第一部 目覚めと制裁 第七話
お灸が効いたのか、それからの動きは驚くほど速かった。
なんだ、政治家とか官僚とか、やれば出来るじゃん。今までってわざとゆっくりしてたの?
なんだかんだあって、いじめ対策室は無事、開設された。担当者は、相談とかアドバイスとか一切無しで、上がってきた連絡を迅速に正確にSBに報告するだけ、とあって応募者がたくさん出てきて人選に困らなかったのも大きい。
まあ、例によって、有識者と名乗る人たちとか教育者とか、評論家さん達までがこぞって反対の声を上げていたが、全て無視された。
当然だ。自分ではなんの責任も負わず、有効な解決策の一つも提示できない奴等の言うことなんて耳を貸す必要さえない。
それに、SBを恐れてそこまで強い論調ではなく、どうなんでしょうねえ?と言った話し方をしていたので、そもそも説得力に大いに欠けていたのは否めない。
SNS発信後の反響は凄まじかった。
最初に、半信半疑で連絡してきた中学生が、その後3,4日で
「問題は全て片付きました。もう、びくびくしながら学校に行くことは二度とありません。SB様、ありがとうございます!」
と感謝の投稿がされたあとは、もっと凄かった。
ただ、調子に乗って、イジメではなく単に勘違いであったり、逆にイジメている奴がイジメられている者を通告したり、あれだけ注意したにもかかわらず虚偽の報告をあげてきたり。
もちろん、そんな奴等をSBが放っておくはずもなく、特にイジメの逆バージョンの奴等は徹底的に絞られた。なかにはそれ以降、姿が見えなくなった者もいたが、例によってニュース沙汰にはならなかった。
「なんだかなあ・・。日本の名だたる政治家や教育者が何十年かかっても出来なかったのに、SBさん、あっという間に解決しちゃいましたねえ。」
しみじみと武島が言う。
確かに、それは同感だ。方法はともかくSBはイジメ問題という超難問をいとも簡単に解決してしまったのだ。
「まあ、表面だけ取り繕って裏で、とか、SBさんには通用しませんからねえ。」
そう言えば、と思い、町田が武島に尋ねる。
「よく報復とかなかったね。例えすぐじゃなくても、あとでじっくり報復のイジメをするとか、場合によって怒りにまかせて命まで奪うとかさ、なんかありそうだと思わない?」
すると武島は、よくぞ聞いてくれた、とばかりにニヤッと笑って
「大阪の岸田高校のこと、知りませんか?」
「岸田高校?いや、聞いたことないな。まあ、余りにもたくさんあり過ぎて聞き流してしまったのかもしれないけど。」
「そっか。じゃあ、その内容聞きたいですか?」
そう言われると聞きたいような・・でも、こいつがこんなふうに言ってくるってことは、聞いたら確実に後悔しそう。
聞いちゃうけど。
岸田高校在籍のA君は、同じクラスのB、C,D、Eに相当酷いイジメを受けていたらしい。それも毎日で、A君はもう少し遅かったら自殺していたとのこと。高校生とは思えないような内容のイジメで、全身にタバコの火を押しつけられるのは序の口で爪の間に針を入れられたり、肛門に大人の○具を突っ込まれたりと残酷極まりないものだったそうだ。
A君は、意を決して対策室に連絡し、その後SBと直接話して全てを打ち明けたらしい。その後、SBはすぐにその4人を別の場所に連れ出し、徹底的に躾けを行い、二度とA君に接触しないように誓約書まで書かせた。
だがそれでも主犯格のBは、口先だけの謝罪はしたが反省の色が薄かったので、SBはその場を去ったふりをしてしばらく様子を見ていたらしい。懸念していたとおり、BはA君を学校帰りに待ち伏せして学校外の不良達4人とで拉致し、本気で嬲り殺しにしようとした。さすがに付き合った奴等のうち二人はBを止めようとしたが、他の二人は逆にBを煽るようにして、3人で笑いながらBをなぶり殺そうとしていた。
そこでSB登場である。腰を抜かしたBとは別に、SBを知らないその二人は怒りに任せて殴りかかったが、その一人がSBにガシッと首を掴まれ人差し指を右目に深く突き刺された。凄まじい声で叫び喚くそいつを放って、残る一人を地面に押さえ付け何処かからか取り出したガスバーナーで、今度は左目をゆっくりと焼いてドロドロに溶かした。他の殺人を止めた二人は余りの惨状に失禁してしまったが、腕を折られただけで済んだようだ。SBにも多少の温情はある、ということか。
そして、最後はBである。SBは激怒していた。
SBの余りにも残虐な行為を見て泣いて謝ったが、それで済むはずもなく、彼は両腕の肘から先の皮膚を剥がされ、無理矢理、高温の塩水に浸けられた。あまりの痛さに大小便を漏らしながら、地獄のような激痛に泣き叫ぶBをSBは笑いながら見ていたそうだ。1分で塩水から腕を取り出し、10秒置いてまた1分間、それを30分くらい続けたそうだ。Bは気が狂う寸前だったようで、終わったあとも自宅から一歩も出ることが出来ず、廃人になってしまったのではないかと言われている。
・・・あーあ、ほらー・・やっぱり聞かなきゃ良かった・・・
話した武島も、想像してか顔色が悪い。
「で、A君はその内容をSNSに脚色なく投稿したんです。」
そ、そっか、そんなことがあったのか。そりゃ誰ももう、二度とイジメたり報復したりはしないよな。ははは・・・。
転属願い、出そうかな・・・でも、SBが承認してくれるかな・・
なんか泣きそうになってきた・・
しばらくして武島は、ふと、何か思いついたように、
「イジメって、日本だけの問題ではないですよね?」
「ん?まあそうだろうな。我々の耳には入って来なくとも、どこの国でも、どの民族でも起こりうることだと思うぞ。」
「ですよね。だとすると、SBさん、この成功を引っさげて海外に行っちゃうんじゃ。」
あ!・・ほんとだ!それはあるかも。も、もしそうなったら心安まる日常が戻ってくる・・かも。
「でもあれかあ。今度はいつ転移するか分かんないですもんねー」
うっ・・それ、忘れてた。ということは、しばらくはこのままってことね。ふう、分かりました。わかりましたよ。
町田は一気に全身の力が抜けて椅子に座り込んだ。
「え!イジメ対策室に電話した!?な、なんでそんな事を・・私たちの誰が、いつ、そんな事をした?君は何を勘違いしてるんだ?」
「はあ?した、じゃないっすかあ。俺がやってた仕事を途中で取り上げて他の奴の手柄にしたり、会議に呼んでくれなかったり、皆んなでコソコソ俺の悪口言ったり。あとは仕事中やお客さんとの電話中に威圧してきたり。」
「そ、それは君の方に問題があって」
「はあ?なんで俺なんっすかあ?俺じゃなくて、あんたや他の人たちが使えないんっすよ、わかってますかあ?おまけに最近は俺のプライベートな事にまで口を挟んできて。ほんと迷惑なんすから。」
「ご、誤解だ。俺や皆んなは良かれと思って・・」
「なーにが、良かれと思って、だ。まあ、もういいっすよ、近いうちにSBがあんたらを懲らしめに来てくれるみたいだしねー。」
茶髪の襟首まで伸びた髪を掻き上げながらその男はニヤニヤ笑っている。そしてその部屋にいた他のメンバーは顔色が徐々に青ざめてきた。
「・・SBさんは、いつ、こちらに?」
「知らねぇよ。いつ来るか具体的な日にちはあとで連絡が来るって言ってたからさ、あ、もう近くまで来てたりして。きゃは。さあ、あんた等、SBに何されるかなあ?いやあ、楽しみ楽しみ。あ、梨花ちゃんだけは許して上げてもいいよん。可愛いからさ、俺と付き合ってくれたらSBにはちゃんと言っとくからさー」
呼ばれた梨花は悔しそうに唇を噛んでいる。
「あんたこそ、SBさんにやられちゃえばいいのに」
「はあ!?なんだと!この女あ、ちょっと可愛いからって図に乗りやがって。あーわかった。じゃあ、梨花のイジメが一番酷かったって言っとくよ。この馬鹿が。SBに月でも火星でも飛ばされちまえ」
ひとしきり笑ったあとで、男は立ち尽くす他の社員を尻目にカバンを持って部屋を出ようとしたが、目の前に若い男が立ちはだかる。
「あ、誰だ、あんた?」
「こんにちはー、楠木君だっけ?SBだよ」
「え、あ・・来てくれたんっすね。サンキューっす。ちょうど良かった。こいつらっすよ、俺をイジメてたの。」
「こいつらって、ここにいる全員ってこと?」
「そうっす、全員っす。ちゃちゃっとやっちゃって下さいね。」
俺はじっと楠木君を見る。
「え、なんっすか?やってくれるんすよね、俺がこいつ等にイジメられたのは確かなんっすから」
「おまえさ、俺のこと舐めてる?」
「え・・な、そ、そんなことあるわけないっすよ。そんけーしてますよ」
「おまえ、お客さんと話すときもそんな感じか?」
「はあ?悪いっすか?俺はずっとこんなんですけど、なんか文句あるんっすか」
「知ってるか?本当にイジメられてる奴ってのはな、どいつも同じ顔してるんだよ。いつもビクビクしてたりな、元気なふりしてても目が泳いでたりな、いつも恐怖と戦ってるんだよ。で、おまえはさっきからずっとニヤニヤしてるけど、なんでだ?」
「な、なんっすか・・なんだ、結局ゴタゴタ言ってなんもしてくれないってヤツですか?それならもういいっすよ。こんな会社辞めるんで。」
「そうか。なら今すぐここで退職届けを書け」
「・・なんなんだよ、あんた。俺がいつ辞めるとか、余計なお世話なんだよ。なんだよ、全く。はいはい、俺はもう帰るからちょっとそこどいて」
「退職届けを書けと言っている」
「・・お、脅しですか、今度は。ちっ、めんどくせえな。もういいよ。どけって言っただろ」
楠木君は盛大に舌打ちをして俺の横をすり抜けようとした。
「ふうん、俺の前で舌打ちとか、いい度胸してるな、おまえ。俺、舌打ちってすげー嫌いなんだよね。その舌、今から抜いちゃうね。」
「は?なにふざけた・・ぐっ、うがっ」
直接こんな馬鹿の舌を触るのは嫌だったので、髪の毛を掴んで頭を固定してから持ってきたペンチで(これ、便利なんだよね、いろいろ使い勝手がよくて、ふふ)楠木君の舌を挟みゆっくりと引っ張った。
途端に楠木がくぐもった声にならない声を上げながら、痛みと恐怖で顔を歪めている。
「もう舌打ちしない?二度としないと誓うのならこの辺で止めてあげるけど、どうする?」
舌が引っ張られているので頷くことが出来ない馬鹿野郎は、泣きながら懸命に目をしばたいた。
「でもなあ、舌打ちって癖になるからなあ。しばらく舌が動かないようにしないとね。分かっていると思うけど、この俺に誓ったんだ、つい癖で・・って訳にはいかないんだよ?」
俺は楠木君の舌を挟んだまま、ペンチを固定した。
「良かったね。これでしばらくは舌打ちしようと思っても出来ないよ。ほら、誓っちゃったからさ、もし舌打ちしちゃったら、おまえの首を切り落とさなきゃいけなくなるからねー。」
楠木君はもう何も反応せずにぶるぶる震えていた。
「皆さん、こいつ、俺が預かってもいいですか?」
SBは楠木の髪を掴んだままその場にいるメンバーに聞いた。
「ねえ、聞いてるんですけど、そこの偉そうな人、どうなの?」
「い、いえ、私は、あの・・」
「そっか、そりゃそうだよね。俺が悪かった。あんたの言葉一つでこいつの命がかかってるんだもんな。簡単には返事できないか。」
俺は、舌にペンチをぶら下げたままの楠木君を見て
「ごめんな、あんたにこいつの命の責任を負わせようとかしちゃってさ。こいつは俺自身の責任で預かることするよ、あ、返事はいらないから、皆はそのままでね。じゃあ行こうか楠木くん」
楠木は、はっとしたように俺を見ている。
「おまえの父親のところに行くんだよ。」
人間の目ってのは面白い。こいつは何も話せないが、目が必死で拒絶している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます