2曲目 少女を描く

タイトル:蛍はいなかった

歌:初音ミク

作詞・作曲:はるまきごはん

URL: https://www.youtube.com/watch?v=gUGmed-NOow&t=1s

季節:夏

初聴:社会人1年目(2022)

蓬葉No:1574

蓬葉評価:3つ星/6つ星


 蛍。

 実物を見たことがない。

 昔、蛍の絵本があった記憶はあるものの、それのみです。

 もしくは「火垂るの墓」でしょうか。

 私が子どものころはまだ夏に放送していましたので。




 はるまきごはんさんは、独特の世界観を持っている方。初めて聴いたのは「銀河録」。そこからしばらくは星の歌を多く作っていました。「アトモスフィア」「ラストライト」「フォトンブルー」など。

 それが、私見では、「ドリームレス・ドリームス」あたりで転換し、以降はでシリーズを構成する曲が多くなりました。MVもご自身で作成されています。驚かされるばかりです。



 「蛍はいなかった」は「幻影シリーズ」の曲の一つ。

 MVでは四人の少女たちがなにか課外学習をしている様子です。しかし、主人公(みかげ)はどこか距離をとっているよう。周りは慣れているのか、あまり気にしていません。その中で緑色の髪をした少女(スピカ)のみが積極的に彼女に話をかけます。

 どんな会話をしたのか、蛍とはなんなのか、二人はどういった関係になったのか。そこから先は解釈の範疇ですので、この枠では割愛します。



 ただ、MVの最後には触れないわけにはいかないでしょう。

 なぜなら、私がもっとも好きな場面ですので。


 

 この曲はAメロではじまり、Aメロで終わります。

 そしてMVもはじまりと同じ終わり方をします。

 入り口と出口がつながる感覚。素敵です。

 曲冒頭は、横目でみんなの方を見ている主人公が、車窓へ目をやる。画面が引いて、ほかの三人がババ抜きに興じる中、主人公だけは参加していない様子。


 一方曲の最後は、逆です。まずは全員が映る画面。そこから黄色い髪の毛の子(ゆうひ)が主人公に話しかけ、主人公は何か小さく返します。そして、再び車窓へ戻る。そこだけ切り取れば、きっと何の変哲もない出来事だったのでしょう。しかし、

歌詞は次のように言います。


  「昨日の夜を 大人になるまで 心に仕舞っておくよ」

  

 大切な出来事だったのでしょう。


 さらに、ゆうひの質問に対するみかげの解答は明白です。


  「蛍はいなかった」


 いろいろなことを考えさせられる歌詞です。

 たしかに見たはずなのに、「蛍はいなかった」のです。

 それは、私だけの大切な記憶ということなのか。

 あるいは、一面の事実なのかもしれません。

  「蛍いなかった」

 

 そして、その言葉を返すときの主人公の表情。

 一つの映画を見たかのような、あたたかな感情に包まれます。



 ちなみに、ずっと寝ている大きめの女の子は「うらら」というそうです。基本的には表情の変わらない主人公をドン引きさせる(1:26)ほどの能力を持っています。

 


 

 重松清さんという小説家がいます。重松さんは、子どもの心情を巧みに描く小説化と記憶しています。

 はるまきごはんさんの場合は、とにかく「少女」の心情を描くのが巧みです。

 ただし、それは矛盾するようですが、現実の少女の心情というのではなく、あくまで、「はるまきごはん世界における少女」という印象を受けます。

 おそらく、こんなに「少女」の心を、独自にかつ普遍性をもって表現しているのは彼しかいないのでは……とすら思ってしまいます。


 



 この曲を聴いたのは社会人1年目(現在4年目です)。

 とっくにボカロ全盛期は過ぎたあとのことで、私の音楽史の中ではこの時期、「羊文学」が「光るとき」で黎明期を迎えていました。また、Saucy Dog「シンデレラボーイ」やTani Yuuki「W/X/Y」などが同時期に流行っていました。「リコリス・リコイル」や「ぼっち・ざ・ろっく」の曲が隆盛を極めるのはもう少し後の事です。

 「はるまきごはん」は高校のころに登場し、n-buna、Orangestar、みきとPに並ぶ存在となり、現在に至ります。 

 新曲ができたそうです。楽しみです。(20250810)

  

 

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