第7話 街の光と影

森を抜ける細い道を、エラとピエールは並んで歩いていた。

月明かりはわずかに差し込むが、木々の枝が覆いかぶさり、地面には濃い影が広がっている。


やがて視界が開け、二人の前には初めて目にする街が広がった。

川が静かに流れ、花々が咲き誇り、風車がゆったりと回る。その光景は、屋敷の窓から眺めていた夢のような世界に似ていた。

エラは思わず息を呑む。

「……こんなに、綺麗な街だったんだ」


だが、幻想的な景色の中に、異質な存在が目に飛び込む。

整然と歩く人々の列——灰色のマントに身を包んだ一団が、民衆の前を行進している。

民衆は一様にその行列に手を合わせ、敬虔な表情を浮かべていた。


「……あの人たち、何をしているの?」

エラは小さな声で呟く。

ピエールもその列を見つめ、眉をひそめる。

「わからない……でも、目を離さないほうがいい」

彼自身も、この街の秩序や人々の動きの意味を完全には理解していなかった。ただ、直感が、何か不穏なものを告げていた。


エラの胸の中で、好奇心と恐怖が交錯する。美しい街に潜む影が、二人を静かに試しているかのようだった。

 


街の石畳を二人はゆっくりと歩いた。

店先には夜露に濡れた花々が並び、川面には月の光が淡く反射している。初めて触れる街の空気は、どこか懐かしく、どこか異世界の匂いを帯びていた。


「……本当に、人が住んでいるんだ」

エラは小さな声で呟く。背筋には少しの緊張が走る。


その時、遠くから再び灰色のマントの列が現れた。列は規則正しく街を巡り、民衆は神妙に頭を垂れていた。

一団の中には、目を覆いたくなるほど整った動作で街を歩く者もいる。まるで、民衆が操られているように見えた。


「……あの人たち、みんな同じ動き……」

エラの声に、ピエールはうなずく。

「不思議だな……でも、ただの祭りとも思えない」

彼自身も何が行われているのか理解できずにいた。だが、その統率された行列と民衆の振る舞いが、何か恐ろしいものを内包していることだけは、直感でわかる。


二人は影に身を潜めつつ、列の後を追った。

細い路地を抜けると、小さな広場に出た。そこでは、灰色のマントの人々が互いに合図を送り合い、民衆の目には映らない儀式のような動きを見せていた。

エラは息を飲む。初めて目にするその光景に、心臓が激しく打った。


「……一体、何なんだろう」

彼女の言葉に、ピエールはしばらく沈黙した後、静かに答える。

「……僕も、まだわからない。ただ、気をつけよう。ここは、簡単に見て回れる場所じゃない」


その言葉を背に、二人は街の奥深くへと歩を進めた。

美しい街の裏に潜む影——灰の祝福団の存在が、少しずつ二人の意識に重くのしかかっていた。

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