20曲目 あなたも共犯者だ

タイトル:レイトショーを観に行きませんか

歌:涼花

作詞・作曲:Sori Sawada

URL:https://www.youtube.com/watch?v=fWolGqE8fwc

初聴:大学1年(2018)

蓬葉No:1037

蓬葉階級:4つ星/6つ星 

作者様が言及されているページ

https://peo2hifp.fanbox.cc/posts/141849




 この曲は、大切なものを呼び起こすような曲です。

 思い出すだけで楽しい、でも、思い出すだけで悲しい。けれど、思い出さずにはいられない、でも思い出すたびにいやになる記憶。一つや二つあるはずです。


 この曲を聴いた当時の私は大学1年。当時住んでいていた家から大学までは片道2時間半ほど。一限から講義があるときは、朝5時起きでした。今になって思えば、大学時代が、小学校から続く就学期間の中でもっとも充実していたかもしれません。すべてが自分の意志による感覚。学ぶものも学ばないものも、人づきあいをするのもしないのも。私は限りなく人づきあいが少ない人間でしたが、電車の時間にたくさんの本たちと会話ができました。それが幸せな時間でした。しかし、それは間もなくコロナによって断ち切られることとなります。



 

 

 レイトショーは、夜の映画。夜の映画に誘う。「私」かあなたか、どちらが誘っているかはわかりませんが、二人はその映画を観に行きます。


 この曲自体がとても映画的で、同時に日常的です。幸せな思い出を、夢のように思い出すなら、このような物語になるのだろうと、私は思います。




 当時、この曲に惹かれた理由はもはやわかりません。私自身、いつ何を聴いたかはとある方法でわかるのですが、そのときどんな心情だったかはもはや記憶のかなたです。

 しかし、この曲についてははじまりに特に惹かれたのだと思います。


 この曲は、優しいギターの旋律と、電話のダイヤル音のような音のあと、涼花さんの歌声がはじまります。


「そういえばあなたと在来線に乗って 知らない町の 知らない海にいる夢だった」


 このわずかな歌詞に、私は今でもどうしようもなく惹かれます。

 もっというと、この「そういえば」という、ふと思い出したという印象を持たせるこの言葉から、私はたくさんのことを想像します。


 たとえば、まるで今何気なく、というように見えるけれど、それは本当なのだろうかという疑問。

 たとえば、「そういえば」思い出が、一つ二つと想起されていくことから感じる、その思い出への「私」の愛着。


 そして、叶わなかった「あなた」との日々。 

「私」の哲学は興味深いです。


 可変性の関係を望まない(2番Aメロ)一方で、「私のことを考えてしまえ」(2番サビ)という。

 この二人の関係は、あってはならないものなのでしょうか。

 

 友だちだったし、愛してもいたし、かなうのなら恋人にも、そして人生のパートナーになりたかった。けれど叶わない。

 (なぜか)一緒にいてはいけない。そんなことになるくらいなら「友だちのままがよかった」(2番サビ)。けれど、引き返せないところまで来てしまっていて、ついに最後のサビで、物語が終わる。



 

「共犯者」というフレーズが何度か登場します。

 実は、後で気づいたのですが、この部分私がかつて書いた小説で引用していました。自分の物語をここで出すのは気が引けますが、あえて以下に載せます。



「絵も小説も一人でできるし、自分のために作れるけど、恋は違うでしょ。柚麻ちゃんだけのものじゃない。もし、誰かが悪いんだったら、恋は共犯でしかありえないのかもね」



 拙作「さよならから始まる」(万有引力 (上))において、語り手柚花が双子の姉柚麻に語ったセリフです。参考までに、このとき柚麻は二人の男の子から好意を向けられていて悩んでいるという設定です。


 恋は共犯でしかありえない。

 

 それが間違いだったとしても、一人だけで背負うものではない。

 柚麻はそんな恋による痛みを一人で背負うことを「傲慢」とすら語っています。


 そこまで言うべきかはともかく、やはり恋は一人でできるものではありません。必ず相手がいて成り立つものです。

 だからこそ、その物語が成就したときには二人は添い遂げるという義務を負うのです。

 一方、成就しなかったなら。


 この曲にはそのとき、どうしようか、ということもきちんと描かれています。



 作者のSoriさん(澤田空海理)さんは、恋愛曲の名手です。ただし、その歌詞は文学的で、一筋縄にはいきません。それゆえに奥深く興味をひかれます。

 もともとは高校3年のときに「またねがあれば」でであり、大学に入って間もなくのときに「カランコエの話」が私の中で大きな影響を及ぼしました。ほかにも「街路灯を横切って」や「Rue」や「フォーマルハウト」など、素敵な曲がたくさんあります。

 「レイトショーを観に行きませんか」を聴いた頃はヨルシカ全盛期で、アルバム「負け犬にアンコールはいらない」に収録されていた曲をよく聴いていました。それがすぎると、はるまきごはん(2曲目で紹介)が「セブンティーナ」や「アスター」で登場します。なお、みきとP(3曲目、4曲目で紹介)が「ロキ」で再登場したのもこのころです。「レイトショーを観に行きませんか」はそんな文学寄りのヨルシカと、ファンタジー寄りのはるまきごはんのちょうど間の時期に聴いていた曲です。


 聴いた後に、喪失感と同時にあたたかさを感じる、不思議な曲です。

 なお、この曲については作者様が語ったページがあります。そちらのURLははじめにも載せたのですが、改めてこちらにも載せさせていただきます。生の声をぜひ感じ取っていただければと思います。


 https://peo2hifp.fanbox.cc/posts/141849 

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