最初の実戦
あたしとクロトは一言も話すこともなく、ただ黙々と薬草収集をしていると、それは起こった。
「きゃーー……っ!?」
どこからともなく悲鳴が聞こえてきたのだ!
「クロト……!」
「ルーナお前も聞こえたか……っ!」
「うん!誰かが危険な目に遭っているのかも知れないわ!行くわよクロト!」
「ああ!確か悲鳴が聞こえてきた方向はこっちだっ!」
あたし達はすぐさま立ち上がると、声のする方へと走り出した。
森の中をそう遠くない距離を走った頃、あたし達のすぐ前にオレンジ色の髪に三つ編みをした5歳くらいの小さな女の子と、それを襲おうとするフクロウ……というよりは、ミミズクに近いような頭をした身長3メートル程の大きな熊のような化け物の姿があった。
「な……何あの化け物……」
「オウルベアだ……!」
「オウルベア……?」
「そうだ!見ての通りフクロウの頭を持つ熊の魔物だ!普段はもっと森の奥に生息している筈なのだが……」
クロトの疑問を他所に、女の子は恐怖のあまり腰を抜かしてしまっているようで、その場に座り込んでしまっている。
このままじゃあの子が危ないっ!
あたしは咄嗟に腰に差した剣を抜くと、オウルベアの前に立ちはだかるように剣を構えた。
「ここはあたしに任せてあなたは早く逃げなさいっ!」
女の子に向かってそう叫ぶも、女の子は座り込んだまま身体を恐怖で震わせるばかりでその場から動こうともしない。
このままじゃ危険だわ……!
「ルーナっ!」
「クロト!あたしよりもその子を早く安全な所へっ!」
「しかし……!」
「良いから早くっ!」
「わ……分かった!」
あたしから遅れること少し、クロトが走ってきたので彼に女の子を託すと、再びオウルベアへと目を向けた。
「さて、オウルベア!あたしが相手よ……っ!!」
勇ましく発したあたしの言葉とは裏腹に、あたしの手足はガタガタと震えていた。
それもその筈、あたしは今まで木剣での訓練や試合はしてきていたけど、こうして真剣を構えての実戦経験は皆無なのだ。
木剣なら当たれば痛いで済むけど、これはそう言う訳にはいかない。
勿論オウルベアのあの鋭い爪を受ければ大怪我を負うだろうし、最悪死ぬことだってあり得る。
そう思うと急に恐怖に包まれ、まるで身体が鉛になったかのように重く、そして石になったみたいにピクリとも動けなくなり、手に握る剣もカタカタと震えだす……。
(怖い……)
さっきまでの威勢が嘘のように、いつしかあたしの顔も強張り、目の前が段々と暗くなっていく。
そんなあたしの隙を見逃すオウルベアではなく、丸太のように太い腕を振り上げると、あたしへと目掛けその鋭い爪を振り下ろしてきた!
(だめ……!やられる……っ!)
あたしはその場に立ち竦んだまま思わずぎゅっと目を閉じた。
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