第一部 目覚めと制裁 第二話
後ろの席に固まっている連中は先生の言葉に一切耳を傾けることなく3,4人で集まってガヤガヤと話している。耳を澄ますと、
「大木は?」
「さぼりなんじゃないの?」
「あ、今日、何曜日だ?」
「火曜だけど・・あ、そうか。あいつがサボるの月曜だった。」
「だろ?なんかあったのか?」
「知らねー。」
なんだか馬鹿な会話してるなあ。とは思いつつ、確か大木って今朝、俺に絡んできたやつかな、と考える。
なるほど。類は類を呼ぶ、ね。
この3人の中に俺に上履きを投げたヤツもいるんだろうな。そうやって彼らをじっと見ていると、一人がこちらに気づき、一生懸命怖い顔を作って俺を睨んできた。
俺がその顔がおかしくてにやにやしていると、
「先生!トイレ行っていいですか?」と言って席を立った。
先生が、しょうがないな、行ってこい、と答えると
「先生、なんか小林君もトイレ行きたそうにしてるので一緒に連れて行きまーす。」
そいつは先生の返事も聞かずに俺のところに来て、耳元で「一緒に来い」と小声で言ってから俺の腕を引っ張って教室から連れ出した。教室のドアが閉まる瞬間に、
「あ、俺も行きます。」「あ、俺も」と言って、残りの二人も出てきた。
なんともまあ、オツムの程度が知れるというか、テンプレ過ぎるというか・・なんか情けなくなってきた。
それに、あの先生もひどいもんだ。生徒の勝手な行動に注意一つしない。それか、もしかするとアイツらに俺がやられるのを期待しているのかも。ま、いいけど。
前を一番偉そうなヤツが歩き、残り二人で俺の両肩を逃げられないようにぎゅっと掴んでいる。
逃げねーよ、ばか。と思いつつ面白いので黙って着いていく。
なんか、こんなのと付き合っていたら俺まで馬鹿になりそうで、ちょっと怖い。
教室を出て廊下を真っ直ぐ進むと階段があり、それを二階分くらい登ると、おそらく屋上に出るであろう鉄の扉があった。先頭のやつはズボンのポケットをごそごそやっていたが、あった、といって鍵らしきものを取り出しドアの施錠に突っ込む。
屋上のドアの鍵って、生徒が持っててもいいのかねえ、と思いつつ黙っておく。
ドアが開くと、横の二人が「おら、出ろ!」と俺を小突いた。
少し遊んであげようかとも思ったが、なんか妙にダルくなってきたので、早めにケリをつけようかな、と。
ドアが閉まったのを確認後、一人が俺を倒そうと思い切り押してきた。そいつは俺がビクともしないので、押した反動で自分がひっくり返ってしまった。どこまでバカなんだか・・。
俺は目の前に立ってにやにやしている男につかつかと近づいていき、左手でそいつの襟首をシャツごと掴んで持ち上げた。そのまま屋上の金網を右手で掴んでガシャガシャと壊し、そいつの襟首を持ったまま屋上から突き出した。
もちろん、俺が手を離せば真っ逆さまに落ちていく。
「ぐっ、ぐぐぐっ、は、はなせ・・」
やっぱりね。そういうと思った。
「わかった。離してあげるよ。その前にちょっと下を見てみて。」
まあ、俺がしっかりと襟首を掴んでいるので視界が狭いとは思うのだが、それでもそいつは懸命に首を動かしなんとか下を見ることができた。その途端、彼は驚愕のあまり目を見開き、慌てたように俺の手首を必死で掴んだ。
「じゃあ、離すよー。」
そいつは顔を真っ赤にして俺の左腕を必死で掴み下を覗きながら
「あ、あ、やめ・・あ」
と、意味不明な言葉をつぶやいている。
やっと自分が置かれている状況を理解してくれたようで俺は少しだけ満足する。
残った二人は慌てて
「や、やめろ!はなせ!」
相変わらすこの状況を判断できないバカが叫んでいる。
俺は首を掴んでいる手を少し緩めて、「ほら、お仲間が離せって言ってるよ。君、嫌われてるんだねー。わかった、離してやるよ。」
俺が言うと、さっき叫んだのとは別のヤツが、
「ばか!今、離したら今井がここから落ちるんだぞ!」
そいつは、俺の方を見て、少し悩んだすえに
「な、なあ、俺たちが悪かったよ。もう勘弁してくれ。そいつをこっちに渡してくれないか?」
俺が黙ったまま、そいつをじっと見ていると、
「あ・・、その、本当にごめんさない・・もう二度とおま・・あんたには絡まないから、そいつを助けてあげてくれ。なあ、頼むよ。」
ふうん、少しはまともなことも言えるんだ。
俺は襟首を掴んだままのヤツを屋上内に戻し、ドアのところに投げつけた。どかっと凄い音がして、そいつはドアにぶつかりバウンドして下に転がった。息はしているみたいだから死んではいないだろう。まあ、骨の2,3本は折れているかもしれないけど。
「で、君たちはどうするの?」
俺が驚愕のあまり固まっている二人を見ていると、さっきの一人が
「おまえ、ホントにカスケンなのか?」
「・・カスケンってなに?俺、その呼び方、すげえ嫌いなんだけど。」
するとそいつは慌てたように
「あ、す、すまん。小林・・くん・・。」
「そっちの君は?なんかさっきから俺のこと睨んでない?」
俺がじっと見ていると、そいつは悔しそうに目を逸らして
「飯島さんに言ってやるからな。おまえ、死ぬぞ。」
虚勢ってことは分かってるけど、なんか気分が悪かったので俺はそいつに近づいて首を掴み、人差し指と中指をV字にしてそいつの両目に突きつけた。
「目、潰すよ、そんな生意気なこと言ってると。」
最初は力任せに抵抗していたそいつの顔が徐々に恐怖で青ざめてくる。
「我慢強いねえ。でも、このまま何も言わないと、この指さ、目を潰したあと脳みそまで届いちゃうよ、いいのかな?」
「わ、わかった、わかったからもうやめてくれ!」
俺は睫毛に触れていた指を少し離し、
「さっき君が言ってた飯島君て、どこにいるの?確か君、俺が死ぬって言ってたよね。」
え、とそいつは驚きで目を見開いた。
「要するにあれでしょ?その飯島君ってのが君たちのボスなんでしょ?怖い怖い。そんなに喧嘩強いんだあ。」
そいつは今度はぶるぶると震えだした。ようやく自分が何を口走ってしまったか理解したようだ。
「じゃあさ、許してあげる代わりに、その飯島君のところに連れていってよ。探すの面倒だから。」
後ろを振り返ると、最初に俺に謝ったヤツが倒れたヤツを介抱していた。
「ねえ、君たちも一緒に行くんだよ、分かってるよね?」
俺がそう言うと、そいつはまた固まったように動かなくなった。
「い、いや・・俺は・・」
と、なにか気付いたように
「そうだ。俺はこいつを保健室につれて行くから」
急流で藁を見つけたように、か細い声でそいつが言った。
「え、そうなの?めんどくせーな。もう殺しちゃおうか、そうすりゃ保健室なんか行かなくてすむよ、ねえ、どう思う?」
そいつは情けなさそうに半笑いで、
「ころ・・そ、そんなこと言わないでよ・・これでもこいつは俺の友達だからさ。頼むよ。」
まあ、俺も鬼じゃないしなあ・・そこまで言われるとちょっとなあ・・。
「まあ、いいや。その代わり、そいつに言っとけ。今度、俺と会ったときは必ず頭を下げて挨拶しろって。わかった?」
「あ、ああ、わかった。言っておくよ・・それで、そいつは?」
俺が首を掴んでいるやつを見て尋ねてきた。
「あ、こいつ?こいつはもう少し付き合ってもらうよ。飯島君に会わなきゃいけないしね。」
「あ、あの、その飯島君だけど、確か兄貴がいて、その人、半グレグループの結構えらい人だって言ってた。あんまり関わらない方がいいと思うんだけど・・。」
ほお。それは凄くいい事を聞いた。暇つぶしにはもってこいだ。
「わかった、ありがとね」
俺が嬉しそうにしているのを見て、そいつは呆れたような表情をしていた。面白い。
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