23曲目 卓球したい

タイトル:⑨

歌:鏡音リン

作詞・作曲:てにをは・emon

URL:https://www.youtube.com/watch?v=SgfSHf3FNQU&t=1s

初聴:大学1年(2018)

蓬葉No:980

蓬葉階級:4つ星/6つ星 


 ※今回はすこし解釈が入るので長くなります。途中で休憩ポイントを用意していますので、一度そこで立ち止まっていただいても構いません。

 解釈が含まれるので、一度曲を聴いてから戻ってくることをおすすめます。もしお付き合いいただける場合、次の観点で聴いてみてください。


・二人の関係性は何か。

・二人が大切にしているものは何か。




 卓球部の曲です。



 

 ある一つの部活をメインにした曲は、あまり多くはない気がします。

 40㍍P「クラウチングスタート」は、陸上部の曲ですが、それくらいしか思いつきません。Orangestar「Surges」では多くの部活が登場しますが、コロナ禍の中の部活という要素が強い。


 MVは、卓球台のような仕切りの中、踏切や学校、空と海。そして最前面に二人の少女がいます。この少女は、別人と考えていいでしょう。面白いのは、背景が四面に切り取られていること。これは、卓球台を表していると言っていいでしょう。

 私見では、左側のおかっぱの少女=1番の歌詞における「私」=2番における「あいつ」。右側のポニーテールの少女=1番の歌詞における「君」=2番における「あたし」でしょう。

 一人称と二人称は、けっこう重要です。あえて使い分けているところから、ここでは別人ととった方がいいんだろうと思います。





 さて、この曲は爽やかなギターの音色に、卓球のボールがカコッ、カツッという弾む音が響く始まり方をします。

 そんな中、やわらかい鏡音リンの声が歌詞を奏でます。


【 宇宙で一番小さな流れ星 追いかけて 】


「卓球」 という競技の比喩として、こんなに巧みな言葉があるでしょうか。



 Aメロが終わるとBメロに入ります。

 ここの歌詞は一見不思議です。Aメロと矛盾するような歌詞が登場するのです。

 

 まずは冒頭で【夏が来る】と言っていたのに、【霜柱】という冬を表す言葉が入ることが挙げられます。

 続いて、【歯の矯正器具】という歌詞がありますが、冒頭では【ガムの味が消える】とあります。調べたところ、矯正の最中は、ガムを食べられないわけではないようですが、おすすめはしないとのこと。そりゃそうですよね。

 そしてそのあとに数年前を振り返る歌詞が登場します

 このことから、AメロとBメロとでは時間軸が違うと想定できます。

 つまり、Bメロは回想シーンということです。

 

 二人の関係性はおそらく「ライバル」でしょう。

 左側の少女(今後Lと呼びます)は右側の少女(今後Rと呼びます)に【泣かされた】とあります。


 なぜLは泣いたのか。

 私が一番腑に落ちる考え方は、「試合に負けたから」という至極シンプルなものです。【泣かされた事】は【ボールに書いてある】と歌詞にあります。つまり、泣いた理由は卓球に関係があることだととらえられるからです。

 ただ、このBメロ全体を見ると違う解釈もできます。


【(前略)…歯の矯正器具だって 「笑うと可愛いよ」って 

 そんな事何年も 覚えてる私 だってあの日泣かされた事 ボールに書いてある】


「笑うと可愛いよ」という言葉は、Lが言った言葉なのか、Lが言われた言葉なのか。もしも、この言葉が泣いた理由になっているのなら、これは後者ととるほうが自然ではないでしょうか。

 つまり、「矯正をつけてても笑うと可愛い」と言われた事を何年も覚えているのは、その言葉で泣かされたから、という解釈です。


 これは今回改めて歌詞を眺めたときに思いついた解釈です。


 私としては、こちらよりもやはり試合で負けたという解釈の方が【ボールに書いてある】という歌詞を踏まえても、いいのではないかと思いますが、どうでしょうか。



 そして歌詞はサビに行きます。

 ここの歌詞は解釈不要でしょう。

 前を向いて、真剣に競技に打ち込む、けれど楽しんでもいるのだろう2人が描かれています。主旋律をLが歌い、Rがハモリとして入っています。

 

【 息切らす 春夏秋冬ひととせで 誰より強くなれ 】


 部活に打ち込んできた人間なら刺さる歌詞でしょう。





 さて、サーブ権が交替するように、2番からはR(=あたし)が主人公になります。1番で【宇宙で一番小さな流れ星】と表現されていた卓球ボールは、2番では【直径4㎝ばかりのタマシイ】と表現されています。

 Rは、かなり気の強い女の子といえそうです。Lのことを「あいつ」と呼びます。「強くなりたい」という心情は、最後のサビを聴けば明らかです。

 そんなRには忘れられない記憶があります。


 2番Bメロは、1番で見たLの別の一面を垣間見させてくれます。

【 潰されて へこんじゃって 転がらないボールだって また温めればいい あいつ叫んでた 】

 この言葉を、Lはいつ言ったのでしょう。もし、チームが負けた後のミーティングの場などでこれを言ったとしたら、彼女はとても強い人間だと思います。

 

 Rが覚えているのはこれだけではありません。

【 あの日負かされた事 瞼に刻んでる 】 

 

 そしてせかすようにサビに入ります。

 1番では、Bメロとサビの間にわずかに間がありましたが、こちらではそれは消え、すぐにサビへ入ります。Rの性格を表しているようです。



【 一番でいるために嫌われる覚悟で 】

【 もう一歩踏み出して 太陽飛び越える 】 


 とかく、努力する人をあざける風潮があります。そんなものに屈するRではありません。そのRを築き上げたのが、Lの存在です。

 本気で部活に取り組むR。



 二人はどんな関係なのでしょう。

 いろいろ考えられます。

 たとえば、二人は親友かもしれない。

 たとえば、二人は卓球の時だけ心が通う関係かもしれない。

 たとえば、Lはもう既に卓球をやめているかもしれない。 


 

 しかし、2番のサビではハモリにLがきちんと入っています。だから私は、どちらも現在に卓球に向き合っていて、普段会話するかしないかは別として、互いを卓球を通して尊敬している、そんな間柄を想定したいです。これは解釈ではなく、願望です。


 二人はどんな関係でしょう。

 たぶん、二人は「友だちではない」と答えるんじゃないかと思います。

 じゃあ、どんな関係?

 きっとこの二人なら、声を揃えて「好敵手」と答えるでしょう。


 友情には終わりが来ます。 

 愛情は堕落します。

 そして憎しみは何も生まない。


 尊敬する心は、それ自体が尊さを持っています。

 相手を正しく認識しようとし、自分を甘えなく見つめなおす。

 好敵手に対抗するためにはそれが絶対に必要です。

 


 その意味でこの曲は、部活ものではありますが、人と人との交わりを歌ったものなのかもしれません。






 さて、今回はとても長くなりました。

 しかし、これでもまだ語り足りないことがあります。それはまたいつか別の場所で。

 なお、学校時代を思わせる曲を、今回の「⑨」に比較的近い時期に聴いています。一つはみきとP「少女レイ」です。そしてもう一つは、次回紹介することとします。お楽しみに……。

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