第六話:勝利の代償と新たな兆し
# 第六話:勝利の代償と新たな兆し
「グ……ギャアアアアアッ!」
渾身の一撃を叩き込まれたゴブリンキングが、耳を찢くような断末魔を上げた。その巨体が、まるでテレビの砂嵐のように激しく揺らぎ、次の瞬間には無数の黒い粒子となって霧散していく。
俺、
『
静寂が戻った広間には、禍々しい光を放つ大きな魔石と、数枚のドロップカードだけが残されていた。
「……やった、のか?」
「うん……やったんだ、私たちが……」
そんな中、
彼は黙ってドロップアイテムを拾い上げると、俺の前に差し出す。その手は、わずかに震えていた。
「……お前が、リーダーだ。分配を、決めろ」
絞り出すような声。それは、名門としてのプライドをかなぐり捨て、紛れもない事実を認めた、彼の敗北宣言だった。
俺は彼の目を見つめ返し、静かに頷いた。
***
ダンジョンから帰還後、俺たちは
「――まず、神宮寺。お前の単独行動は評価できん。一歩間違えれば、班を全滅させていたところだ」
厳しい言葉に、神宮寺は唇を噛み締め、深く頭を下げた。
「ですが、先生。俺を救ったのは相模です。あいつの指示がなければ、俺たちは……」
「分かっている」
佐藤先生は、神宮寺の言葉を遮ると、今度は俺に視線を向けた。その瞳は、全てを見透かすように鋭い。
「相模。お前の状況判断、指揮能力は見事だった。それはお前の特殊スキル『真理の瞳』によるものだろう」
俺は息を呑んだ。彼女は、俺のスキルの本質を、ある程度見抜いている。
「だが、覚えておけ。スキルだけでは人は動かせん。お前の言葉を信じ、咄嗟に動いた仲間がいたからこその勝利だ。そのことを、決して忘れるな」
その言葉は、俺の心の慢心を、鋭く打ち砕いた。そうだ。俺一人では、何もできなかった。
「白石の的確な魔法支援、田中の粘り強い護衛も、勝利に不可欠だった。だが、何より評価すべきは、お前たちが土壇場で『仲間』になれたことだ。今回の実習で得た経験を、決して忘れるな。以上だ。解散」
佐藤先生の言葉に、俺たちは顔を見合わせた。神宮寺の顔から、敵意は消えている。遥と健太は、誇らしげに微笑んでいた。
***
夕暮れの帰り道。四人で並んで歩く。
他の生徒たちが、俺たち――特に、俺と神宮寺を遠巻きに見ているのが分かった。
気まずい沈黙が流れるかと思ったが、それを破ったのは神宮寺だった。彼は、俺たちの前で立ち止まり、深く、深く頭を下げた。
「……悪かった」
その一言に、周囲の生徒たちが息を呑むのが分かった。あの神宮寺が、頭を下げている。
「俺のせいで、お前たちを危険な目に遭わせた。……そして、相模。お前がいなければ、俺は死んでいた。礼を言う」
それは、心からの謝罪と感謝だった。
「気にすんなって! 結果的に、俺たち勝ったんだからさ!」
健太が、神宮寺の肩をバンと叩く。
「そうだよ、神宮寺くん。それに、最後の神宮寺くん、すっごくかっこよかった!」
遥も、笑顔でフォローする。
「お前たち……」
神宮寺が、戸惑ったように俺たちを見る。
「仲間だろ」
俺が短く告げると、彼は一瞬目を見開いた後、ふっと表情を緩ませた。その顔は、今まで見た中で一番、年相応の少年らしい顔をしていた。
この日、俺たちの間には、確かな絆が生まれた。
それは、ただのクラスメイトという関係を超えた、『仲間』としての絆だった。
寮に戻る途中、俺は一人、自分の手のひらを見つめていた。
『事象解体』は、世界の理を『破壊』する力。
『真理の瞳』は、世界の理を『解読』する力。
(まるで正反対の力が、なぜ俺の中に同居しているんだ……?)
この力は、強大で、そして危険だ。
だが、今の俺には、この力で守りたいものができた。
仲間の笑顔を、この温かい居場所を、守るために。
俺は、静かに、そして強く、心に誓った。
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