第12話 稀人選別会議の予定

 『稀人選別会議』とやらに出るまでは、こちらとしてもやる事が無いので、今の時間を利用して、今後の目標、やるべき事を手帳のメモにまとめる。


 大目標を設定して、大目標を達成するのに必要な中目標を定め、中目標を達成するのに必要な小目標を定める。今のところやる事はシンプルだから、マンダラチャートを使うほどでは無いか。


 そして、気になっていたソーラー充電器が使えるのかどうかだ。部屋の窓が南向きで、ガラス越しに光が入ってきていたので、床にソーラー充電器を置き、スマホを充電できるのか確認したところ、無事充電されているのが確認できた。


 カメラ・ビデオ機能や電卓やオフラインでも使える辞典アプリなどが使い続けられるのは大きいぞ。スマホは勿論だが、このソーラー充電器も大切しなければならないだろう。



 昼食はパスタ料理だった、トマトソースに似た赤いソースだったが中々美味かった。聞いてみるとトマトと言う名前の果実らしい。厳密には同じトマトじゃないんだろうが、その辺は良い感じで上手い事翻訳されてるっぽいか? ともかく昨日の晩飯、今日の朝昼食の感じだと飯が不味くて困るという事態にならなさそうなのは良かったな。飯が不味いのは場合によっては命に関わる。


 夕方前ぐらいになって、部屋のドアがノックされた。夕食には少し早い気がするが……。


「どうぞ」


「失礼いたします」


 そう言って入って来たのは、『稀人保護機構』メルスー支部長のハイノと秘書のラウホだ。


「ああ、すみませんこんな格好で」


 出かける事もなかったので、この宿が用意した部屋着?寝間着?のままだったのだ。そこそこ肌触りは良く、カユカユになったり、湿疹が出たりはしなかった。下着もそろそろ変えたいが、シャツとパンツは一枚ずつしかないので、手洗いしてしまうと俺がフルチン状態になってしまう。


「いえいえ、問題ございません。こちらこそ突然お伺いしてしまって。出直しますか?」


「いえ、大丈夫です。どうぞ中へ」


「では、失礼します」


 そう言って、ハイノとラウホが部屋に入ってきた。部屋のソファを促すと、俺と向かい合う形で二人がソファに座った。水とか出した方が良いのかな?と思っていると、早速ハイノが切り出した。


「それで今日お伺いしたのは、昨日お伝えしていた『稀人選別会議』の件でございます」


「はい」


「昨日、ヒラガ様にお伺いした情報を中央へ上げたところ、ヒラガ様は稀人と正式に認められまして、早速『稀人選別会議』を行うべし、ということにあいなりました」


「なるほど」


「それで開催日なのですが、予定では三日後の金曜日となりました。ここメルスーの稀人保護機構の会議室で行われます」


 月曜日の朝から出張し、その日の夕方こちらの世界へ迷い込み一泊したから、今日は火曜日なはずだ。こちらの世界でも火曜日だったらしい。昨日聞いたが、こちらの世界でも曜日は日月火水木金土だそうだ。もっとも、翻訳でそうなっているのであって、全然別の意味合いの言葉だったりするのかもしれないが。


「随分早いですね。そんなすぐに人が集められるのですか?」


「ブリュッケン帝国には星晃鉄道がございますので、よっぽど辺鄙な所にいない限りは問題ありませんよ。ここメルスーにも鉄道駅がございますので。そこからは自動車なり馬車で移動すればすぐですな」


 おお、この世界には鉄道と自動車があるのか! 星晃鉄道という名前からすると、星晃というエネルギーで動く鉄道なのだろう。自動車ももしかしたらそうなのか?


「稀人様の案件は最優先事項ですからな。昨日申しました通り、稀人選別会議の結果がどうなろうと、今後の生活については完璧に我が稀人保護機構がサポートいたしますのでご安心ください」


「会議では質問されたりするような感じですか?」


「ええ、稀人様に恫喝のような酷い事をする輩は絶対におりません。もちろん、我々稀人保護機構の職員も立ち会いますので、ご心配なさらず」


 ……就職の面接みたいな感じだろうか?


「そんなに厳しい会議にはなりませんので、気楽な気持ちで参加いただければと思います」


 まあ、就職するわけでもないからそこまで心配しなくても良いのかな?


「とりあえず分かりました。それまではこの宿にいる感じですか?」


「そうですね。もちろんですが、メルスーの町を観光したいとか要望がございましたら対応いたしますよ。女性については本当に不要ですか? 求められる方が結構いると記録されておりますが」


「観光は今のところはいいです。あと、昨日言った通り女性は不要です」


 そう答えると、ラウホがヒソヒソとハイノに耳打ちをする。少しして、ハイノが苦い顔をしながら俺におそるおそる尋ねてきた。


「その……大変失礼ながら……、女性よりも男性の方がというわけでは……? そうであれば対応いたしますが……」


「違います!! そっちの趣味は無いです!!」


「失礼いたしました!」


 そう言って、ラウホとハイノがお辞儀をした。まったく、勘弁してくれ……。


「昨日は言いませんでしたが、実は地球に婚約者がおりまして。ですので、別の女性にという気はないのですよ」


「左様でしたか、これは失礼しました。では、向こうへ戻りたいとおっしゃっていたのも?」


「ええ、もちろんそれもあります」


「なるほど。あれからメルスー支部の資料を探してみたのですが、やはり元の世界へ戻る術などを記した資料はございませんでした。メルスーに訪れられた稀人様は全員、この地で生涯を終えられたようです」


「そうですか……」


「お役に立てず申し訳ない」


 ハイノは申し訳なさそうな顔をしている。うーむ、演技には見えないが……。


「いえ、探して頂けただけでもありがたいです」


「話が逸れましたが、稀人選別会議までは不自由をおかけするかもしれませんが、ここに滞在いただくということでお願いいたします」


「分かりました」


「ありがとうございます。先ほども申しましたが、何か必要な物や要望がございましたらすぐにお申し付けください。では、我々はこれで」


 そう言って、ハイノとラウホは立ち上がって俺にお辞儀をした。そのまま二人は部屋から出て行った。


 とりあえず『稀人選別会議』までは待つしかないようだ、こちらの世界に慣れる意味でもゆっくりさせてもらうとしよう。

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