男3/女性3/不問2/(合計8人台本)

●【目安時間】 約90分。

●【ジャンル】 ネオ・ミソロジカル・ラメント・ダークファンタジー

●【配役一覧】(敬称略)

ナレーション(不問)→

オーディン/ 高御産日神タカミムスビノカミ(♂)→

ロキ(♂)→

トール(♂)→

フレイ(不問)→

フレイヤ(♀)→

イズン(♀)→

???(※作中で神皇産霊神カミムスビノカミと判明)(♀)→

──────────────

【第0幕:冒頭モノローグ】


ナレーション

───お集まりの賢者けんじゃ諸君、夢見る者よ。


これより語られるは、とあるの神の物語オハナシ


秩序を嘲笑あざわい、混沌にたわむれ、

ことわりを破り、感情をもてあそ破戒はかいと笑いの化身けしん

それでいて……誰よりも、愛をった、神の"独白どくはく"。



─────彼の話をしよう。



生まれついた時から、彼には【枠】がなかった。

善と悪の境界線も、まこといつわり輪郭りんかくも愛と憎の色すら曖昧あいまいなまま、

─── “る事”にすら、意味を持たぬ存在。


彼の名は、"あざむく者"、"破壊する者"。

そして、誰よりも……“見つめる者”。


時に世界をわらいながら舞台を転がし、

時に誰よりも純粋なで人の心を覗き込み、

時にただひとり、 誰にも名を呼ばれぬ"闇"を見つめる。


────それは滑稽こっけいでいて、

何処どこまでも優しい"神"だった。


彼は知っている。

世界は“秩序”と“祈り”によって成り立っていると言う"幻想"を。


そして彼は信じている。

その"祈り"が如何いかに残酷で、 如何いかに愛おしく、

如何いかに尊い"モノ"かと言う事を。


────だから、彼は境界を歩く。


外の神。 異界のはし

“世界にとって必要ではないが

必要とされてしまった存在”。


───……そう、これは一人の神が

一人の名もなき"器"と出会い、“願い”という名の

"地獄"に踏み込む、そんな、夜よりも深い。

"祈り"よりも哀しい、 愛よりも狂おしい

【初恋の痛み】の物語である。




作者 ぐるこ☆《スター》さみん

欺神ボクの最低最高のこい

―境界ノ座に咲ク祈リと嘘― 】




第1話【混沌カオスと秩序の境界線ボーダーライン





【第1幕:北欧神殿・書斎の一室/神々の談笑】



ナレーション

北欧の神々が住まう神殿、ヴァルハラの奥深く。

その一角、薄明かりに包まれた書斎のような部屋に、ひときわ荘厳そうごんな雰囲気をただよわせる神がいた。


彼の名は、オーディン。


いくさと死を司り、知識とと魔法の神でもある、

北欧神界の最高神。

片目に知恵を宿し、老獪ろうかいにして深遠しんえん


されど今は、玉座ならぬ重厚なデスクに向かい、

山積みの書簡しょかんに囲まれていた。


古びた巻物を一つ開き、うなりながら議題を整え、

「発言者順・調整用一覧」なる板書ばんしょまで用意し、

渋い声で己の発言をこっそり練習する姿は、

何処どこか“緊張気味の中間管理職”のようでもあった。



オーディン(玉座に座って厳かに)

「……ふむ。さて、明日の神議かむはかりの議題は

やはり来たる例の件のへの備えと……──」



ロキ(ヒョイと出現)

「うっわぁ~また始まったよ、

ジジイの会議ごっこ~」



オーディン

「ジジイ言うなッ!!!!

そして誰に向かって言っている!!!

不敬ふけいだぞ!!!!

我は至高の神、全知全能にして──」



ロキ(どさっと玉座のひじ掛けに座る)

「はいはい、イイ歳こいてごっこ遊びに

いそしむ恥ずかしさ全開の全恥ぜんちの“ジィさん”っと」




ナレーション

ニヤニヤと相手を小馬鹿にするこの男の名はロキ。


神界しんかいイチのトリックスターであり、

変化と混沌を司るその神は今日も例によって

突拍子もなく現れては場の空気をき乱す。


その軽薄けいはくな笑みと不遜ふそんな態度は、

多くの神々の眉をひそめさせる一方で、

何処どこか憎めぬ奔放ほんぽうさと、

時折見せる鋭い眼差しに、ただの"道化"とは

言いきれない気配を宿している。


だがこの時ばかりは彼が“玉座の

ひじ掛けに座る”と言う行為に神経を逆撫さかなでした者が一人いた。



イズン(冷ややかに)

「ロキ、其処そこはオーディン様のお席よ……

お行儀の悪い子はトールのいかずちにでも

打たれてみる???」



トール(やる気満々に片手にハンマーを握り)

「おう!!!任せろイズン!!!

ついにヒーローである俺の出番か!?!?」



ロキ(ヒョッと離脱して棒読みする)

「ウワー脳内筋肉爆弾ダー。

助けてーディンえもんー」



トール

「なんだとゴラァァ!!!???

ヒトの親父をどっかのマスコットキャラみたいに

呼ぶな!!!

つーか、お前また誰かの神器しんき

盗っただろぉ!?!?」



フレイ(間に入りつつ微笑む)

「はいはい、二人共落ち着いて。

一応、これから会議なんだから。

それに神器しんき所在しょざいはちゃんと

確認済みだよ……今の所は、だけど……」



フレイヤ(座りながら髪をいじって)

「アタシの首飾り盗んだら、

マ ジ許さないかんね???

この前のロキの変装、マジでドン引きだったし」



ロキ(堂々と)

「いや~似合ってたでしょ???

ボクがフレイヤのコスプレした時、

トールってば鼻血出してたじゃん、

これだから童貞は単純だよねー」



トール(顔真っ赤にしながら)

「はぁ?!だだだだだ出してねえわ!!!

誰が童貞だ!!!どどどど童貞じゃねーし!!!」



イズン(淡々とリンゴの香りがする紅茶を飲みながら)

「トール、そんな悪い子はいっそ“封印”と言う

手段も考えた方がよろしいかと……。

いえ、ロキには腐りかけのリンゴでもくれて

黙らせるべきかと」



ロキ

「ひっどいなぁ、こんなの

何時いつものじゃれ合いじゃないか~。

相変わずイズンはボクが嫌いだねー。

でもボク、リンゴなんかで黙らないよ???」



イズン(凍りつくほどの笑みをロキに向け)

「いいえ。

口の中で発酵して死にかける所まで行けば、

少しは静かになるでしょう???」



ロキ(引きつる笑顔)

「……コワ。やっぱ君が一番コワいわ~……」



フレイヤ(うっすら呆れ顔)

「……うーわ、キッショ……。

でもロキって色んな女神達にモテ過ぎじゃね???

ほら最近、あの冥界の女子と超仲良しでさ……。

マジキモ……」



フレイ

「フフ、おや?嫉妬かい、フレイヤ???

ロキが最近構ってくれなくて寂しいって

ごねていたみたいだけど……」



フレイヤ

「ち、ちちちちがうし!?!?

なぁに言ってんのよ、お兄様!!??

アレはないわーって意味の、そ、そう!!!

常識の話!!!!」



オーディン

「はぁ……そろそろ本題に戻るぞ、馬鹿共。

まったくお前達ときたら……何時いつ何時いつも…」



ロキ(肩をすくめて、へらりと笑いながら)

「いやぁ~良く考えて見なよ、オーディン???

こうして“雷鳴筋肉ゴリラ”のトールの

怒鳴り声聞いて、 “農耕シスコン兄ちゃん”の

フレイが間に入って、“ブラコンギャル女神”こと

フレイヤが毒を吐きつつ、 “万年アンチエイジングの

リンゴ馬鹿”のイズンが静かにブチキレてると……

ああ、今日も神界しんかいは平和だな~って

思うんだよね、ボク」



オーディン(怒りを抑え、震える手で杖を握りしめ、鋭く睨みながら)

「ロキ……そろそろ、我にも我慢の

限界がある………。

お前の軽率けいそつな振る舞いが秩序を乱しておるのだ………。

だが、今はまだ見逃してやっているんだ……

分かるであろう???」



ロキ

「お、おう……中年が本気で怒る前に

大人しくしよっと」



トール

「いや、まんま中年って言ってんじゃねーか」



ロキ(玉座のひじ掛けに寝転びながら)

「もう~ホント、いちいちトールは

小言が多いよね~。

そんなんじゃモテないよぉ???

それに前に小言を言って僕んちの子供を

泣かしたじゃん???

子供泣かすとか、ヒーローとして

どうかと思うけど。」



フレイ

「うーん……それだけはロキには言われたくないって

思うけど……」



フレイヤ

「ほんそれー。ねー、お兄様。

おま言うって感じぃー」



イズン

「一言一句、たがわず同じ言葉を

貴方 の頭蓋ずがいをかち割って、其処そこにリンゴを

詰めながら言って差し上げましょうか、ロキ???」



ロキ

「え~もぅ、皆、失礼しちゃうなぁ。

てかさ~中年とかじゃなくて正直老いだよね、

オーディン。

白髪増えた疑惑、そろそろ認めたらぁ???」



オーディン(杖で床をドンッと強く叩く)

「黙らぬか!!!この"お騒がせ邪神"が!!!

我が髪は“英知の銀”!!!!

断じて老いではない!!!威厳いげんだ!!!」



フレイヤ(小声でボソリと)

「……昨晩、フリッグ様がヒゲ

染料せんりょうを塗ってるのオーディン様を

見たって話をしてたけど………」



オーディン(振り返り)

「なななななんだと!?!?

フ、フリッグが?!?!

ま、まさか見ていたのか!?!?

そ、それは……その、そう!!

身だしなみをだな!!!」



ロキ(腹を抱えて笑う)

「何それ!?!?だっさ!!!!

オーディンが美容意識とか!!!!ウケるー!!!!ボクの方が断然イケメンだからって嫉妬で対抗して

そんな慣れない事してんのー?!?!

プギャー!!!!」



フレイヤ

「それはない。絶対それはない。

ロキに嫉妬とか神界しんかいの恥よ???」



トール(ミョルニルを片手で回しながら)

「おいロキ、ちょっとこっち来い。

一回だけでいいから顔面に雷霆らいてい、ぶち込ませろ」



ロキ

「やーだよ脳筋、あっかんべーっだ。

ボクの顔は崩れたらどうしてくれるんだよ、

芸術的造形なんだからさ~」



フレイ(苦笑しながら)

「ま、まぁ……ロキは確かに

綺麗な顔はしているけど……イ、イズン???

……凄い顔に……。

苦虫にがむしを潰したみたいな怖い顔になってるよ???」



イズン

「事実と妄想の境界を把握する努力をおこた

ロキに吐き気がしただけですわ……。

お気遣いなく……」



ロキ

「このリンゴ女、ホントにボクには

辛辣しんらつなんだよね……。

まだあの時の借りパクの事、恨んでんの???

でもさぁ、仕方ないじゃん???だぁってぇ~

ボクの魅力は万国共通、神界しんかい全土に……」



フレイヤ(きっぱりと)

「ないわね、マジでねーわ。

そんな事になったらもっかいラグナレク起こすわ」



ロキ

「げぇ、愛と美の女神が即答かよ。

ってそんな事でラグナレク起こさないでよ」



トール

「お前の魅力は“痛さ”だ。

殴って気持ち良い部門でトップだな。

殴ると良い音が鳴るんだよなぁ、こう、メキッと」



フレイヤ(片手で手鏡で持ち、自分の髪を整えつつ)

「ロキが変な事言うからでしょ???

て言うか、ずっと疑問だったけど

なんでロキって女子に人気あるの???

ほかの国の女神達からもモテてるとか

マジでありえなくない???」



ロキ(指ハートしながら)

「それは~ボクが~罪深き小悪魔系だから~~」



フレイヤ(手鏡が割れる音を響かせながら)

「………ぶっ殺すわよ???

………いいえ……。

今、此処ここでアタシが殺してあげるから

其処そこになおれ」



ロキ(慌てて後ずさりしながら)

「ま、待ってフレイヤちゃん!?!?

ボクは君のそう言うとこも好きだけども!!!

暴力は駄目じゃないかな!?!?

そのひび割れた鏡で何しようとしてんの!?!?

こっちくんなし!!!やだ!!!暴力反対!!!

助けてフレイおにぃ……ぎゃあああぁぁあ!!!」



オーディン(こめかみを抑えて)

「……はぁ……相変わらずロキは

口が軽くてかなわぬ」



イズン(紅茶を口にして)

「オーディン様がロキを放置してきた結果です。

“自業自得”って言葉、知ってるでしょう???」



オーディン

「ぐぬぬ……我のカラスのフギンとムニンでさえ

最近は“ロキの会話が

毎回うるさいから有給使います"と言って

巣に帰ってばかりで……」



ロキ(ポンッとオーディンの肩を叩く)

「大丈夫だよ、ジィさん。

あとで耳栓あげるよ、片耳分な☆」



トール

「ケチか!!!両耳分くらいあげろよ!!!」



フレイ(そっと時計を見る)

「ね……ねぇ、フレイヤ……。

これ、もう1時間くらい経ってないかな……???」



フレイヤ(しれっと)

何時いつもの事だから慣れちゃったわよ。

お兄様は真面目だから…でもそんな所も

大好きなんだからね、勘違いしないでよね!!!」



イズン(冷静に)

「では議題進行の為にリンゴ型ミョルニルを

作ってみましょうか……試作品はロキの

首筋にピッと」



ロキ

「イズン!!??それはやめよう!?!?

会議ってそんな穏やかじゃない兵器を

持ち込むものだっけ!?!?

絶対違うよね!?!?」



オーディン

「オッホン!!!お巫山戯ふざけもこれくらいにせぬか!

……これよりお前達に話すのは明日の

神議かむはかりについてだ。

の国々の神々も一同に集まる会議だが

一つ、異例があるのだ……」



フレイヤ

「異例???

今までそのような事はありませんでしたが……」



オーディン(厳かに、声に重みを込めて)

「……今回の神議かむはかりは、例年とは違う。

遥か東の果て。

もとの神々の中で未だに

謎に包まれていたかの神、

神皇産霊神カミムスビノカミ】様が議案を出すそうだ」



【第2幕:告げられし異神、カミムスビ】

 

ナレーション

オーディンがその名を告げた瞬間、

神殿の空気が変わった。

にぎやかだった神々の声が、

まるで音の波が引くように静まり返る。

まるで“その名”に何か力でもあるかのように。

其処そこた誰もが、一様いちように息をんだ。


───【神皇産霊神カミムスビノカミ】。

その名を聞いた神はあれども、

"正体"を知る者はいない。

はるか遠き、極東きょくとうに位置するもとにおいて最も古く、最も深き神。

だがその力も、姿も、意志も、全てが霧の中。


謎をまとい、誰の前にも現れなかった

その神が他国の神々の前に姿を現そうとしている。

それは神界しんかい全体がざわつくほどの“異例”だった。



イズン(驚きの色を隠せず)

もとの……

かの名高い神が……それは大事おおごとですわね……」



フレイ(眉をひそめて)

「今まで交わった事もない、

あの噂話でしか聞いた事のない神が………

神議かむはかりに???」



オーディン

「理由はの国の神々と

同様、何も知らされていない……」



トール(興味津々に)

「カミム???なんだそいつは???

舌を噛みそうな名前だな」



ロキ

「なになに何?!?!なんか面白そうじゃん!!!

で???フレイとフレイヤは知ってそうだけど、

その神ってどんな神なの???」



フレイヤ(腕を組み、眉間に深い皺)

「それが……【分からない】のよ……。

本当に何も分からないの」



トール(首を傾げ、小首をかしげるように)

「おいおいフレイヤ。

お前が【分からない】だと???

一体どういう事だ???

如何いかに極東の神とはいえ、今まで何度もあちらの

国の神とは神議かむはかりで会って知ってるはずだが………」



フレイ(ゆっくりと呼吸を整えながら口を開く)

「そこは僕が説明するよ、トール。

……実はこれがなかなか複雑でね。

僕達の世界とは全く違う神話体系の

神だからってわけじゃない。

他国の神々もあの神についてはほぼ断片的にしか

伝わっていなくて、全容ぜんようを掴むのが難しいんだ」



ロキ(興味津々で身を乗り出し、眉を上げる)

「断片的??なんだよそれ???

あの国の神々とはフレイヤとイズンは

女子会だってした仲なんだろ?

じゃあもっと詳しく知ってて当然じゃないの???」



イズン(落ち着いた口調でゆったりと)

「えぇ……その通り、普通ならそう思うでしょうね。

けれど、【神皇産霊神カミムスビノカミ】はほかの神々と違う。

太古の創世そうせいの象徴でありながら、

他神話圏との交流も少ない。

だから情報が散逸さんいつしてしまっているの」



フレイヤ(続けて少し苛立ちを含んだ声で)

「しかもその神は単なる存在じゃなくて、

それ以上の神って噂されてんのよ………。

あの国の最高神のアマちゃ……

天照大御神アマテラスオオミカミ様ですら、

その神には逆らえないらしいの。

アタシ達の感覚や理解を超えた、本質的に

違う存在である可能性が高いわ……」



フレイ(顔をしかめて言葉を選ぶように)

「だから、【分からない】のは単なる

情報不足じゃないのさ。

もしかしたら、僕達がこれまで築いてきた神

話体系の枠組みすら通用しない、

根本的な違いがあるのかもしれない……」



オーディン(杖をしっかり握りしめ、静かに頷き)

「…………その通り。

神皇産霊神カミムスビノカミ】は宇宙の創世そうせいに深く関わる神であり、

我々、個々ここの人格神の概念がいねん

越えた存在とも噂で聞く………。

ゆえにその意図いとや思想を読み解く事は並大抵ではない」



フレイヤ(ため息を吐きながら)

「だからこそ、今回の神議かむはかりに参加して

議案を出すってのは余程の事があるはずなのよ」



ロキ

「ふーん………面白そうじゃん。

明日だっけ、その神議かむはかり。

僕も着いてこうかな~」



イズン(腕を組み、鋭い目でロキを見る)

「ロキ、貴方が着いて行くのはお辞めなさい。

余計なトラブルを呼び込むのは

何時いつも貴方なのだから」



ロキ(にやりと笑いながら)

「トラブル???

それが僕のトレードマークだろ???

でもね、今回ばかりは面白い展開になりそうだし、

見逃せないよ」



トール(ミョルニルを肩に担ぎながら)

「おい、ロキ。お前が行くなら俺もついて行くぞ。

そいつが何者か、俺の力で確かめてやる」



フレイ(軽く微笑みながら)

「トールがそう言うなら、僕も同行しよう。

未知なる存在との接触は慎重に

いどまねばならないからね」



フレイヤ(頷きつつ、髪をかき上げて)

「アタシもよ

その神がどんな力を持つか分からないし。

何かあれば私とお兄様の力で皆を守るわ」



オーディン(静かに立ち上がり、杖を天に掲げ)

「よかろう……明日の神議かむはかりは歴史的な場となる。

皆、各々おのおのの役割を果たし、

この未知なる神と向き合え。

だが!!!くれぐれも粗相そそうのないようにな。

特にロキ!!!お前はな!!!」



ロキ

「へーへー。分かってるよ」



【第3幕:神議り当日・神々の大広間】

(各国の神々が円卓を囲み、緊迫した空気の中で次々と議題が交わされている。)



ナレーション

────神議かむはかり。


それは悠久ゆうきゅうの時を超え、世界中のあらゆる神々が

一堂に会する、大いなるつといである。


地上界、天界、冥界をもまたぎ、諸国の神々が

己の知恵と力をたずさえてつとい、未来の安寧あんねい

破滅の狭間はざまを見極めるため、議論を交わす場。


その場は単なる会議に留まらず、神々の思惑おもわく

秘められた策略さくりゃくが渦巻き、

時に友情と対立が交錯こうさくし、

歴史の転換点となる瞬間が生まれる。




ロキ(大きく欠伸をしながら)

「ふぁぁ……

退屈だな~まだ終わんないの~???」



トール(鋭い目でロキを睨みつける)

「お前、ここは遊び場じゃねぇんだぞ!!!

ったく、神々の未来が掛った大事な会議だって

分かってるのか???」



ロキ(軽く肩をすくめてニヤリ)

「えー、でも正直言ってさ。

毎回同じ長ったらしい話が続くだけじゃ

眠くもなるってもんだよ。

もっと派手に動けば盛り上がるのにな~」



イズン(静かに紅茶を一口飲みながら)

「ロキ、貴方のその態度が一番場の空気を

乱しているのよ、つつしみなさい。

……とは言え、退屈そうにしていても

貴方のは何かを探しているように

見えますわね。

何か面白い事でも期待しているのかしら???」



ロキ(わざとらしく肩をすくめて)

「まあね……よく知ってるじゃん、流石イズン。

噂の謎に包まれた未知の【神皇産霊神カミムスビノカミ】が

どんな議題を持って来るのか、正直興味はあるよ。

でもこうやって皆が重々しく話してるだけじゃ、

眠気が勝っちゃうんだよ、ふぁぁ……」



フレイ(優しい声で)

「ロキ、それは危険な考えだよ。

此処ここでの話は世界の安寧あんねいに関わる事、

油断は命取りになる。

神とはいえ、皆一枚岩じゃないんだからさ」



トール(真剣な表情で)

「フレイの通りだ。

俺達はただ騒ぐ為に集まってるわけじゃない。

未知の力に立ち向かう覚悟を持て、アホロキ。」



ロキ(少し真面目な顔で)

「アホロキって言うな、

このムッツリすけべトール!!!

もぅ、マジでそう言うとこはジジィに

そっくりだよね~……でも……だからこそ、

今の内に退屈を楽しんでるのさ。

もうすぐ会議も終盤だ。

神皇産霊神カミムスビノカミ】が動き出せばきっと大騒ぎになる。

だからあのジイさんは慣れない議長なんてポ

ジションでいる………。

本当はそんなガラじゃないだろうに……」



フレイ

「そうだね、確かに何時いつもなら

【議長なんて面倒臭い仕事はやらん!!!】って

突っぱねちゃうのに。

きっとオーディン様なりの優しさだと

僕は思ってるよ」



トール(机に置かれた葡萄を食べながら)

「……けどよぉ、その【神皇産霊神カミムスビノカミ】って、

本当に来てんのかよ???

何者かも分からない、記録にもろくに載ってねぇ。

ほかの国々の神々達さえ、

その名を聞いた事があっても姿は誰も

見た事もねぇと来た」



フレイヤ(髪を撫でながら)

「アタシも此処ここに来てから知ったんだけど……。

今回の神議かむはかりはある意味、【神皇産霊神カミムスビノカミ】様の

"お披露目"って事で“特別席”ももうけられたそうよ」



ナレーション

──その“特別席”は円卓えんたくの中央からわずかに離れた、

異質な空間にもうけられていた。

他の神々の座がきらびやかな威厳いげんや力を

象徴するものであったのに対し、其処そこ

まるで“何も無い"事をしめすように"空席"だった。


豪華絢爛ごうかけんらんな装飾もなく、

ただ“る事”だけが許された沈黙の座。


一切、ほどこされず、ただ静かに

る”というだけの空間。


それが最も古く、最も遠い神。

神皇産霊神カミムスビノカミ】の為の席。


誰もが無意識にその場所を避け、

目をそららしていた。

理由は分からない、ただ、“本能が拒絶していた”。

まるで其処そこに座る者が

"自分達の存在、そのモノ”すら

超越ちょうえつしているかのように――───


会議が終盤を迎え、オーディンは杖で

軽く床を叩き、神々の視線がその“空席”へと

集まり始めた。

まるで引き寄せられるように。



オーディン(重く威厳のある声で円卓に響く)

「それでは──次の議題へ移ろう。

我等が最後に語り合う議題はこの方より……」



(にこりと微笑む神皇産霊神カミムスビノカミが表れる)

???

「────堅苦しい話は無しにして、

もっとオモロイ話をしようや………」




ナレーション

────────その時、“音”が、消えた。




イズン(眉をひそめ、小声で)

「……今、何か……空気の層が、一つ……

"堕ちた"……???」



トール(鋭く立ち上がり)

「おい、見ろ……あそこだ……」



ロキ(不意に笑いが止まり、身を乗り出し、目を見開いたまま固まる)

「……………なんだ……"アレ"………????」




ナレーション

“空席”だった筈のその場所に、何時いつの間にか

“何か”が"った"。

“最初から存在していた"のに、

"認識出来なかった”ような、そんな"り方"だった。


明確に“見る”事が出来ない。

光の向こう、影の内側。

“視界の死角”にずっとたかのような、

“形を持たぬ存在”。


静かに椅子に腰かけ、煙管キセル煙草タバコくゆらせる

"何か"が"た"。



オーディン(低く、威厳をもって)

「……神皇産霊神カミムスビノカミ殿。

……本日はお越し頂けた事、深く感謝申し上げる」



神皇産霊神カミムスビノカミ

「おおきに、おおきに。

……ようまねいてくれはりましたなぁ、

ありがとぅさん、オーディンはん。

遠路えんろ、はるばる日ノ本よりせ参じたけんど……。

ほんまは……

ずっと"此処ここに最初から居た"んやで???

話がなごぉて欠伸あくびが止まらんかったわ……ふあぁ……」



フレイヤ(小声で、息を飲む)

「……声だけが、脳裏に響いて……何これ……

"見える"のに何も"視えない"……気持ち悪い……」



フレイ(静かに頷く)

「うん……“確かに居る”……でも……これは……」



オーディン

(……"る"と言うモノは

“視えるかどうか”だけではない……。

まさしくその"体現たいげん"だが……

しかし……まさかこれ程とは……)



神産巣日神カミムスビノカミ

「 お初にお目にかかるなぁ、異国あだつくにの神さん方。

アタシは神皇産霊神カミムスビノカミ

神と人。神と神、モノとモノ、人と人。

神と場、場とモノ、場と人を結ぶ

日ノ本の神さんや。よろしゅうなぁ」



【第4幕:神産巣日神カミムスビノカミの顕現】



ナレーション

──その姿と声に全ての神々が沈黙した。


神皇産霊神カミムスビノカミ】。


時の初めに 【天之御中主神アメノミナカヌシ】、【高御産日神タカムスビノカミ】の

二柱ふたはしらと共に“ことわり”の言葉すらととのわぬ以前に、

ただ“った”【造化三神ぞうかさんしん】の1人。


そんな彼女が現れた瞬間、大広間の空気が

まるで時ごとゆがんだように感じられた。



トール(目を見開いたまま、乾いた笑みを浮かべて)

「ハハッ………なんだありゃ……

あぁ………超級にヤべぇ……………。

洒落シャレにならねぇくらい震えと

冷や汗が止まらねぇ……こんなの初めてだ……」



ロキ(かすれた声で)

「……嗚呼……その通りだね………

あのヒトの最初の一言で………

背筋がゾワってしたよ………

まるで身体だけじゃなく、心も魂すら

"掴まれた"みたいな……“言葉”のはずなのに………“概念がいねん”の奥を

直接、撫で回して来るような……妙な感覚だ……」



フレイヤ(震えたがらも冷静さを保ちながらも、眉間に皺を寄せ)

「ロキ……貴方ほどの神でさえ、

そう感じたなんて……」



フレイ(冷や汗を静かに流しながら)

「………いや、むしろロキだからこそ

分かったんだろうね。

“世界のほころび”ってモノを………

あれは……神の言葉じゃない………。

もっと根っこの、“世界のり方そのモノ”を

いじくるたぐいの"ナニカ"だ………」



オーディン(声に緊張が走る)

「……神皇産霊神カミムスビノカミ殿。

今回の神議かむはかりにて議長を務めさせて

頂いている北欧神のオーディンと申します、

お見知り置き下さるとさいわいに御座ございます……」



神皇産霊神カミムスビノカミ

「フフ……なんやなんや。北欧の最高神ともあろう

オーディンはんが、そないに緊張する必要も無いし、警戒する事もないで?

アンタら異国あだつくにの神さんらぁは

アタシの姿は見た事なんやっけなぁ?

可愛ええなぁ、可哀想やなぁ、オモロイなぁ。

笑ったろか?笑ろぅたろなぁ」



ナレーション

その声は柔らかく、まるで子供のように

無邪気に響く。

しかし、その裏には時空を超えた

深淵しんえんの重みが隠されていた。

神々のひとみは揺れ、心の奥底で"何か"がざわめく。

神皇産霊神カミムスビノカミが現れただけで、世界の"ことわり"が

微かに波打ち、神々の間に言い知れぬ恐怖が広がる。



神皇産霊神カミムスビノカミ煙管キセルから手を離し、扇をひらひらと揺らしながら、ゆるりとした口調で)

「そうそう、話のお題やったなぁ。

なぁに、そんな退屈な話やないで?

此岸しがん彼岸ひがんをも

超えた"モノ"の話をしよう思ってなぁ…………。

………アンタらは、“黒い月”っちゅうもんを、

知っとるけ???」



ロキ

「…………"黒い月"……???」




【第5幕:"黒い月"と言う禁忌】



ナレーション

その言葉は、場を重く静かな闇で包み込んだ。

此処ここに集う神々の誰一人、その存在を知らず、

口を閉ざす。


─────────“黒い月”。


ことわり記述きじゅつにも何処どこにも存在しない、

存在してはならぬ"影"のような"領域"。


ざわめく神々が互いの顔を見つめる中、

トールは苛立いらだちを込めて声をはなつと

場の緊張は更に高まった。


トール(眉をひそめて)

「……"黒い月"だと???

生憎あいにく此処ここに居る連中の

誰も知らねーよ、そんなもん。

どの神記しんきにも書かれちゃいねぇんだからな」



イズン(静かに首をかしげ)

天文てんもんの記録にもそんな言葉は……

聞いた事がありませんわ……」



フレイヤ(フレイとヒソヒソ話のように会話し)

「“黒い月”なんて、見た事も聞いた事もないわ。

だって……月は何時いつだって白いし、

一つしかないじゃない?

ただの天体の満ち欠けとかじゃないの?

新月とか、月食みたいな……。

……お兄様は、どう思う???」



フレイ(考えながらゆっくりと答え)

「うーん……僕も知らないなぁ……。

僕ら、北欧 神界しんかいだと月はマニが

運航を任されているけれど、そんな話は

一度も聞いた事がないし……。

でも……もし、それが本当に“黒い月”として

存在するのだとしたら……どうして僕達神々が

【知らない】んだろう……???」



オーディン(慎重に言葉を選ぶ)

「……“黒い月”と言う名のモノは我が記憶にも無い。

そのようなモノが我々の知識の

外側にあると……???」



神皇産霊神カミムスビノカミ(くすりと微笑む)

「そやろなぁ……誰も知らへんはずや。

そもそも“あらへんモノ”やさかいな。

ってはならん場所”、"ことわりの記述にない地"。

誰も語らへん、“黒い月”。

でもそれは確実に今も、“る”んやで???

……“あらへん”と信じ込んでたんは

一体、何処どこの誰なんやろなぁ???」



ナレーション

神皇産霊神カミムスビノカミの言葉は、凍てつく風のように

大広間の空気を切り裂いた。


"ことわりの外"に秘められ、忘却ぼうきゃくの闇に沈むその"存在"は

神々の胸に重く不安の影を落とし、

疑念がざわめいた。


そんな中、円卓えんたくの中心に座るオーディンは

片目を細めて静かに杖で床を叩いた。

響く振動と共に拡がる音を見据みすえる彼の片目には、

神としての重責じゅうせきするど洞察どうさつの色が宿っていた。


しかしそんなオーディンとは対象的に、

神皇産霊神カミムスビノカミはつまらなさそうに

静かに再び煙管キセル

煙草タバコを吹かし始めた。


その紫闇しあんの煙は、世界の"均衡きんこう"を

揺るがす序章のように冷たく重く大広間に

伝い渡った。



オーディン(低く、重々しい声で一歩、前へ出て)

「……神皇産霊神カミムスビノカミ殿よ。

その“黒い月”なるものが本当に存在するならば、

“黒い月”を議題として我々にしめした、

その意図いとを明かして頂けますかな………???」



神産巣日神カミムスビノカミ(涼やかに微笑み、まるで談笑でもするように)

「フフ、オーディンはん。

アンタまるで"人間"みたいに言うんやなぁ。

"存在する”ちゅうんは、"人間"の言葉や。

あれは“る”んや。せやけど、“あらへん”ままでな」



ナレーション

神皇産霊神カミムスビノカミは、ふと視線を宙に遊ばせた。

まるではるか過去、あるいは未来の記憶を

手繰たぐるように、静かに目を細める。


その指先が空を撫でるように動く度、音もなく、

気配だけが変わり、"何か"が"揺らいだ"。


彼女が語ろうとする“ソレは、

言葉にすれば壊れてしまうような曖昧あいまいで、

しかし確かに“るモノ"。


"ことわりの外"に身をひそめ、

"光と闇"、"秩序と混沌"の狭間はざまにひっそりと息づく。


それは姿を持たず、名も持たず、。

けれど確かに風の中に、夢の底に、記憶のふち

気配を残している。


まるで"語られぬ真実"を封じた結界のような、

しばしの沈黙は永遠のような感覚さえあった。


やがて神皇産霊神カミムスビノカミはにっこりと微笑み、

茶目ちゃめっ気すらにじむ声で口を開く。



神皇産霊神カミムスビノカミ(にっこり笑って)

「えぇなぁ…その顔、可愛いなぁ、可哀想やなぁ…。

フフフ…でもまぁ、アンタらみたいな

神さん達でも"黒い月"を知らんのも

無理もない事なんよ。

これを知っとるんは大父おおとと様の

天之御中主神アメノミナカヌシ大兄おおあに様の高御産日神タカムスビノカミ

そしてアタシともう一人……。

数多あまたに居る神々の中でたった四人しか知らん事や。

けど……………オーディンはんや……。

アンタの"身内"にもあの"黒い月"を

感じる者はおるんやないけ………???」



ロキ

「!?!?」


(こいつ……今、このボクを"捉えた"……!?!?)



ナレーション

その神皇産霊神カミムスビノカミの一言と視線が

ロキの胸中きょうちゅうに言葉にならぬ動揺が走らせた。

普段の悪戯っ子の仮面の奥底で

何かがかすかに、しかし、確かに"揺らいだ"。


自分の内に潜む不穏ふおんな"影"の存在を、

彼でさえも知らなかったのだ。


神皇産霊神カミムスビノカミの柔らかな微笑ほほえみとは裏腹に、

場には静かな波紋はめんが広がっていく。

誰もが触れたくない、けれど避けられぬ未知の闇に

会議場は静寂せいじゃくに包まれた。



ロキ(はっと息を呑み、声を絞って手を挙げて神産巣日神を見る)

「………あのー……それってもしかして……

ボクの事だったりするのかな、神皇産霊神カミムスビノカミ様……。

ボクの名前は……────」



神産巣日神カミムスビノカミ(やわらかく微笑み)

「うんうん。こん中ならアンタやろなぁ、

悪戯イタズラ好きなロキはん。

知っとるでぇ、アンタの事はなぁ。

でもそんな"異端でれ"と"望まれた"アンタですら

知らんかったやろ……???

"黒い月"なんてあらへんって………。

ほんまにオモロいなぁ……

可愛ええなぁ、可哀想やなぁ

笑ったろか?笑ったるなぁ………フフフ……」



ナレーション

その言葉にロキは背筋を更に凍らせた。

神皇産霊神カミムスビノカミはただ微笑むだけ。

だがその微笑みの奥にあるのは、無邪気な残酷さか、あるいは……切なる警告か。

いずれのどちらでもない"何か"を秘めていた。



トール(苛立ちを抑えきれず、立ち上がって拳を机に打ちつける)

「ふざけるなよ、神皇産霊神カミムスビノカミ………様!!!

黙って聞いてりゃ、不穏ふおんな話ばっかしやがって!!!

この場に集う神々をあざけるように、

“知らなかった”事を笑うのか!?!?」



神皇産霊神(ゆるりと扇子を揺らしながら)

「あらまぁ、トールはんは頭が硬いなぁ~

知らん事を笑う理由なんて、1個しか無いやん???


………………"オモロい"からや。


つようて、なごうて、"ことわり"の端っこまで知っとる神々が、 その"ことわりの“外”を知ろうともせんと………

いや、知らずにおる。

その姿が……ほんまに楽しゅうて、哀しゅうて

"オモロイ"んや……」



フレイヤ(沈痛な声で)

「……まるで、最初から“知る事”が

とがであるかのような言い方ね……。

嫌な言い方だわ……」



フレイ(穏やかな声ながらも眉をひそめ)

「……確かに僕達は"黒い月"については

何も知らない……。

いや、神でありながら知らないでいる事が

おかしいんだろう………。

でもそうして知らないでいると言う事は

ことわり”の中で"均衡きんこう"を

たもつ為なんじゃないかな???

……僕は……それを“無知”と笑うのは……

意地が悪いように思います」



神皇産霊神カミムスビノカミ(扇をそっと胸元に当てて)

「せやけど、フレイはん、フレイヤはん。

世界って、ホンマに“均衡きんこう”なんやろか?

それってただの、“見たいモンだけを

見るようにした”とちゃうんけ???」



イズン(静かに口を開く)

「……では質問を変えますわ、神皇産霊神カミムスビノカミ様。

ワタクシの名はイズン。

北欧神の一柱ひとはしられっし、常若とこわかの果実を管理し、

神々の老衰ろうすいを防ぐ役目をになっております。

……いち神としてお尋ねしますが……

“黒い月”なる存在について何故なにゆえ今、

それをワタクシ達へ開示しようとされるのですか??? 」



ナレーション

──その瞬間、笑みを浮かべていた神皇産霊神カミムスビノカミの眉が小さくピクリと動いた。


それは、風の止む瞬間。

深淵しんえんを覗き込むような、静かな間。

神が“答えを選ぶ”までの、短くも長い沈黙。


神皇産霊神カミムスビノカミの目が緩やかに閉じられ、

その奥に潜むものが、ふと滲み出る。


神が“語る”と言う事は、"世界"の"カタチ"が

一つ変わると言う事。

それでもイズンはただ、まっすぐに彼女を

見つめていた。



神皇産霊神カミムスビノカミ(ニタリと笑い)

「……えぇなぁ…アンタは賢いなぁ、イズンはん。

何故なぜ今か?…………ええ質問や………」



フレイヤ

「………それは誰かに頼まれたから

話してくれてるの???

それとも貴方の意思、どちらなの???」



神皇産霊神カミムスビノカミ(煙管でタバコを吸いながら)

「別に誰かに頼まれた訳でも、使命やないんよ。

アタシが“今”を選んだだけの話や。

で、その理由わけなんやけど………。

……そろそろ“目覚める”………

いや、“産まれるかもしれへん"からや」



ロキ(笑みの形だけを口元に貼りつけたまま、目だけが鋭く光る)

「……ボク、その“かもしれへん”って言い方…………ほんっとに嫌いだね。

なぁんか腹立つんだよ…………。

始まりもしなけりゃ、終わりもしない"何か"が

うごいてるってのに、アンタはまるで

みたいに言いやがる……

……それもアンタにとっては

"オモロい事"なわけ???」



神皇産霊神カミムスビノカミ(ニヤリと笑うが、目は笑っていない)

「フフフ……そう思ってもかまんへんが………

"黒い月"をほっといたらアンタらだけやなく、

ありとあらゆる世界の

神々、精霊、民草たみくさも人間も、なんもかんも……

誰一人として、タダでは済まへん。

……そしてそれは“終わり”と“始まり”の

どちらとも言えるもんなんよ。

……オーディンはんならこの意味が

分かるんやないの???」



ナレーション

意地悪く言ったその言葉が、まるで結界を張るように場の気をてつかせた。

神々は誰一人として声を発せず。

いや、はっする事が出来なかった。

風さえも息を潜め、時がその瞬間だけ

沈黙したかのように思えた。


神皇産霊神カミムスビノカミ声音こわねは、かすかに揺れる鈴の音のように優雅で柔らかく、

けれど、その響きはまるで【祝福】のように。

あるいは【呪い】のように。

神々の魂の深奥しんおうへと音もなく染み入り、

おかしてゆく。


その身にまとう気配は、穏やかさの仮面を被りながら、 いずれの神とも異なる

気高く不可思議な“ことわり”をはらんでいた。


おおぎがふわりと開かれ、静かに口元へとえられる。

その微笑みは優しさの"カタチ"をしているが、

その眼差しの奥に"る"モノは光でも闇でもなく、

あらゆる概念がいねんを"拒絶するモノ"。

始まりも終わりも持たぬ、名も無き"空白"。

"存在"と"不在"の狭間はじまにぽっかりと穿うがたれた、

うろ】だった。


そして、誰もそれをのぞき返す事は出来ず、

ただ、その沈黙が神々の胸の奥に重く、

深く爪を立てていた。



オーディン

「……嗚呼……知っているとも……

………嫌という程に……」



イズン

「オーディン様…………」



トール

「………親父オヤジ………」

(……俺達はまたアンタに背負わせちまうのか……)



フレイヤ

(オーディン様があんな顔をするなんて……)



フレイ(神産巣日神に問いかけるように)

「……神皇産霊神カミムスビノカミ様……。

貴女がその"黒い月”を僕らに語るというのは……

その"目覚め、生まれてくるかもしれない世界の

異変"を止める為にもう一度“ラグナレクを

起こして回避しろ”とおっしゃるのですか???」



神皇産霊神カミムスビノカミ

「ん?……嗚呼、ちゃうちゃう。

ラグナレクとはなぁんも関係ないんよ。

それにラグナレクでどうなる訳でもあらへんしなぁ。

これはな………………ただの………退

ただのに過ぎへんのから

語ってやっとるだけ。

仰々しい話ばっかりしとるアンタら宛の

茶飲み話にはうってつけの"オモロい歓談ハナシ"よ」



イズン

「………………え………???」



ロキ

「………………………は???」



フレイヤ

「…………………へ???」



オーディン

「なん………だと………!?!?」



フレイ

「…………ちゃ、茶飲み話…………?!?!」




【第6幕:神々の動揺と怒り】



ナレーション

神々の目が大きく見開かれ、言葉を失い、

その衝撃は静かに広がり、周囲の神々も沈黙に

包まれた。


神皇産霊神カミムスビノカミの軽やかな言葉が

空間を満たす一方で、場の空気は鋭く張り詰めた。

戸惑とまどいと動揺が入り混じる表情の中、

誰もがその真意を探ろうと必死だった。

まるで時間が止まったかのように、

空気は凍りつく。


しかし、そんな張り詰めた空気を破るように

トールが怒気をまとい、低くうなる声を

響かせる。

ゆっくりと重々しく立ち上がり、

拳を強く握り締めた肩からはかすかに

雷の気配が揺らぎ、神槌しんついミョルニルを

握る手には力がみなきっていた。

その姿は大地を震わせる嵐の前触れのようであった。



トール(低く、怒りをじわじわと滲ませ、時に叫ぶように)

「……今、だと……

退って言ったかテメェ!?!?

この神聖なる場をただの

“遊戯”と軽んじやがって!!!

俺はなぁ…………神々の誇りも、民の祈りも

その全てをとふざけて

ほざく奴を絶対に許さねぇタイプなんだよ!!!

テメェの目に映るこの世界はどんだけうつろで、

価値の無いモノなのか言ってみやがれ!!!」



フレイ

「お、落ち着くんだ!!!トール!!!

此処ここで事を起こすつもりかい!?!?

そんな事になればもとの神との争いになってしまう!!!」



イズン

「……貴女は……此処ここまで大袈裟おおけさに語っておいて

神議かむはかりを……この場を……ワタクシ達を……

茶番劇の相手にでもしてるつもりですの!?!?」



神皇産霊神カミムスビノカミ

「茶番やなんて、そんな物騒なもんとちゃうよ。

アタシにとってはどれもこれも、

ただただ愛おしゅうてならへん【娯楽】や 。

アンタらが真剣に悩んで、怒って、まどって……。

それでいて、"選び続ける"……………。

そのさまの、なんとまぁ……

美しゅうて、愚かしゅうて……たまらんのよ」



フレイヤ

「…………“美しい”………???

この愛と美と春を司る女神であるアタシの前で

良くもそんな風に堂々と言い切れるなんて……。

どうかしてわ………

貴女は選び続ける事が尊いと言うけれど………

それがどれほど苦しい“選択”か………

何も知りもしないまま語らないでよ!!!!」



オーディン(低く、押し殺した声で)

「辞めろ!!!!お前達!!!!

…………すまない神皇産霊神カミムスビノカミ殿……。

我が神界しんかいの神々が失礼した……………。

だが……貴女は何処どこまでを“たわむれ”とし、

何処どこからを“真実”としている???」



ナレーション

オーディンの声が響いた瞬間、場の空気は

再び張りつめる。

その声音こわねには怒りと、主神しゅしんとしての責任、

そして抑えきれぬ困惑と悲しみがにじんでいた。


神々は息を呑み、神皇産霊神カミムスビノカミの返答を待つ。

だが当の本人はまるで全てが

【予定調和】であるかのように、一片ひとひらの風のような笑みを浮かべていた。


その微笑みは、温もりをよそおいながら何処どこか冷たい。

火でも氷でもない、“ことわり”の皮を被った不可視ふかしの"毒"。

神皇産霊神カミムスビノカミは、己の言葉が

もたらす波紋すらも楽しむように。

ゆるりと、けれどあらがえぬ重さで

言の葉をつむぎ始めた。



神皇産霊神カミムスビノカミ

「かまへん、かまへん。なぁんも気にもしてへんよ。

意地が悪い事を言うてしもうたなぁ、堪忍やで。

でも………オーディンはん………。

"たわむれ"かて、"真実"やて、よう似たもんや。

神の口から出た言の葉は

世界を"揺らす"モンやろ???

アンタらが真剣に聞くから"重たくなる"。

せやけどな……"重たさ"を決めるんは

何時いつだってやで???」



ロキ(俯きながら、囁くように)

「へぇ……それをボクらに"語る"なんて………

良い根性してるじゃないか。

だけどさ、その遊びの中で"何か"が壊れたら?

ボク達、神々がもう"戻れない所"まで

行ってしまったら…… "誰がその責任を取る"と

おっしゃるのかな……???」



ナレーション

ロキのささやきは、まるで封をほどかれた"問い"のしゅのように、場の空気をかすかに震わせた。

その言葉に込められた危惧きぐ、怒り、そして恐れ。

神々の胸ね奥に潜む、誰もが言葉にしなかった

「もしも」を鮮やかにあらわにする。


だが神皇産霊神カミムスビノカミは何も動じぬ。

むしろその"問い"すら待ちわびていたかのように、

一つ軽く息を吐き、そっと円卓えんたくを見渡す。


目元に浮かぶのは、変わらぬ笑み。

けれど其処そこには、慈悲じひも怒りも宿らない。


それは─────"火をともす者"ではなく、

"まきを置いて去ってゆく者の"、その"モノ"だった。



神皇産霊神カミムスビノカミ

「……アタシは“見てる”だけ……………。

………“火をともす役”言うんは

何処どこかで誰かがになわんと始まらんのや。

そやからそうなったそん時は………

"アンタらが決めればええ"。

"何を守って、何を壊して、何を選ぶ"か。

アタシはただ"火種"を置いただけ………」



ロキ(深く息を吐き、皮肉めいた口調で)

「やれやれ………まったく………。

ハハッ、アンタ、最高最低な性格してるよ……!!

"火種"………ねぇ……。

それってさ、ボク達がどう動くかも……

アンタにとっては最高の見世物みせものって事だろ???」



オーディン(重々しく頷き)

「……ならば我らの責務は見極める事だ。

きょじつ、遊戯と真理、

その狭間はざまをな…………」



神皇産霊神カミムスビノカミ(くすりと微笑み)

「見世物とはちょいちゃうよ、言うたやん???

退って……。

それにしても流石は"ミーミルの泉の難行"を

成し遂げたオーディンと………

"アスガルドの宴を地獄に変えた"ロキはん……。

そのまこと射抜いぬき、

口からつむぐ言の葉で世界を崩す……

粋な話やなぁ……フフフ、オモロいやないけ。

良い土産話になったし、話す事は話したけ、

アタシはお先においとまさせてもらうわ。

ほな……………お疲れさん」



ナレーション

ふわりとおおぎを揺らしながら、

神産巣日神カミムスビノカミは音もなく立ち上がった。

その姿はまるで風のように軽やかで、幻のように

一つも気配を残さぬまま薄闇うすやみとばりへと

溶けていくように、神々の前から姿を消していった。


まるで最初から其処そこには

"存在していなかった"かのように。


彼女の立ち去ったあと、神々の会議場には重たく、

深い沈黙が残された。

けれどそれは恐怖ではなく、言葉にならぬ“問い”の余韻よいんだった。



─────“黒い月”は、本当に“る”のか。

それとも、ただの"幻想"にすぎないのか。



しかし、神々は知っている。

神の言葉とはただのたわむれでは済まされぬ

重みを持つ。



──────“火種”と名づけられたモノは、

何時いつか必ず、何処どこかで火をき、

世界を巻き込んで燃え広がる。



そしてその時、"誰が立ち"、"誰が沈み"、

誰がその"ほむら"の中で笑うのか………???



それはまだ誰にも分からない……………。



───────そして、舞台は静かに転じる。




【第7幕:幕間/高天原の神域・禁宮の回廊】



神皇産霊神カミムスビノカミ(無邪気に笑いながら扇をパタパタと仰ぎながら回廊を歩む)

「ふふっ……あの顔、見たけぇ???

オーディンも、ロキも、フレイヤも、

フレイも、トールも、イズンも……

みぃーんな、一瞬、息するの忘れてたわぁ。


“黒い月”って言葉一つで、あんな顔になるんやから。

神さんも、案外よう"揺れる"……

ほんまたのしかったわぁ……。

あれだけ表情豊かに"揺れる"神さんらの顔……

見飽きへん………フフフ……

あの子ら、知ってもうたらどうなるやろなぁ。

震えながらも、火の粉に向かって飛び込むか……

それとも………

考えたらもっとオモロい事になるなぁ………。

でぇ??? 大兄おおあに様はこん事どう思っとるん???」



高御産日神タカミムスビノカミ(背を向けたまま、淡々と)

「───応答。評価:不適切。判定:否定。

入力:行動動機。構造解析こうぞうかいせき

秩序的整合性ちつじょてきそうごうせい:喪失を検知。


返答:貴殿きでんの演算動機にエラーを確認。

神産巣日神カミムスビノカミ、その行為、"ことわり"の軌道と一致せず。


高位存在の設計目的:遊興因子ゆうきょういんし介入かいにゅう非推奨ひすいしょう

我等は“ことわり代行演算装置だいこうえんざんそうち"。

世界構造安定化因子せかいこうぞう あんていかいんしにして、均衡維持装置きんこういじそうち


再定義:我等は定常基点ていじょうきてん。変動せず、干渉かんしょうせず。

静止をって"ありり続ける"。

それが我等、高位存在の使命であり、

ワタシの“機能”である。」




神皇産霊神カミムスビノカミ(静かに歩み寄り、真横に立ち)

「うーん……そらまぁ“設計”って言われたら、

アタシらはそう“組まれとる”んやろな。

………それにしても大兄おおあに様はいっーつも、"揺らがん"なぁ。

ずっと其処そこにいて誰の声にも、

目線にも"揺れへん"。

せやけどな……それは神様としては美しいけんど、

誰にも触れられん“小石”と変わらしまへん。

ことわり”に従うだけの存在なら

アタシらただの"機械"と変わらんやろ???

アタシらは“神”や……それでも"人間"のように

時に感じる"力"も、時に迷う"心"もある…………。

ほな、何でそれを“持たされて”

生まれて来たんやろなぁ???」



高御産日神タカミムスビノカミ(一切振り向かず、静かに)

「──解釈:誤認。

感受かんじゅ”及び“迷い”は、演算上のノイズ成分。

主要演算しゅようえんざんには使用されない。

付与ふよされた感情因子かんじょういんしは、

想定誤差範囲内そうていごさはんいない補正装置ほせいそうちに過ぎない。

ゆえにそれは“持たされた”のではなく、

“制限された機能"である。」



神皇産霊神カミムスビノカミ(ふっと肩をすくめて笑い)

「はぁん???

ほな、“笑う事”も“怒る事”も、“誰かに手ぇ伸ばす事”も……全部“誤差”かぁ…………

なんや味気のうて、つまらんなぁ。

もしそれがまことなら、この世界で一番美しい瞬間は

全部“ノイズ”って事になる。

それが正しさや言うんやったら、

アタシは間違いでええわ。

退屈やと暇やし、全然"オモロない"からなぁ」



高御産日神タカミムスビノカミ(無感情に)

「──応答不能。構文外入力こうぶんがいにゅうりやょく:価値判断。


ことわり”とは変動環境へんどうかんきょうにおける

安定構造体あんていこうぞうたいであるフレームワーク。


本存在:中枢演算ちゅうすうえんざんノード。

属性:非干渉性ひかんしょうせい恒常性こうじょうせい沈黙保持構造ちんもくほじこうぞう


動因どういん:未設定。

機能:えにしを結び、保持する定常基点ていじょうきてんにして、媒介因子ばいかいいんし

稼働状態:静止中にして観測中。

ゆえに我等に“正しさ”は存在せず。

我等は定義を読み上げるのみ、判断はしない。


命題:秩序か混沌か。

選択は貴殿きでん委任いにんされていない。」



神皇産霊神カミムスビノカミ(くすくすと笑いながら)

「せやなぁ。でも、“ことわり”ってやつは

"揺れへんと伸びん"のや。

固すぎる枝はよう折れる。

せやけど、風に揺れるやなぎは千年残る。

アタシはな、“壊す”んやのうて“揺らす”だけ。

あの子らが見とらん“裏側”を、

ちょいとのぞかせただけや。

それにはなぁんの"保証"なんてあらへん。

だって“保証された未来”なんて、

"オモロない"やろ???」



高御産日神タカミムスビノカミ(静かに、無機質に応答)

「────評価:逸脱いつだつ。保証:初期より除外項目じょがいこうもく

未来変数:不定形。

現在の挙動:"揺らぎ"の濃度数上昇。

規定安全域きていあんぜんいき逸脱いつだつ


再定義:遊興行為ゆうきょうこうい臨界点りんかいてんを超える事で

崩壊因子ほうかいいんし”へ転化。

秩序補正機構ちつじょほせいきこう干渉条件かんしょうじょうけんの再検討を開始。


────その“揺れ”は、枝葉えだはの柔軟にあらず。

幹を裂き、根を腐らせる可能性をはらむ。


警告:臨界接近りんかいせっきん。速やかな退去及び離脱を進言。」



神皇産霊神カミムスビノカミ(溜息をつきながら)

「もぅ、心配性やなぁ~大兄おおあに様は。

…………なぁ、大兄おおあに様。

アタシら、もうずっと昔から“って”んけど、

ことわり”に従うんが"ただしう"て、

ことわり”をいじくるんは"悪"や言うんは、

一体"誰"が決めたんやろな…………???

アタシらはそんなん決めた覚えはあらへんし、

何時いつでも何処どこでも

何でも"って"、何でも無いようにして

来てるんになぁ」



高御産日神タカミムスビノカミ(微動だにせず、背を向けたまま)

「────応答出力。命題構造:評価不能。

倫理的善悪判定機能りんりてきぜんあくはんていきのう未搭載みとうさい


意思決定権限:不保持ふほじ判断因子はんだんいんし:存在せず。

"ことわり"の軌道きどうは選択によらず、

因果いんがによって固定される。


ことわり”をもてあそぶ行為は、

演算上の異常値として記録され、規定閾値きていしきち

超過ちょうかした場合、例外因子れいがい いんしとして、隔離かくり

または排除処理対象とされる。」



神皇産霊神カミムスビノカミ(目を細め、寂しげに笑いながら踵を返す)

「…………そっか。

やっぱり、そう来るんやなぁ……。

ふふ、そんでまた“排除”かいな。

大兄おおあに様ってば相変わらず、真っ直ぐなおヒトやな。

けどな、沈黙の"ことわり”が続き過ぎると神は

"誰にも触れられへんモン"になってまう。

誰にも届かへん、寂しくて

"つまらんモン"になってまう…………。

だから、アタシは"ことわり"に閉ざされた道の隙間から

まだ見ぬ何かをのぞきたくて遊んで"揺らす"んや。

この世がまだ動く余地を残しとるうちに………な……」



高御産日神タカミムスビノカミ(冷静に背を見つめて)

「──────肯定。最終応答。

最終警告:挙動ログ 監視継続中。

行動ログ:収束性なし/乱数特性あり。

揺らぎ:臨界接近。因子転化確率いんしてんかかくりつ:上昇中。


対応指令:討滅演算準備とうめつえんざんじゅんび

影響範囲:不定。保証パラメータ:0.000%

対象ID:神産巣日神カミムスビノカミ

階層優先度:最上位ノードへ設定済。


状態:排除処理、即時 発動可能段階に移行。

────定義は"不変"。“ことわり”は揺るぎはしない。

だから……。

そんな顔をするな、が"遊んでやる"…………」



神皇産霊神カミムスビノカミ

「……………ぷ………アハハハハ!!!!!!

ビ、ビックリしたわぁ!!!!

まさか大兄おおあに様がそないな事を言うなんて!!

アハハハハハハハ!!!!!!

アンタ、そうやってオモロい事を言えるんやなぁ、

あーおっかしい!!!!!」



ナレーション

笑い声が、神座しんざの奥へと木霊こだまし、

長く、長く、何処どこまでも軽やかに響いてゆく。


それはまるで規律という名の氷原ひょうげんに火をともすような、あるいは、"ことわり"の静止世界に一滴ひとしずくの色をらすような、確かな“揺らぎ”の音色だった。


やがてその気配は風も立てずにすっと溶け、

残されたのは、ただ一つの沈黙をもたらす。



神皇産霊神カミムスビノカミ

「………でも………そりゃえぇなぁ………

"オモロい"やん………ええよ、大兄おおあに様。

アンタと遊ぶのもそれもまた、

オモロい"揺らぎ"や………そうやと思わん?

…………なぁ、大父おおとと………???」



ナレーション


神皇産霊神カミムスビノカミは、わらった。


それは風のない湖に、ぽたりと石が落ちるような、

春風のように柔らかく、秋冷しゅうれいの闇をはらんだ

あでやかな音色ねいろのような無垢むくと残酷が手を取り合い、

舞い踊る笑み。


そのひとみに映るのは世界の“裏側”。

光も闇も"ことわり"も届かぬ場所でうごめくモノ。

まだ名を持たぬ"終焉しゅうえん"の輪郭りんかく

それら全てをまるで玩具オモチャのようにいつくしむ静かな視線。


わらいかられる吐息といきは神と神の間に漂う、

冷たく甘い、"劇薬"のような香り。


────だが確かに、そこには“動き”があった。


絶対静止の只中ただなかで、誰にも触れられぬはずの“ことわり”が、

ほんのわずかに、"揺れた"のだ。


その不可逆ふかぎゃくの“揺らぎ”は"ことわり"の裏側に芽吹めぶいた、

一つの小さな"種"。

まだかすかに脈打つばかりの、名も無き

"鼓動"が“ことわり”の結び目に爪をかけ、

そっと“ほころび”をほどこうとしている。



光と闇の狭間はざまで、音もなく舞台の幕が静かに開く。



────────さあ、次に"揺らぐ"のは、

果たして“誰”だろうか???



その"揺らぎ"が響き渡る時、"ことわり"は深く試練に

さらされる。


それは【破滅】の"前触れ"か。

あるいは、世界が【呼吸】を取り戻す"きざし"か。

それとも、全ての【始まり】の"口づけ"か。



─────世界はまだ、その"意味"を知らない。




欺神ボクの最低最高のこい

―境界ノ座に咲ク祈リと嘘― 】



第1話 【混沌カオスと秩序の境界線ボーダーライン】 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る