第3話

お母様は娼館で働く、街一番の美人だった。


どんな男の人をも虜にしてしまう魔性の女、なんて言われているけど…


その功績の一部に実は私の協力も入っている。


昔から私は植物が大好きで、たくさん触れてきた。


平民の私たちでも入れる図書館が街中にあって、本の虫になったようにたくさん齧りついては頭に入れた。


やがて知識だけでは物足りず、私は草や花を使ってお茶タイプの薬を作るようになった。



なぜか植物を見ていると表情や揺れ方で植物が何を伝えたいか分かる気がして、毎日庭の植物たちに声を出して話しかけていたし、周りからはからかいの意味も込めて″植物博士″と呼ばれていた。


会話ができるから花を咲かせることも得意だった。


お母様へ渡していたのは、閨房薬(けいぼうやく)と呼ばれる相手をその気にさせる、いわゆる媚薬と、よく眠れる薬。

薬と言っても、茶葉に混ぜてお茶として飲ませるんだけど。

この二つさえあれば、あとはお母様の美貌と技術でうまく籠絡できるんだとか。


お母様は、避妊が失敗したときに私を身籠ったんだけど、相手はただのお客さんだから特に結婚や金銭を要求するつもりもなく、娼館と協力して私の存在を隠した。


お店側としても、お母様を失う痛手は大きいとのことで体調不良ということにして一年ほどお休みをもらい、その間に出産。


売れっ子だったから乳母とメイド1人を平民にも関わらず雇えたので私は何不自由なく幸せに暮らした。


お母様からは愛されていたし大事にされて育った。


私のことを娼館に売るつもりはないけれど、美しい平民に育てたあとは金持ち貴族に嫁がせてお姫様のようにすることを目標に頑張ってくれた。


そしてそのターゲットとなった貴族は男爵家の一人息子。


あまり身分が高いと淑女としてのこちら側の教育が大変とか、皇太子妃なんて殺されるリスクもあるしということで、男爵家を勝手に選んだ。


男爵といっても、ものすごくお金もちで、さらに男爵夫人は出産のときになくなったこともあり嫁姑問題が皆無だったことも好都合だったらしい。


私が10歳になる頃から、2つ年上の男爵家の息子であるオリバー卿と知り合った。

どんな方法を使ったのかは知らないけど、お母様がなんとかした。


晴れていい友人関係を築けて14歳になる今日、私はオリバー卿と婚約と共に男爵家に住むことになった。


お母様とは別の家で暮らすことになるけど、実はお母様は、ずっとお母様がお慕いしている人と一緒になれるようで、母子共に幸せになれるの。


どんな方かは教えてくれないんだけど、長い間娼館で支援し続けてくれたお金持ちの貴族らしい。


ずっと私を育てながら仕事も頑張ってくれたのだから、お母様の恋を心からお祝いしたい。


まあ、私と卿の間に恋や愛なんてものはなく、私たちはそれぞれに秘密を抱えているんだけどね。

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