流転し改めるーStreamー

真っ直ぐな眼

 その明るさは太陽の如く、彷徨う心に道を示す灯火そのもの。


 誰よりも彼女は前を向く、だが彼女自身もまた灯火を求め、それでも誰かの為に手を伸ばす。



ーー


 イリアの祭壇にて遭遇した謎の男シリウスの指名もあり、エルクリッドはぐぐっと腕を伸ばして両頬を軽く叩き深呼吸。まっすぐシリウスを捉えつつ、祭壇とその周囲の地形を改めて確認する。


(左右は滝が流れる天然の壁、でも隙間があるから落ちればただじゃ済まない。広さはある方だけど、走り回るのはちょっと難しいかな)

 

 エルクリッドが分析した事は見守るシェダとリオも同じように思うこと。狭くはないが走り回ったり、大きく距離をとって切り返すのは難しい。

 何より滝の方へと落とされれば復帰は難しく、底知れぬ滝壺へと落ちるしかない。幸い上方へは天井がなく空が見えているのもあり、飛行能力があるアセスは比較的自由に戦えるだろう。


 沈着冷静で表情一つ変えないシリウスはさっと素早く左腕に巻くカード入れよりカードを引き抜き準備完了、エルクリッドもふーっと息を吐きつつカード入れに指をかけ、まずはどう戦うかを考えつつアセスを選ぶ。


(あんま走り回れないけど、まずはダインから……かな。お願いできる?)


(ばうっ!)


 威勢の良い返事にエルクリッドも笑みを浮かべながらカードに魔力を込め、闘志宿る眼で前を向きながらその名を高らかに叫ぶ。


「出番だよダイン!」


 カードより召喚されるチャーチグリムのダインがエルクリッドの前に現れ、尻尾を振りながらエルクリッドに鼻先を寄せ撫でられてからシリウスの方に向き直りぐっと足に力を入れ、いつでも飛び出せるようにと構えた。

 と、エルクリッドとダインはシリウスがこちらを見つめているに気づき、その視線を受けてすぐにカードに魔力を込める。


「聖なる牙をもって敵を討て、ダン」


 静かに闘志を強めたシリウスが召喚するは金の円環を背負いし白き獣。それがダインと同じチャーチグリムと気づいてエルクリッドは少し目を大きくし、それは見守るノヴァも同じ。


「同じ魔物……? でも……」


 エルクリッドのダインに目をやり、それからシリウスのダンに目を向けてを繰り返すノヴァが思うのは同じ魔物ながら、その体格や顔つきの違いだ。

 ダインの方がやや小柄であり、ダンの方が大きく背負う円環も大きい。その差異について静かに語りつつ、目を細め汗を流す。


「アセスとなった魔物や精霊は少しずつリスナーの影響を受けながら、戦いを通して変わっていきます。あの二人のアセスも同じ……これは厳しい戦いになるでしょうね……」


 アセスの強さは種族としての強さ以上にリスナーとの繋がり、数多の戦いを経て研鑽されてきた経験が大きい。

 同族であるならその差は大きく出てくる。エルクリッドのアセスとなって日が浅いダインもそれを感じてか、耳を垂らし尻尾を丸め数歩下がってしまう。


「大丈夫、あたしがいるから」


 ダインが顔を上げた先にはエルクリッドが目を向けながら微笑む姿があった。恐れがないわけではなく、しかし前へと進む強い意志を秘めた眼差し。

 優しくも迷いのない言葉もまたダインの心を奮い立たせ、臨戦態勢へと導くには十分すぎるほど。そのやり取りは相対するシリウスも思わず感心し、そして、まっすぐこちらを捉えるエルクリッドに何かを感じていた。


「力の差をわかってて挑むのか」


「そんなのやってみなきゃわからないでしょ。強い相手に挑んでこそ、あたしの目指すものはある」


 退く意志はそこになく、あるのは迷いのない真っ直ぐな眼と秘めた思い。

 それを見て何かを確信しつつもそうかとシリウスはカードを引き抜き、エルクリッドも同様にカードを抜く。


 滝の音が涼風と共に流れ、刹那、微かに風向きが変わると共に二体のチャーチグリムが駆け出し、ぶつかり合う瞬間にダンがダインの頭を前足で押さえつけそのまま動きを封じ込めた。

 もがくダインが何とか脱し牙を剥くがあっさり避けられ横っ腹に体当たりを受け飛ばされ、すかさずエルクリッドが守りに入る。


「スペル発動プロテクション!」


 薄い膜がダインを包み込んで倒れた石柱との激突から守ると共にダンの追撃を封じ、だが一度の攻防で力の差が明確になった事でエルクリッドは思考を張り巡らせ次のカードをなぞった。


(体格差はほんの少し相手が大きいだけ……まだ相手のカードもわからないから迂闊なことはできないけど……)


 プロテクションのカードは基本的なスペルであるので相手に知られても問題はない。が、逆に相手より先に手持ちのカードを晒す事になるのをエルクリッドは考えざるを得ない。

 バエル程の圧倒的な強さは感じられないが、シリウスとそのアセスは今の自分よりも強いとすぐにわかったから。


「ばうっ!」


「うん、わかってるよダイン。気を取り直して行くよ!」


 体を起こすダインに答えるエルクリッドの眼差しは真っ直ぐで、とても眩しく輝く。それが美しく艶やかに、だがそれ故の脆さもシリウスは見えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る