第一部 目覚めと制裁 第八話
「こいつはあんたの息子だよな」
俺が尋ねると、目の前の太った男が不審そうにこちらを見た。
「誰だ、お前は?」
ここは地元で最大の会社、とある建設会社の社長室である。
「SBだよ」
「・・え、えすびー・・?えっ、あのえす、びーなのか?・・え、いや、なんでここに」
「この馬鹿、交通事故が2件、レイプが2件、暴行傷害が3件。全部揉み消したんだって?」
「え、い、いや、それは・・」
「それはなに?バレないとでも思ってた?」
「・・・」
「なんなんだよ、オヤジ、こいつ、何とかしてくれよ!」
楠木がバタバタ暴れながら泣きそうな声で叫んでいる。
ちょっと可哀想になったので、ペンチを外してやったらこれだ。
少しうるさかったので、左腕の肘を逆方向に曲げて折った。
バカ息子の叫び声を聞いて、社内の他の連中がわらわらと集まってくる。
「あんたさ、この町の有力者なんだってね。それにこの会社の社長。そうだな、今すぐこの会社全ての譲渡契約書にサインしたら許さないでもないけど、どうする?」
「はあ!?ふざけるな、誰がそんなこと。おい、何をしてるんだ?!警察を呼べ!こ、こいつをここから追い出せ!」
楠木父が部屋のドアのところで固まっている社員達に叫ぶ。
「ちょうどいいや。ついでにさ、ここの警察署長も呼んでね、あ、逃げたら痛い目に遭うよって言っといて」
俺の言葉を聞いて、徐々に目の前の太った男が震え出す。息子の方はただ泣いてるだけだが。
「地元の大企業の社長、それに警察署長かあ・・間を取り持った奴がいるな、普通。あ、あんたとさ、警察署長って幼馴染みだったりする?」
「・・な、なにを言ってるんだ、かんけ」
「どっち?それか同級生とかさ・・聞いてるんだけど」
「な、なんでそんな事をお前なんかに話さなきゃいけないんだ!ふざけるな!」
埒があかないので、ドアの向こうで恐る恐るこちらを見ている気の弱そうな男に伝える。
「おーい、そこのあんた。とりあえず市長呼んで。SBが呼んでるって。今すぐね!」
男は、最初は辺りをきょろきょろしていたが、俺ともう一度目が合うと、飛び上がるようにしてデスクに行って電話をし始めた。
「な、なんなんだ、あんたは・・」
太った男、楠木君のお父さんがぶるぶる震えながら言う。
「ほら、よく小説とか映画とかさ、あるじゃん。田舎でさ、閉ざされた社会で力があるからって、好き放題してる奴等がさ。俺、ああいうの、嫌いなんだよね。だからそれを確認したいだけだからさ。」
俺が男をじっと見ていると、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
署長、ちゃんと来たのかね。まさか、ねぇ・・。
そのうち、何人かのドタドタという靴音が聞こえ、ドアの手前で止まった。
「お、おい!あんた!何をしている⁈」
「署長は?」
「は?そんな事どうでもいいだろう!とにかく、ここから出ていけ!」
「俺は署長に、ここに来るように言ったはずだ。来るつもりがないのなら・・・」
部屋全体が、一気に冷えてくる。
「あんた、俺のことを知っているのか?俺はSBだ。知らないんだったら、警察庁でもなんでも聞いてみろ。」
俺がその警察官を睨むと、そいつの顔が恐怖で歪んできた。
お、それだけ怖がるってことは、一応知ってはいるのか。
「そうだな、今から30分以内に署長が来なかったら、ここにいる全員を殺して、それから署長も殺す。いいな。何処に逃げても俺は必ず見つけ出す。まあ、そのくらいは分かってると思うけどね。」
そう俺が言うと、そいつの横にいた若い警察官が
「主任!なにやってるんですか!?こいつ、武器持ってませんよ。さっさと拘束しましょう。」
と言って、ホルスターから銃を引き抜いて俺に向けてきた。
「なに、やってるんだ!?やめろ!・・」
主任と呼ばれた男が必死で止めようとするが、うーん、ちょっと遅かったかな。俺はその銃を奪って、そいつの目の前で二つに折ってみせた。銃と俺を交互に何度も見ながらそいつは絶句したが、続けてマガジンを片手で握りつぶすと、面白いくらいに目を見開いて固まってしまった。俺はそいつの首を掴んで持ち上げて言った。
「おまえは俺に銃口を向けた。それは俺に対して殺意を向けたということだ。普通なら今ここでお前の首を切り落としているところだが、俺は警察官に対しては一定の敬意を持っている。命をかけて悪と対峙しているからな。だから命は奪わない。その代わりおまえが責任を持って署長を呼んで来い。いいな。」
そいつは人形みたいに首をガクガク振った。
これで大丈夫かな。あ、そう言えば市長の方はどうなった?
「おーい、誰でもいいけど、市長はどうなってるんだ?」
すると慌てたように、若い男の職員が答える。
「あ、はいっ!忙しくて行けない、と、たった今連絡がありました。」
ったく、どいつもこいつも・・・。あー、頭きた。
けど、楠木親子をこのままにしておく訳にはいかないし、署長と市長を何とかしないといけない・・困った。
俺は思いついて、SNSに市長が責任放棄して逃げた。そのせいで人が死ぬかもしれないのに逃げた、と俺と、あと色んなインフルエンサーの名前を借りて投稿した。これでもう、さすがに逃げおおせることは出来ないだろう。
「おい、おまえ、おまえだよ、主任。市長を今すぐ拘束しろ。でないと、俺が先に見つけてズタズタにするぞ。」
「あ、え?市長を・・拘束・・ですか?」
「そうだ。今すぐ、だ。警察の機動力を少しは発揮してみせろ。それにな、これは人助けだ。これ以上グダグダするなら、俺はここにいる連中全員と、この市の職員も含めて多くを殺すぞ。」
主任と呼ばれた男は、それでも訳が分からないといったふうにおろおろしていたが、俺と目が合うとすぐに動き出した。
全部、楠木君のせいなんだけどね、ここまで大事になったのは。
でも、これって結果的には良かったのかも。
楠木君が連絡をくれる前に、既に暴力を受けた奴とレイプされて殺されそうになった女性から連絡があったんだよ。まあ、それにこいつ、中高時代にも多くのイジメに関わったみたいだしね。
さあ、動こうと思った矢先に、あろうことかその本人から会社でイジメられているとの告発があったんだ。もうね、話を聞くまでもなかったんだけどね。会社に行ってこいつの会話を聞いていた時点でムカムカしてたし。
楠木君が落ち着いたみたいで、また俺を睨んできたので、もう片腕も折ってあげた。
そうこうしているうちに、ようやくお待ちかねの署長が来た。
恐怖と、そもそもの性格だろう傲慢さとで板挟みになりながら、俺の前に出てきて、震えながら話しだした。
「な、なにか誤解があったようだが、私はその人達とは関係ない。・・。」
「あのさ、署長さん、俺のこと知ってるんだよね。だったらさ、俺に嘘吐いて、それがばれたらどうなるかも知っているんだよね?それでもその言葉、変わらない?」
「・・・・」
「ほらあ、あんた警察署長だよね。駄目だよ、嘘吐いちゃ。それでね、署長。」
と俺が優しく言うと、ようやく署長は少しだけ緊張が解けたような表情で
「は、はい。なんでしょう?」
「このクズ男、楠木って奴だけど、あんた、こいつの罪をなかったことにしたよね。もう嘘吐いちゃ駄目だよ、いいね。」
署長は必死で何かを考えるようにしていたが、しばらくすると
「本庁の刑事本部長から言われまして・・・。」
「そう。誰?」
「本川刑事本部長・・です・・。」
「そうか。そうすると、その本川さんのところに、こいつの親が直接か、もしくはこの市の市長が頼んで、それがあんたに降りてきたと。そういうことね?」
「は、はい、おそらく・・」
「断ることは・・・難しいかあ・・あんたキャリアじゃないよね?叩き上げで署長だもんね、そりゃ本庁の意向には逆らえるはずがないわ。」
図星だったのだろう、ついに署長は下を向いてしまった。
「じゃあさ、あんたにチャンスを上げるよ。まず、この馬鹿息子をさっさと逮捕して、2件の交通事故、同じく2件のレイプ事件及び殺人未遂、それと何件か分からないけど、暴行事件で逮捕して。どんな事をしてでも立憲して起訴しろ。検事にもそう言っておけ。」
署長はしばらく考えるようにしていたが、その後なにかを決心したように力強く頷いた。
「あと、こいつと市長か・・。ここの地方裁判所の所長は誰だっけ?まあいいや。裁判長には俺の方から言って至急、令状を出すように言っておくから、すぐに父親の方と市長の役場での部屋と自宅の家宅捜索をしろ。絶対に癒着の証拠があるはずだ。なんとしてでも訴追しろ。いいな!」
もしかすると、この署長も被害者だったのかもしれない。俺が言うと、嬉々として動き出そうとしたので、もう一つだけ言い足した。
「本庁の方は俺が何とかする。あんたには影響が出ないようにしておくから心配するな。俺の期待を裏切るなよ。」
署長は、なんと、俺に敬礼をして、その場を去って行った。
警察の組織もなあ・・・死ぬ思いで真剣に頑張っている人達が殆どなんだろうけどなあ・・。どうも上の方がなあ・・。何とかしないとまずいかもなあ。
署長が出て行ってから、間もなく、ついに市長が姿を現した。
「お、おい!きさま!な・・」
俺は市長が喚くのを止めて、
「いいか、よく聞け。俺は今、散々待たされて怒りが頂点近くまで来ている。下手なことを口走ると、本当におまえの手足がバラバラになるぞ。」
俺が十分過ぎる殺気を解放すると、怒りで真っ赤だった市長の顔がみるみる青くなってくる。
「おまえ、察庁の刑事本部長と昵懇だってな。金でも渡しているのか?いいか、ウソを吐くといずれバレるからな、そうなったらお前は泣きながら、苦しみながら死ぬことになる。慎重に答えろ。」
「む、昔からの知り合いだ・・そ、それに多少、便宜は図っている。」
「だろうね、金の出所はこの楠木だな。」
「・・・・」
「そうか・・。黙ってりゃ嘘吐いたことにはならないってか。なるほど、やっぱり痛い思いをしないと分からないみたいだな。」
俺は市長の両足の膝から下を凍り付かせた。
「どれだけ痛くても動くなよ。無理に動くと膝から下がバラバラになるよ。そうなると、さすがの俺でも修復は出来なくなるからな。」
市長は、もう言葉を発することさえ出来なかった。
「さ、今度は膝から上いくよ。言っておくけど、ここからもっとキツくなってくるよ。全ての神経が凍ってしまうんだ。どこまで我慢できるかやってみる?」
途端に市長の顔が強烈な苦痛で歪んでいく。
「がっ、ぐ・・・が、わ、わかった・・言う・・」
「よし、素直でよろしい。じゃあ、俺に話したあとは警察で同じことを正直に話せ。これは俺とのSBとの約束だ、いいな。」
俺は少しずつ慎重に市長の足を解凍していく。凍らせるのは簡単なんだけどね、元に戻すのは結構難しい。やれるけど。
俺は少し考える。果たして、このばか息子には刑事罰だけでいいのだろうか?
俺はようやく泣き止んだ馬鹿息子に軽く蹴りを入れ、こちらに集中させた。
「おまえさ。ごねて刑の確定までに時間かけると、その分、苦しむことになるからね。拘置所でも警察署内でも、俺の命令を喜んで聞く奴等はごまんといる。そいつ等に頼んで、おまえの事を徹底的にイジメてもらうからな。それこそ死ぬか狂う一歩手前までな。あ、もし保釈なんかされたら、もっと苦しい目にあう。どういうことか分かる?」
馬鹿息子はぶるぶる震えたまま、もう俺の顔を見ようとしない。
「あと、市長とこいつの父親もだ。あとで確認しに来るからな。それと本庁の本川ってヤツは、そのくらいじゃ済ませない。警察の風上にも置けないヤツだし、相応の罰を受けてもらう。」
その後、俺はその場を離れたが、こういう事案って結構多いのかもなあ、どうするかなあ、なんてことを考えた。まあでも今回のことがある程度公になれば、なんかあったらまた連絡があるだろう。
そのときに解決すればいいか。
さ、帰って美味いもん食って寝よう。
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