第二部 国境なき正義 第八話
(ちょっと短めです)
ヴィクトルの移植手術は無事終わった。もちろん術後観察は必要だが、執刀医によるとかなり上手くいったらしい。将軍には前もって話しておいたので、彼が手配してくれた護衛官と交代して俺は病院を出た。
しばらくして、アメリア上院議員のジュディス・フォードが行方不明になったとのニュースがアメリア全土のニュースに流れた。世界一の大国、アメリアの上院議員が突然、なんの痕跡も残さずいなくなったのだ。テレビも新聞もこのニュースで大きく騒ぎ立てていた。
そして、それからしばらくした日の、ある証券会社のワシントン本社に小包が届いた。
所員が保安員とともに小包を開けると、そこには誰かの切り取られた首が入っていた。よく見ると、その首の持ち主は金髪の女性で両目をくり抜かれていた。
更にその数日後、将軍から連絡があった。
「ジェイカルだ。孫の手術の件、ありがとう。なんと礼を言っていいか分からないくらいだ。本当に感謝している。」
「良かったね。ヴィクトル君、可愛いもの。あのまま元気になってくれたら俺としても嬉しいよ。それに予算も取れそうなんだって?」
「ああ・・・それも君のおかげ・・・なのかな・・」
「うん?なんのこと?それは知らないな。俺はヴィクトル君のことで動いただけだからね。」
「・・・そ、そうか・・。」
電話の向こうで将軍がしばし沈黙したが、俺は構わず、
「取りあえず、問題は片付いた。将軍は自分の職務をしっかりと全うしてくれ。それでは。」
と言って電話を切った。
さて、レディは動くかな?それとも組織の他の誰かが動くかな?
取りあえず、今のところは向こうの出方を待とうか。うん、そうしよう。
そろそろ本腰を入れて華国に取りかからないとね。
だが、結果から言うと、華国に入るのはそれから随分経ってからだった。
「町田君、SBからの連絡あった?」
「いいえ・・・あれからさっぱりです。」
江橋総理のところにアメリアのジェイカル将軍から連絡があったきりSBとの連絡が途絶えた。
もちろん、こちらからの連絡にも応答がない。また意識が喪失して、しばらく眠りに入るのだろうか、とも思ったが、いつものSBらしくない。眠りにつくときは、これまでなら必ず事前に私に連絡があったからだ。それにもう一つ、気になることがある。
今回のメインの宿主である小林君も、自宅や学校にも姿を見せていないのだ。もし彼が眠ったのだとしたら、宿主に対しては最大の敬意を払い必ず元の状態に戻すはずなのだ。
SBが日本以外に出向くときは必ず私に一報が入る約束になっているし、SB自ら約束を破ることなんてあり得ない。なんせ彼ほど約束にこだわりを持っている人もなかなかいない。
江橋総理の心配もわかるし、この私だって、なんだかんだ言いながらSBがいなくなると心配になってくる。きっとSBが知ったら、俺は世界の誰よりも強いんだからそんな心配なんかするな、と一笑に付されるだろうけど、心配なものは心配なのだ。
何かSBの身に予期せぬ出来事があったのかもしれない。
消息が途絶える前に彼がアメリアで行ったこと、もの凄くエグいことなので口に出しては言えないが、それが関係しているのだろうか。私が総理にその点を聞いてみると
「町田君がどこまで知っているのかは分からんが、今回、彼が対峙している相手はかなり手強い、というのは確かだ。だが、SBがそう簡単にやられるとは考え難い。ただ・・」
ただ?ただ、なんだ?やめてよね・・
「彼自身は精神生命体なので物理的に傷つけることはできない。だが、彼の宿主はそういうわけにはいかない。これは以前、彼が言っていたことだが、宿主を守るために、彼は殆どの場合、濃い空気層で宿主を保護しているらしい。この層は危険を察知すると光に近い速度で更に分厚くなって銃弾でさえ無効化することが出来るそうだ。それに水中や宇宙空間など、通常の呼吸に支障がある場所でも普通に活動することが出来るそうだ。」
「え?じゃ、じゃあ、それなら彼は、SB様も宿主も大丈夫なんですよね?」
「そう願いたいが・・奴等もこの10年、何もせずにいた訳じゃない。何等かのSB対策を講じているはずだ。それがどんな手段によるものかは分からないが・・。」
「今、彼が突然いなくなると困ります。総理、何とかなりませんか?」
「・・・取りあえず、武島君に言ってセンサー感度をMAXにしておいてくれ。衛星も使え、俺が許可する。何かで引っかかるかもしれない。」
「わかりました。それと、そのあとは・・・?」
「それはこれから考えよう。とにかく、SBが身動きできない状態にあることは間違いなさそうだしね。」
SBが動けない。おそらくそれは彼と敵対している連中の仕業なんだろうけど・・。もしこのままSBが二度とこの世界に出てこないとなると・・なんか大変なことになりそうだ。
彼の本当の姿は知らないし、知るよしもない。今は、あの少し気が弱そうな普通の高校生の姿しか知らない。だが、しばらく前から彼の、その高校生の顔が頭から消えてくれない。
・・・なんだ、私ってば、なんだかんだ言いながらSBのことが気になってしょうがないんだ。もし総理が言うように、SBが捕らえられ苦しんでいるのなら、絶対に助けてあげたい。何があっても。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます